Episode:109
「ごめんね、別にケンカしてるわけじゃないのよ?」
だがグレイシアは、まだ不信の表情だ。
「嫌われましたねぇ」
「おかしいわね、嫌われるんならあなたの方だと思うんだけど」
ずいぶん失礼な言い草だ。が、グレイシアの前では言い返せない。
「まぁいいわ。とりあえず綺麗にしたし、あったかくしたし。あとは移動をどうするかだわね。――ファールゾン!」
カレアナがあの研究者を呼んだ。
「何でしょう、叔母上」
さっきまでとは打って変わって、ずいぶんと丁寧な態度だ。
「この子、ずっとここってわけにはいかないわよね?」
「ええ。最低でも近隣、出来ればファクトリーの医療施設へ移さないと無理です」
あまりの態度の違いに、開いた口がふさがらない。
(たしかに相手によって、態度はある程度変わるものですが……)
だがここまで変わるというのは酷過ぎるだろう。
「移せるとして、どこが候補? 一番近いのはケンディクよね」
「ええ。ただきちんとした対応はできません。生命維持と、対症療法が中心になるかと」
会話を聞いて、ケンディクに既にシュマーが施設を持っていたことに気づく。
(そういえば、病院が新しく出来ていましたか)
例のテロ騒ぎの病院がケンディクでは大きいが、去年少し離れた場所にもう一つ大きいものが出来た。
混雑が解消されたと町の人間は喜んでいたが、どうやらそれがシュマーの関係だったらしい。おそらくはルーフェイアがシエラに在学しているために、イザというときのために建てたのだろう。
正直ルーフェイア一人にそこまでするのはどうかと思うが、町の住人達は喜んでいるから何とも言えなかった。
(行ったら危険だと思うのですがねぇ)
こんな非人道的なことをやらかす連中だ。それが経営している病院など、危なくて行けたものではない。
カレアナとファールゾンの話はまだ続いていた。
「とりあえずそこへ移して、様子見てファクトリーは?」
「叔母上の言うとおり、それしかないと思います。まだこの子は、長距離の移動には耐えられませんから」
態度の違いはどうかと思うが、話は概ねまとまったようだ。
「じゃぁ、その方向で。もう少し様子見て、大丈夫そうなら移動かしら?」
この辺はルーフェイアと違うところで、あっという間に話をまとめていく。
「だとすると叔母上、船にも陣を用意しないと。移動中が危険です」
「あぁ、言われてみればそうね。作れる?」
今までとは打って変わって、物事の進み方も早かった。