Episode:139
――何故そんなものが居るかは謎だが。
人種の差というものは確かにあるが、シュマーの“それ”はルーフェイアなどを見る限り、もっと「違う」ものだ。
人の姿をした、けれど人とは異なる者。たぶん、この表現がいちばん近い。
(何なのでしょうね……)
一般的な“ヒト”の一派から別れ、徐々に変わっていったと考えるのがいちばん妥当だろうが、それにしては差が大きい気がする。
あるいは草花や動物のように、大きく突然変異して別種と化したのか。
(こちらのほうがあり得ますか)
だがそうなると、どうやって一族として確立したのか、という疑問が残る。
そもそもが突然変異というのは、ある一体だけが起こすものだ。だから動植物なら人間が保護して手をかけ、ひとつの種として成立させる。
けれどシュマーは、誰かが手をかけたわけではないだろう。ならば何故、種として成立するほどに数を増やしたのか。
他にも飛びぬけた技術等、シュマーには本当にわからないことが多い。
ただ、タシュアは所詮部外者だ。ここで考えたからと言って分かることはなさそうだし、教えてもらえるアテもない。カレアナ辺りなら聞けば教えてくれそうだが、それでもすべてに応じるとは思えない。
要するに、肝心のところは分からないまま、ということだ。
(まぁ構いませんが)
これが分からなかったからどうなる、というものでもない。分かれば面白いかもしれないが、所詮はそれだけだ。
いずれにせよ、船の用意が出来次第帰る。それだけだ。こんな胸糞悪いところに居る時間は、なるべく短くするに限る。
グレイシアのことが少々気がかりではあるが、これはもうやむを得ないだろう。どこかで割り切るしかない。
(元気になってほしいものですがね)
シュマー特有の病気らしいが、出来るなら治ってほしいところだ。
――難しいかもしれないが。
あの研究施設で、ファールゾンという男はグレイシアを見、「何でこんなになるまで放置しておいたんだ」と詰め寄っている。
逆に言うなら、消して軽症ではない、ということになるだろう。
一応カレアナの口から、「この子は総領家」という言葉が出ているから、無碍に扱う馬鹿者は居ないだろうが、やはり他の連中が心配だ。
それともう一つ、かすかにグレイシアの表情から、死相が読み取れるのも心配だった。
病状が芳しくないが故と思うのだが、悪化して何かあったらさすがに気の毒だ。
(取り越し苦労とは思いますが……)
今までがどうであれ、これからは幸せに。
そう思いながら、タシュアは時間を潰そうと本を開いた。