Episode:133
立ち上がって、場所を空ける。
グレイシアが心配そうな表情を見せたけど、あたしがうなずくと分かったみたいだ。
「隣に、いるから。すぐ来られるから」
そう言って、ドア一つ隔てた隣室へ行く。
母さんも付いてきて――途中で立ち止まって言った。
「タシュア、あなたも一旦こっちへ」
「彼らだけにして、平気とは思えませんがね」
「平気よ」
言い切った母さんの言葉に、タシュア先輩が一瞬冷ややかな表情になる。
隣の部屋は、さっきの部屋よりまだ広い。誰かに何かあったときに待機するための場所で、寝室も二つあるし、居間は教室くらいの広さがあった。
先輩が見回して言う。
「……贅沢ですこと」
「こうしとかないと、納得しないのよ」
母さんがまた肩をすくめた。
「まったく」
先輩が呆れた顔になった。
「まぁ、やはり通常の人間とは異なるのでしょうね。部外者の私が居ても、誰も疑問さえ持たないのですから」
「持たないんじゃなくて、持てないの」
「――ほう」
面白がる先輩に、母さんがため息をつきながら言った。
「シュマーってそうなのよ。総領家の言うことには絶対服従になってる。まぁ今回みたいな言うこと聞かないのも、稀に居るけど」
「なるほど、洗脳ですか」
「違うってば」
母さんが否定したけど、タシュア先輩は見下した顔だ。
「洗脳以外に、どうやれば絶対服従になるのです」
「本能」
あっさりした答えに、しばらく間が空く。
けど、これが真相だった。
「……やはり人間ではない、ということですか」
「一度も人間だなんて言った覚えないし」
また子供のケンカみたいなやり取りが始まった。
「ともかくね、シュマーはそうなの。あぁ、何でかは訊かないでよ? ずっと昔からそうなんだから」
「代名詞ばかりで意味が分かりませんが」
母さんの言ってることより、先輩の言うほうがずっと大人に聞こえるのが情けない。