Episode:11
(エルニ群島……?)
そう名づけられている場所があるのは知っている。このシエラがある群島と似たような所で、確か大陸の東側、東大洋に面したところだ。ユリアス大陸西南にある学院やケンディクとは、大陸を挟んでおおよそ反対側になる。
ただ、無人島だったはずだ。たしかそんな話を昔聞いたことがある。
(とはいえ、現実に人が居るようですね)
無人島とはいうものの、もしかしたら漁師か誰かが住み着いているのかもしれない。
(どれ……)
潜り込んだ先を細かく見ていく。が、その手が止まった。
状況から見て魔視鏡1台だけと思っていたが、全く違う。かなりの数の魔視鏡が通話石で結ばれた、意外な規模のシステムだ。
さすがに警戒の度合いを強めながら、タシュアは探索に入った。痕跡を残さないよう注意しながら、防護の甘そうな魔視鏡から見ていく。
(――?)
思わず魔視鏡を注視したのは、その中にあった記録のひとつが予想外の言葉で綴られていたためだ。
――シュマー語。
いつも忍び込んでいるシュマーの本拠地と、同じ言葉だった。
一族以外使うわけのない言葉で、記録が記されている。「誰が」は分からないが、この連中の所属はこれだけで知れた。
自分の魔視鏡へこっそり転記し、内容を読み始める。
シュマー語は元は古代ローム語だ。ただそれが長年内輪で使っているうちに、文法や語彙が変化している。
(相変わらず読みづらいですね……)
全体的な特徴を挙げるなら、割合シンプルという事だろう。戦闘集団のせいか、婉曲な言い回等があまり無い。基本的に直球で同音異義語も少なく、端的に伝わる仕様だ。
ただ語彙はやたらと豊富だった。戦地で的確に伝えるためなのか、色、形はもちろん、状況を表す言葉がかなり多い。他国語から取り込んだと思われる言葉もかなり見受けられる。
もうひとつの特徴が隠語だ。戦場で聞かれてもいいようになのか、それとも単に内輪の言葉のせいなのか、ともかく隠語が多い。しかもそれが短期間で変わったり増えたりする上、一語に含まれる意味が複数なので更に難解だ。
結果として、シンプルなのに部外者には伝わらないという、暗号じみた言語になっている。
ただこの言葉、シュマーの全員が使うわけではないらしい。タシュアが忍び込んだ本拠地では、公式と思われる文章はだいたい数ヶ国語で書かれていた。
どれも内容は同じだった事から考えるに、公用語として数ヶ国語が採用されているようだ。
おそらくシュマーの構成員は血縁だけではなく、後から加わる者も居るのだろう。