Episode:113
「すみません……」
「ですから、謝れなどと言っていないでしょう。毎回毎回、よくそれだけ同じことができますね」
「あ、す――」
また謝りそうになって、今度はなんとかこらえた。
「で、そのファクトリーとやらはどこにあるのです?」
「なんだ、いつもうちの通信網に侵入してて、知らなかったのか?」
またファールゾンが横から余計なことを言う。
「私が知るわけないでしょう。通信網など、距離に関係なく繋がるものですよ。そんな常識も覚えていられませんか?」
「いやだって君、いつも我が物顔じゃないか。うちの連中が嘆いてたぞ」
「入られる方がどうかしています。仕事を忘れて宴会でもしているのでは?」
先輩とファールゾン、かなり相性が悪いんだと思う。話が違う方向へ行き過ぎだ。
「あの、先輩……?」
心配になって声をかけたら、冷たい視線が返ってきた。もしかすると先輩、分かっててファールゾンとやりあってたのかもしれない。
「何です」
「えっと、あの……いえ」
視線に圧されて言葉が出てこない。それどころか、何を言おうとしてたかさえ分からなくなる。
「わざわざ声をかけるのですから、何か言いたいことがあったのでしょう?」
「あ、はい……えっと」
何だったか必死に考えて、あたしはやっと思い出した。
「あの、ファクトリーの場所……南大陸です」
「なるほど」
何か言われるかと思ったけど、先輩は何も言わなかった。場所がちゃんと伝われば、それで良かったみたいだ。
「南大陸のどこかは知りませんが……大雑把に計算して、高速艇で片道4、5日ですか」
「はい」
それだけの距離、グレイシアを移動させるのはけして簡単じゃない。何より途中で具合が悪くなったら、助けようがない。
かといってこのケンディクじゃ出来ることが限られてるから、ジリ貧なのは確実だ。
「やれやれ。あの子を移動させずに済めば一番ですが、そうもいかないでしょうしね」
先輩が軽くため息をついて、ファールゾンに訊いた。
「で、グレイシアの容体は落ち着いているのですね?」
「ああ。今を逃したら、次はいつ移動できるか分からないな」
こういう言い方をするってことは、かなり安定してるはずだ。だったら、一刻も早く移動するに限る。
「あの、先輩は……出られますか?」
「多少荷物がありますから、それを揃える時間だけは頂きたいですがね」
少し考える。
出られないとは言ってないし、ちょっと時間が欲しいって言ってるだけだから、たぶん割とすぐ行けるってことだろう。