Episode:115
もっともそうは言っても、用意するものはあんまりなかった。何しろ自分の実家へ行くのと一緒で、だいたいの物は向こうにも揃ってる。どっちかっていうと知らない家へ行くタシュア先輩の方が、用意するものが多そうだ。
もっともあの先輩だと、あんまり荷物を持たなそうだけど……。
でも来てくれないんじゃないかと思ったから、良かったなと思う。グレイシアもきっと、喜ぶはずだ。
まず同室のナティエスに置き手紙をして、それから武器と読みかけの本、冬休みの課題を持って部屋を出る。
あと出来たら、イマドに知らせたかった。
ただ、居場所が分からない。彼はあたしの居場所が分かるけど、あたしからは無理だ。
さすがにこの広い学院を、探しまわるヒマはなさそうだった。だから仕方なく、荷物だけ持って歩き出す。
――けど。
寮を出た先、食堂の前辺りに、こっちを見てる人影があった。あたしより頭一つ高い、ダーティーブロンド。
「イマド、どうして?」
「だってお前、呼んだろ?」
琥珀色の瞳に覗きこまれて、なんだかちょっとどきどきする。
「どっか行くのか?」
「うん……ほら、あの子のこと」
あの廃棄施設であったことを、イマドには話していた。シュマーのことを話すなんて本当はよくないと思ったのだけど、どうしても黙っていられなかった。
でもイマドは嫌がったりしないで、いろいろ聞いてくれて……。
「荷物、持ってやろうか?」
「え? あ、このくらい、平気……」
「るっせ、貸せ」
いいって言ったのに、荷物を持って行かれた。
「どこ行くんだ?」
「えっと、船着き場……」
「そか」
2人で並んで歩きだす。
「ケンディクか?」
「今はそこだけど……最後は南大陸まで、行くと思う」
「遠いな」
あたしの言葉に、イマドが短く言った。
「ごめん……」
「お前が謝ってどーすんだよ。てか、行かなきゃダメなんだろ」
「うん……」
行きたくないな、と思った。
なんていうか、グレイシアのところが嫌なんじゃなくて……ずっとこうしていたい。