Episode:147
「まったく。その調子だから、今回のような話が起きても気づかないのでは?」
「まぁそれについては、あたしの責任だわね。もちろん、相応のお礼はさせてもらうつもりだけど」
「お礼、ですか」
口ではそう言っているが、いわゆる「お礼」ではないはずだ。
(何をするのやら)
相手にしたくない性格をしてはいるが、さすがにシュマーの総領なだけあって、カレアナはけして甘くない。
当の本人はタシュアの内心になど気づかない――あるいは気づかない「フリ」か――様子で、楽しげに話を続けていた。
「勝手に出かけようとしたから、とりあえず片っ端から連れて帰らせたのよね。ってもまぁ、一部ホントに出てっちゃったけど」
「……どこまで迂闊なのです」
グレイシアを見つけた時点で、首謀者が逃亡しようとするのは目に見えている。なのに対処もしないというのは、愚の骨頂だろう。
だがタシュアの視線に気づいたカレアナが、いたずらっぽく笑う。
「別に、逃がしてないわよ? 出てっちゃったけど」
「似たり寄ったりでしょうに。出さないようにすべきところを取り逃がしておいて、何を言っているのです」
「だって」
口を尖らせて言う様子は、まるで子供だ。
「それじゃ面白くないじゃない」
「面白い面白くないで行動を決めてどうするのやら。それでよく、いくらシュマーとはいえトップに立てますこと」
「それとこれとは関係ないでしょ」
本当にこれで一児の母で、シュマーの総領なのだろうか? ルーフェイアが嘆くのも、さすがに分かろうと言うものだ。
「っていうかさ、ホントに面白くないじゃない。どうせやるなら、せめて期待くらいさせてあげなきゃ」
「――先ほどと話が違いますが」
最初カレアナは「出て行った」と言ったはずだ。だが今言ったことが本当なら、「出て行かせた」ということになる。
「シュマーにとって人類の言葉は難しいのかもしれませんが、きちんと言って頂かないと意味が通じません」
「いつもこれで通じるからいいのよ」
またワケのわからないことをカレアナが言い出す。