表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/175

Episode:101

「今だけですから」

 グレイシアに言い聞かせ、寝かせる。


「そちらを」

 頭側の取っ手を持ち、反対側をファールゾンに持たせ、タシュアは腰の高さまで一回持ちあげた。このほうが、引っ張り上げる距離が短くて済む。


「上げて下さい」

 タシュアの言葉に、担架に結わえつけられた綱が引っ張られ始めた。


「お前たち、ゆっくり上げてくれよ。あと傾けるな」

「分かってます」

 下からはタシュアたちが支え、上からは綱で引っ張られ、じき担架はタシュアたちの頭より高くなった。


「離しますよ」

「大丈夫です!」

 タシュアの言葉に、しっかりした声が返ってきた。

 そっと手を離す。


 最後、縁までの僅かな高さをゆっくりと担架は上がり、梯子の上で待ち構えていた男たちが取っ手をがっちりと掴んだ。

 不安定な担架からすぐにグレイシアが下ろされ、一人の男がしっかりと抱いたまま梯子から降りる。


「私たちも行きますか」

 入ってきたときと同じようにタシュアは跳んで水槽の縁に手をかけ、常人離れした腕力で楽々と身体を引き上げた。


「ま、待ってくれ。僕はどうすりゃ」

「ご自分で考えて下さい。頭はよろしいのでしょう?」

 そこまで面倒などみていられない。

 軽々と縁を超えて飛び降り、タシュアはグレイシアの傍に歩み寄った。


「具合はどうですか?」

 少女がタシュアのほうを向き、何か必死に視線で訴える。

 と、隣へ来たルーフェイアが言った。


「あの……先輩が、いいって」

「やはりそうですか」

 僅かなしぐさと視線から恐らくそうとは思っていたが、間違いなかったようだ。


「私が抱きます」

 白衣の男に言ってグレイシアを再度抱くと、安心しきった顔になった。


(ずいぶん懐かれましたねぇ)

 何故行きずりに近い自分にこうも懐くのか、理由が分からない。ただこれでこの子の気持ちが落ち着くのなら、抱くことくらいタシュアは構わなかった。


 本人に一切非は無い。だが結果的に虐待を受けたのと同じ有様で、特に身体は疲れ切った状態だ。今はともかく安心させて、心因的な要素を取り除くのが重要だろう。

 それが抱くことで出来るなら、安いものだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ