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Episode:137

 それともう一つ、名前をもらったのも嬉しかった。

 あの水の中に居たころは、誰からも呼ばれなかった。「この子」とは言われていたが、それだけだ。


 けど後から来たあの「仲間」の人と、もう一人の人は、見る目が違った。いつもここに居る人たちとは、全く違う視線を向けた。

 言葉を知らないグレイシアには、それを言い表す方法がなかった。ただともかく2人は雰囲気が全く違って、自分を大事にしてくれるのが分かったのだ。


 だから、傍へ行こうと思った。

 こういう人たちの傍なら、何があっても平気だと思った。


 ――今は居ないが。


 何だかここに居てはいけないようで、2人と、後から来た自分に似たもう1人は行ってしまった。

 ただ、遠くはない。見えないけれどすぐ近くに3人とも居て、話しているのがグレイシアには感じられる。


 話の内容は、難しくて分からない。けれど楽しくなさそうに聞こえた。

 どうしてだろう、と疑問を持つが、その答えは見つからない。「楽しくなって欲しい」と願うばかりだ。


 周りの人たちも、グレイシアが痛かったり辛かったりするようなことは一切しなかった。絶対に痛みを与えたりしないように、そっと触れてくる。

 最初からこうだったら、どんな感じだったのだろう? とグレイシアは思った。

 もっと毎日、楽しかっただろうか?


 ただどちらにしても、もう終わりだろうと思う。

 水の中に居るときから少しずつ、自分の力が無くなっていっているのは分かっていた。

 周りに居る人たちは、それを止めようとしているらしい。けれどそれでも完全には止まっていない。今はギリギリのところで何とかなっているが、そのうちおかしくなるだろう。


 そうなったら終わりだと、グレイシアには分かっていた。

 あとは、消えるだけだ。

 他の仲間がみんな“消えて”しまったように。


 眠くなってきて目をつぶる。

 思い出すのは、あの2人のことばかりだ。

 自分と同じ姿の仲間は、とてもよく話が通じる。そしてひとつひとつ、何でも相手してくれる。


 もう1人大きい人は、「仲間」ではないから少し違うらしい。

 仲間はもちろん、他の人も考えていることがグレイシアには分かるが、あの「仲間」と来た大きい人だけは、分かり辛かった。


 全く分からないわけではないのだが、何も考えなくとも分かる「仲間」や他の人と違い、あの人だけはしっかり見ないと分からないのだ。

 だがそれでも、自分ことを大事にしてくれているのは分かった。だから出来る限り、くっついていた。


 ――けど、もう。


 眠たい頭で、グレイシアは初めて思う。

 このまま消えませんように、と。





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