Episode:124
「――まったく。見栄を張るとろくな事が無いのが、分からないのですかね」
言いながら、ずり落ちかけたグレイシアを先輩が抱いた。
「可哀想に、驚いて怯えて。ただでさえ具合が良くないのに、余計なストレスを与えてどうするのです」
グレイシアも今のはかなり怖かったみたいで、ファールゾンの腕には戻ろうとしなかった。
「大丈夫ですよ、私が運びますから」
タシュア先輩がそう話しかけて、抱いて船に乗り込む。
「部屋はどちらです?」
「あ、こっちだ」
ファールゾンが慌てて先に立って、今度はつま先をぶつける。
「何してんのよ」
さすがの母さんまでが呆れ顔だ。
「い、いえ、急ごうとして……うわ」
今度は何も無いところで躓いてるし。
「――もういいわ。あなたの運動神経のなさ、忘れてた。タシュア、こっちよ」
結局母さんが先に立った。
グレイシアは、タシュア先輩なら大丈夫だと思ってるらしい。安心した顔で抱かれながら、船の中を不思議そうに見ている。
「ここよ。あと並びがあたしたちの部屋だから、好きなとこ使って」
母さんが案内してくれたのは、舳先のほうの一番いい部屋だった。
タシュア先輩も部屋へ入って、グレイシアをベッドに降ろそうとして――でもグレイシアが降りようとしなかった。必死で先輩にしがみついてる。
「グレイシア、降りてください。その体勢だと身体によくありませんよ」
それでもグレイシアは、降りようとしなかった。
「気に入られたわねー」
「私は腹黒くありませんからね。――グレイシア、私はこの部屋に居ますから、ベッドに降りてもらえますか?」
それを聞いて、やっとグレイシアがベッドに降りた。
タシュア先輩がそっと毛布をかける
「辛くありませんか?」
嬉しそうにグレイシアがうなずく。その頭を、タシュア先輩が優しく撫でた。
安心したんだろう、グレイシアの目がだんだん閉じていく。そしてじきに眠ってしまった。
「移動して疲れたかしらね」
「でしょうね」
言ってタシュア先輩が、手近な椅子に掛けた。
「この部屋を使わせていただきますので」
「分かったわ。ベッド運ばせる?」
「可能ならお願いします」
母さんがうなずいて、船の人たちに声をかける。