表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/175

Episode:136

◇Gratia


 周りを人が動いている。

 自分に直接触れてくる。

 それがグレイシアにはとても不思議だった。


 今までの僅かな経験から知るグレイシアの世界は、自分しか居ないあの硬いものの内側と、人が行ったり来たりしているその外側、というものだ。

 なのに今自分が同じように外側に居るのが、少女には不思議でならない。


 ただあの水の中でも、「仲間」は居た。今グレイシアが周囲に意思を伝えるよりたやすく、伝え合える相手がたくさん居たのだ。

 どこかは分からない。だが互いが見たものを伝え合ううち、みんな同じような状況なのは分かった。


 違うのは、似たような水の中だがすぐ隣り合っていたことだ。グレイシア以外はみんな、仲間が見える距離に居た。

 「自分」と「仲間」と、それ以外。グレイシアの知る人の分類はそれだけだ。


 硬くてつるつるした「世界を分けるもの」には、時々自分の姿が映る。そしてそれとよく似た仲間が、やはりよく似た世界1つに1人ずつ入っていた。

 仲間とは、グレイシアはたくさん話をした。といっても言葉を知らないので、見たものや思ったことを漠然と伝え合っていただけだが。


 それでもいろいろなことが分かったし、1人でないというのはグレイシアにとって大きかった。

 ただいつのころからか、その仲間がだんだん少なくなっていって……最後には誰もいなくなってしまった。


 だからグレイシアは、自分も居なくなるのだろうと思った。いつか急にぱったり話さなくなって、消えてしまう。それと同じように、自分も消えてしまうのだろうと。


 消えてしまうとどうなるかは、グレイシアには考え付かなかった。ただ消えてしまったら、もう誰とも話せなくなるだろうとは思った。そして今もう、相手が居ないなとも思った。


 ただ時々頭や身体が酷く痛かったので、それも一緒になくなるだろうとは感じた。そしてそれなら、悪くないだろうとも。

 そんなことを考えながら漂っていたところに、「あの人たち」は突然現れたのだ。


 1人は、不思議と安心できる人。

 そしてもう1人は、仲間。自分とそっくりの、もう少し大きい人。ルーなんとかとか、グレイスとか、呼び名がたくさんあるらしい。


 いちばん不思議なのは、その仲間は「世界」の外に居たことだ。1つに1人ずつ世界に入っていなくてはならないのに、それ以外の人と同じように外を動いていた。

 だからグレイシアは、自分もいけると思ったのだ。

 そして、出してもらった。


 ただグレイシアが思っていたほど、楽なところではなかった。あの中にいたほうが、ずっと身体が軽かった。

 けれどそれでも、みんなが直接触れてくるのが嬉しい。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ