Episode:128
船旅は順調だった。どこかで悪天候に遭いそうなものだけど、運が良くて晴天続きだ。
「そろそろ見えるわね」
「うん」
母さんと2人、舳先に立って言う。
このまま行けば、あと少しでシュマーの本拠地のある南大陸に着くはずだ。
――気が重いけど。
シュマーの本拠地は大体は大丈夫だけど、一部が想像もしたくないような人たちの棲家だ。その人たちと顔を会わさなきゃいけないのが辛い。
もっとも姉さんは母さんはしょっちゅう顔を会わせてるから、あたしなんて楽なほうだろうけど……。
ただ今回は、そういう人たちのど真ん中だ。だから想像するのもちょっとイヤだった。
そんなあたしの考えが分かったみたいで、母さんが肩をすくめる。
「ま、何とかなるわよ」
「うん……」
あたし一人じゃないから平気だと思うけど、それでも気が重い。
「あぁ、見えてきたわね」
「ほんとだ……」
世界で一番いやな場所が、どんどん近づいてくる。
見えてきたのは例の廃棄施設近くみたいな、荒れ果てた港だ。ただ船はそこには入らないで、脇の崖のほうへ回りこんでいく。
狭い岩と岩の間へ、船が入り込んだ。
「ホント、毎回よくぶつけないもんだわね」
「そりゃ、プロだし……」
母さん、なに考えてんだろう?
シュマーの本拠地はあの港からも行けるけど、だいたいはこの崖の奥だ。隙間の先が洞窟になってて、そこに船が停泊できるようになってる。
洞窟内だからほとんど波の無い水面を船がゆっくりと進んで、船着場に止まった。
「さてっと、グレイシア連れてこなくちゃね」
「うん」
見ると下の船着場に、人がたくさん並んでた。たぶんグレイシアのために、いろいろ準備してくれてるんだろう。
それを横目で見ながら、あの子の部屋へ行く。
「入っていいかしら?」
「どうぞ」
グレイシアが懐いてしまったせいで、タシュア先輩はこの部屋に詰めっきりだ。
「具合、どぉ?」
母さんの言葉に、グレイシアが笑顔を見せる。調子がいいみたいだ。