表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/175

Episode:118

 車が走り出す。

 シュマーが新しく建てた病院は、東区と行政区の間辺りになる。この間テロのあった病院の、ちょうど反対側だ。


 東区の辺りは大きい病院がなかったのもあって、地元は喜んでるらしい。この辺は本当に、抜け目がないと思う。

 ただその「地元還元」がオマケっていうのが……。


 トラムなんかを横目にしながら、ケンディクの町を走り抜ける。ただもう冬のせいだろう、人通りは他の季節より少なかった。

 そのまま病院へついて、車が裏手へと滑り込む。


「――研究棟という触れ込みだったはずですがね」

 タシュア先輩が鋭く言った言葉に、あたしは何も返せなかった。

 確かにこの病院、いわゆる患者さんを診る建物だけじゃなくて、「研究棟」と呼ばれる施設が裏手にある。


 ただ実際には研究じゃなくて、あたしたちシュマーの医療棟だ。研究もしてるから間違いじゃないけど、けしてそれがメインじゃない。

 その一角で、車が止まる。


「こちらでございます」

 ドワルディの案内で低い建物へ入って2階へ上がると、すぐのところがグレイシアの部屋だった。南側の、一番明るくて暖かい部屋を用意してくれたらしい。

 少しためらって……思い切ってノックしてみる。


「どうぞ」

 聞こえてきたのは意外な声だった。

「――母さん?

 言いながらドアを開ける。


「何よ、あたしが居ちゃいけないみたいじゃない」

「そうは言ってないけど……」

 ただ、話は確実にややこしくなったと思う。


「けど、どうしてここに?」

 大体が母さん、ひとところに落ち着かない人だ。いつだって世界中を駆け回ってて、捕まえるのは容易じゃない。なのにそれが自分から居ついてるんだから、異常事態って言っていい。

 けど母さんの答えは予想外だった。


「どうしてっていうか、あたしが傍に居れば、好き勝手には行かないでしょ」

「それはそうだけど……」

 確かにシュマーのトップの母さんが傍にべったりくっついてたら、何か手出しなんて不可能だ。


 ――そこまで考え付く頭があった、ってのには驚くけど。

 何でも行き当たりばったり出たとこ勝負の母さんが、こんな風にあちこち事前に手を回すなんて、滅多にない話だ。

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ