Episode:12
それを裏付けるかのように、本拠地では個人のものと思われる記録は、色々な言葉で記されていた。シュマー語はもちろん、アヴァン語、ロデスティオ語、ワサール語、ユリアス語、加えて見たことも無いようなものまでだ。
が、どちらにしてもシュマー語を母国語として使うのは、血を受け継いだ生粋の一族だけだ。そこから考えると、この潜り込んだ先がシュマーに関係あるのは明らかだった。
(……後にしますか)
子供のように一語一語追っていたタシュアだが、途中で打ち切る。どうも内容が専門分野らしく、見たことの無い単語が多かったためだ。これをきちんと読もうと思ったら、まずシュマー語の辞書を探さないとダメだろう。
別の記録へと矛先を移す。
同じようにシュマー語だったが、こちらは訳語が着いていた。何か回覧のようなものらしい。
目を通してみる。
(これは……)
ゆらゆらと怒りが立ち昇ってくるのが分かった。
赤子、あるいは子供。実験。人為的な発生。合成獣。成果。能力。処分。所々を拾い読みするだけで、ここの連中が何をしているのかおおよそのことは分かる。
それでも怒りを押し殺して、タシュアは冷静に全文を見ていった。何が起きているのか正確に知らなくては、対処が出来ない。
だが読み進めれば読み進めるほど、怒りが高まるだけだった。
自然の摂理、人ならざるものの領域。そういうところへ、この連中は手を出している。
冷たい怒りを抱えたまま、タシュアは潜り込む先を元のシュマーの本拠地へと変えた。
先ほどまで居たあの連中の場所が、まだ正確に分からない。
つぶさに魔視鏡群の記録を見ていけば分かるかもしれないが、リスクが高すぎた。今見つかったら、ここの連中は痕跡を消して逃げ去る可能性がある。出入り自由に近いシュマーの本拠地で記録を当たった方が、誰にも気づかれずに場所を特定できるだろう。
その先どうするかは決めていなかった。場所を知り、内容を知り、それからどうするか決めればいい。
場合によっては、ルーフェイアに確認してもいいだろう。
あの子は戦闘時の能力や対応は群を抜いているが、普段は人を疑わない。それにシュマーの割に、倫理観は一般に近い。ならば情報を引き出せる可能性もある。
もっとも、何も知らない可能性もあるのだが……。
(っと、これですかね)
魔視鏡網を動き回って探すうち、シュマーの歴史書のようなものが見つかった。
といっても、年号と事実が記載されただけのシンプルなものだ。各国や各家の歴史書にありがちな神話めいた話や逸話は、最初の部分に少し見られるだけだった。