Episode:114
「えっと、そしたら……1時間後で、いいですか?」
「もっと早くても構いませんがね。了解です」
話が決まる。
「で、僕はどうすりゃいいんだ?」
「待ってて。それがダメなら、誰かケンディクの船着き場に迎え寄こしておいて」
「……分かった。一足先に帰るよ。あの子が心配だ」
ファールゾンも立ち上がった。
「1時間に船着き場でいいですかね。では、また後ほど」
先輩がまず出て行って、ファールゾンも後に続く。
あたしも最後に戸締りして部屋を出て、隣の学院長室に声をかけた。
「あの、すみません、隣……ありがとうございました」
「いえいえ、話が済んだようで良かったですね」
学院長がにこやかに言う。
「で、またどこかへ?」
「え……なんで、分かるんですか?」
隣の部屋の声って、ここまで聞こえるんだろうか?
けど学院長が笑いだした。
「大丈夫ですよ、あてずっぽうです。ただこの間から、あなたの側で立て込んでいるようですからね。そうかなと思いまして」
「すみません……」
ほんとにこのところ、迷惑をかけっぱなしだ。
頭を下げると、学院長に頭を撫でられた。
「気にしなくて構いませんよ。カレアナにはずいぶん借りがありますから」
「借り……」
母さん、いったい何をしたんだろう?
首をひねるあたしに、学院長が言った。
「で、あなたは行かなくていいのですか?」
「――あ」
先輩と待ち合わせしてるのに、こんなところでのんびりなんてしていられない。
「えぇと学院長、すみません、これからしばらく……また、留守にします」
「分かりました。手配しておきますよ」
学院長が請け負ってくれる。これなら安心だ。
「さ、行ってらっしゃい。何かあったら連絡でも下さい」
「はい」
学院長室を後にする。
寮はここからかなりの距離だ。まず1階へ降りて、図書館と食堂の前を通り過ぎてからじゃないと、辿りつかない。
しかもあたしの部屋は寮の上の方だから、登って降りてそれから船着き場となると、移動だけでけっこうな時間だった。
――少し遅めの待ち合わせにしておいて、良かったかも。
そうじゃなかったら、遅れてたかもしれない。