Episode:146
◇Tasha side
(……まったく)
それ以外言葉が思いつかなかった。
何をどう言い表したらいいのだろう? ともかく面白くない。連中のやらかしたこと、自分がここにいること、グレイシアの結末、どれ一つとして気に入らなかった。
まぁそうは言っても、身動きが取れないのだが。
出来たらすぐにでもここを立ちたいが、足となる船が無いのだからどうしようもない。一応飛行型の精霊――実体化させれば背に乗って飛べる――は持ってきているが、さすがにここからケンディクまでは距離がありすぎた。
グレイシアの亡骸は、今は用意された棺の中だ。
――小さな棺。
おそらくは、大人の半分くらいだろう。その小ささが、余計に周囲を重くしていた。
不思議、と言ってはいけないのかもしれないが、奇妙な感覚だ。
タシュアにとって死は日常だ。シエラへ来る前はそれこそすぐ隣に在ったし、シエラでもけして無縁とは行かなかった。そして任務に出るようになってからは、また常に傍らに在る日常だ。
だがそれでも、「慣れる」ものとは違う。いちいち動じなくなるのは確かだが、好んで見たいものではない。
わけてもこういう小さい棺は――見たくない。
中に横たえられたグレイシアは、穏やかな表情だった。眠っているといわれれば、信じてしまいそうなほどだ。
だがタシュアには、それこそが怒りにつながるものだった。
本来なら、ここでこうして横たわっている子ではない。もっと何か、違う形で気ままに過ごしているべきだ。
ただそれを突き詰めていくと、「存在していなかった」可能性も高い。だが馬鹿な実験を考え付いたりしなければ、苦しんで死ぬ子が少なくとも1人減ったはずだ。
それが分かっているからこそ、腹立たしかった。
同じ部屋で、どこからか引っ張ってきた椅子にかけている、カレアナを見やる
「――首謀者が逃げたといっていましたが?」
「逃げたというよりは、泳がせてる、かしら」
「モノも言い様ですね。それで通用するのでしたら、盗んだものも正当に拝領したものに変わりそうですよ」
言い返すが、相変わらずカレアナには効いた様子が無い。
そのことにさらに苛々しながら、タシュアは尋ねた。
「船は明日、出るのでしょうね?」
「出るわよ。疑り深いわね」
呆れたような声が返ってくる。
「確認しただけですが?」
「予定が変わったら知らせるわよ」
けろりと言うカレアナを見ながら、ため息をつきたくなった。これで一児の母だというのだから、たまったものではない。