Episode:111
◇Rufeir
「それでファールゾン、グレイシア……どうなの?」
シエラの応接室で、あたしはファールゾンに訊いた。部屋にはほかに、タシュア先輩が居る。
「まだ移動出来ない。当分無理だろうな」
「そう……」
エルニ群島から帰ってきて、もう20日が過ぎてる。
ずっとあの子のことが気になってたけど、あれきり会っていなかった。テストを思いっきりすっぽかしてしまって、追試になったせいだ。
ただ一度受けてみたかった追試は、あんまり面白くなかった。いつもの試験と殆ど変わらない。
ともかくそれが終わったのが、やっと昨日の話だ。だからとても、お見舞いに行く暇なんてなかった。
で、今日か明日にでも行ってみようと思ったとこで、ファールゾンがいきなり来てあの騒ぎだ。
「痛がったりは……してない?」
「それは大丈夫だ。その程度なら何とかなる。ただ元から弱ってるから、船で長距離移動は辛いんだ」
そうだろうな、と思う。
エルニ群島からケンディクまでは、船で一泊の距離だ。けど魔法陣の中に居てさえ、グレイシアは揺れる船に少し酔っていた。
これが何日もかかる船旅になったら、とてもじゃないけど耐えられないだろう。けど向こうへ行かないと、本格的な治療は無理だった。
「ずっとここに置いてたら、ただ弱るだけだしなぁ。頭が痛いよ」
「ベッドに細工すればいいでしょうに。その程度のことも思いつきませんか」
「細工? 何か手があるのか?」
タシュア先輩は冷ややかな感じだけど、ファールゾンは興味深々だ。
――やっぱりこの辺、おかしいかも。
ふつうだったら気付くような周囲の雰囲気に、ファールゾンは本当に疎い。
「……やれやれ。ベッドに浮遊石を取り付ければいいでしょうに。そうすれば、揺れを直接伝えずに済みます」
「なるほど!」
本気で感心しているのか、半分嫌みなのか……でもファールゾンの場合、たぶん本気だと思う。
「すぐに改良したのを、何とかして作らせないと」
ファールゾンが一人で息巻いててる。
「出力を計算しないとダメだな……あまり強すぎてもいけないし」
と、タシュア先輩が立ち上がった。
「これ以上用がないようでしたら、私は戻らせて頂きます」
冷ややかな声でそう言う。