Episode:106
「魔法陣自体は機能してるが、種類がない。人手もイマイチ足りないし、機材もだ。本家へ移した方がいい」
「本家、ですか」
要するにシュマーの本拠地のことだろう。
(行かせたくないのですがね)
この実験をやった連中も、同じシュマーだ。そんな連中を生み出したところへは、絶対に行かせたくない。
だがタシュアが連れ帰っても、何も出来ないのは確実だった。
どこかの大きな病院へ駆け込んでも、おそらくグレイシアの治療は出来ない。そして苦しみながら死んでいくだけだろう。
消去法で、シュマーの本拠地へこの子を送るしかない。だがそれをやると、身の安全が保証できない。
(いっそ、私が行きますか……)
自分が行けば、絶対に間違いはないのだ。
が、問題はそれで向こうが、受け入れるかどうかだ。部外者であるタシュアを、シュマーの面々がすんなり受け入れたりはしないだろう。
もっともイザとなったら、強引に入ればいいだけだが……。
「ちょーっと! 誰かいないの!」
突然、かん高い声があたりに響いた。
「あたしが来たんだから、誰か出てきなさいよ!」
居合わせた一同が一様に硬直する。
「か、母さん……?」
ルーフェイアのつぶやき。
少しして、声の主が入ってきた。
「あら良かった、全部開けて探すんだったら、どうしようかと思ったわ」
「か、母さん、何しに……」
ルーフェイアの問いが、全員の思いを代弁する。
「何しにって、そりゃ騒ぎが起こったって言うから」
「それはそうだけど……」
相変わらずのマイペースに、ルーフェイアもたじたじだ。
(ですが、この場合は助かりますか)
ルーフェイアの母カレアナは、シュマーの実質的なトップだ。それがグレイシアの後ろ盾につけば、もう誰も手が出せない。
もっとも、カレアナの方もそれを分かっていて、わざわざここまで来たのだろうが。
「で、何がどうなったわけ? 可愛い子が居るって、ドワルディは言ってたけど」
「子供なら、ここに。グレイシアです」
喋れない少女に代わって紹介する。
「あら、ホントに可愛いわぁ」
カレアナがつかつかと歩み寄り、少女の顔を覗き込んだ。