Episode:138
◇Tasha side
やっと独りになり、荷物を降ろしてやれやれと思う。
(まったく、我ながらとんでもないところまで来たものですね)
よりによって、シュマーの本拠地だ。普通の人間なら一生足を踏み入れないどころか、名前さえ知らずに終わるだろう。
もっとも、船の準備が出来次第すぐに帰るつもりだった。
ここからケンディクまでは、相当の距離がある。何しろ高速艇で一気に来て、それでも足掛け5日かかったくらいだ。
明後日にならないと帰るための船が準備できないことも合わせると、帰り着くのは早くても7日は先だろう。往路も合わせると、全部でほぼ半月だ。
予想してはいたが、かなりの長丁場だった。
(ですがまぁ、仕方ありませんか)
グレイシアはあのとおり、かなりひどい虐待を受けたも同然だ。加えて具合もけしてよくない。
そういう子が安定するために付き添いが必要というなら、多少のことはやむを得ない。
――それでも、長期間居る気はないが。
どう見てもあの子の治療は、期間を要するだろう。ヘタをすると何年単位になるかもしれない。
さすがにそこまでは付き合えなかった。
グレイシアが嫌がる可能性はあるが、我慢してもらうしかない。それにカレアナ辺りはずっと居るだろうから、別段心配することもないはずだ。
部屋を見回す。
(ムダに立派ですね)
たかが寝室なのに、応接用のテーブルとソファまで置かれている有様だ。しかもこれで狭いほうだというのだから、呆れるしかない。
調度品もあのシュマーの島と同じように、贅沢なものだった。
(こんなことをする暇があるのなら、内部の監視でもすればいいものを)
そうすれば、グレイシアのような犠牲は出ていないはずだ。
ただカレアナは、気になることも言っていた。
曰く、「しないのではなく出来ない」と。
部外者のタシュアが平然とこんなところに居たら、普通はたちまち尋問なりされる。だが誰も疑問を持たず、それは出来ないのだという。
しかも洗脳ではないというのだから、余計に分からなかった。
(まぁ、考えるだけ無駄なのかもしれませんが)
今回の色々なことやカレアナの言葉から考えるに、やはりシュマーは、一般的な人間とは何か違うのだろう。
だとすれば、考えるだけ無駄だ。
犬とネコは違って当たり前だし、同じ犬でも種類が違えばまるで別物だ。シュマーも同じように違う可能性は高い。