Episode:119
と、ベッドの中の金髪の子、グレイシアがこっちを向いた。
華やかな笑顔がその顔を彩る。あたしたちが来たこと、喜んでくれてるらしい。
「よかったわねー、友達来たわよ」
それは微妙に違うんじゃないかと思ったけど、あたしは言わなかった。ここでそんなことを言ったら、絶対にグレイシアが傷つく。
タシュア先輩がベッドの傍に歩み寄った。
「元気そうで何よりです」
その言葉とともに頭を撫でられて、グレイシアが安心しきった表情になる。
胸が痛かった。
ずっと酷い目に合わされてきたのに、それでもこの子は周囲を信じてる。前のことなんかなかったふうに、無条件に信頼を寄せてくれてる。
ただ逆に言えば……それだけもう、余裕がないってことだ。助けてくれるならどんな相手でもいい、そこまでこの子は精神的にも体力的にも追い詰められてしまってる。
「……ごめんね」
謝ってもどうにもならないと知りつつ、また謝る。この子の顔を見るたび、謝らずには居られない。
けど、グレイシアの不思議そうな顔。そして、悲しそうな表情になる。
「ルーフェイア、この子ちゃんと、分かってるから」
「え……?」
あたしが意味が分からなくて困ってたら、母さんが説明してくれた。
「だからね、この子、周りの言ってることや考えてることは分かるの。当然あなたの思ってることも、この子は分かってるわ」
「あ……」
だとしたら、この子はごく大まかにだろうけど、自分が何をされたかも分かってるんだろう。
その上で、あたしたちを信じてくれてるんだと気づく。
「ありがと……」
抱きしめたいくらいに愛おしかった。子供特有の疑わない心といえばそれまでだけど、そんな言葉で終わらせたくない。どう言っていいか分からないほど、綺麗で光る心だ。
あたしの思いが伝わったんだろう、グレイシアが微笑む。とても無邪気で、温かい笑顔だった。
その場でベッドに突っ伏して泣いてしまいたかったけど、何とかこらえる。そんなことをしたらまた、グレイシアが心配するだろう。
――何か、話さなくちゃ。
きっとこの子が望んでるのは、楽しい時間だ。だから黙ってたらダメだ。
「えっと……何がいいかな。えーっと……海って、見た?」
話題が思いつかなくて、自分でも情けないくらいつまらないものを口にする。でもグレイシアは、興味を惹かれたみたいだ。碧い瞳が輝く。
ただ何か言いたそうなのに、言葉を知らないから何も言えなくて……そのうちあたしのほうに手を伸ばしてきた。
小さな手を握る。