Episode:103
「ここなのですが……」
案内されたのは、一旦廊下に出て少し歩いた部屋だった。確かに中は病院に似て、清潔なベッドが置かれている。
「寝かせても構いませんか?」
「あ、どうぞ」
許可を取ってグレイシアを下ろし、まだ濡れた髪をタオルで拭いてやる。
(早く乾かさないと……)
自分も長いから分かるが、濡れた髪はあっという間に体温を奪う。弱ったこの子では、それが命取りになりかねなかった。
だがさすがにここには、髪を乾かす道具――炎石と風石を組み合わせたもの――がない。出来るのはひたすら拭いてやることだけだ。
ルーフェイアのほうは、作業に取り掛かったようだった。
「ここの魔法……元は、何?」
「あ、これです」
すぐに魔方陣の設計図が手渡される。
「外が、ふつうに魔力を集めて……えーと、じゃぁこうかな」
中央までルーフェイアが歩み出、すっとしゃがんで床に手を付き目を閉じた。
「……シャリテ=クラーレ」
よく知られた治癒魔法だ。ただ普段とは使い方が違うように見えた。
彼女が立ち上がるのを待って訊いてみる。
「何をしたのです?」
「えっと、陣に、魔法を……」
初耳だ。
「何も魔法陣を治療しなくてもいいでしょうに」
つい毒舌が口を突いてから気付く。生命維持のための魔法陣に、治癒魔法。
「なるほど、それで陣を再生というわけですか」
「あ、えっと、少し……違うかも、です……」
「ほう、どういうことです?」
興味を覚えて問うと、後輩が考えながら話し始めた。
「えっと、その、この魔法陣、一番外が魔力集めて、一番中が治癒で……」
「たしかにそうですね」
ルーフェイアの学年ではさほど詳しくやっていないだろうが、タシュアたちのようなシエラの上級隊ともなれば、魔法陣は読めて当たり前だ。下級生に説明されるまでもない。
「で、その構成が何か?」
「えぇと、だからこの構成に、同じ系統の呪文で魔力を……」
「なるほど」
かなり雑な説明だが、言わんとしてることは概ね分かった。それにルーフェイアが相手では、これ以上説明を求めても的確に出てくるかどうか怪しいものがある。