Episode:10
◇Tasha side
それは、偶然だった。
夜になるとタシュアは、魔視鏡を介して通信網へ入り込む。
画面の向こうに広がる情報の海は、タシュアにとって格好の遊び場だった。何しろ腕一つで、極秘情報をも手に入れられるのだ。
もっともタシュアの場合手に入れたからと言って、何をするわけでもない。「知る」ことと「防壁を突破する」ことに対しての欲求だけが強いために、知ったところで満足してしまい、また次の関連情報を探しに行くのが常だ。
中でもよくタシュアが潜り込みに行くのが、シュマーの通信網だった。
理由は単純で、面白いからだ。
シュマーは戦闘集団と言われるだけあってリスク管理が徹底しており、通信網の防護もきちんとしている。とはいえ、人間のやる事だ。必ず穴はあった。
それを見つけて、潜り込む。難易度が高いだけにこちらも知恵を絞らねばならず、しかも同じ方法は二度と通用しないため、純粋に面白い。
シュマーの通信網に潜り込んでいるのがタシュアだということは、実は向こうも把握済みだ。事実以前サリーア――シュマーの事実上の№2――は会った時にそれとなく口にしていたし、カレアナに至っては直接苦情を言ってきたこともある。
ただその苦情は「潜り込むな」ではなく、「映像を作った子供たちが泣くから、この魔視鏡の内容は消すな」だったのだが。
その場は「消されるような場所に置くのが悪い」と返したタシュアだが、その後そこだけは記録を破壊していない。子供たちの力作と分かっていてやるのは、さすがに大人気ないだろう。
ともかくタシュアはそんな半黙認状態で、シュマーの通信網に裏から出入りしていた。
――体よく使われている気はするが。
潜り込むたびに向こうの防御が進化している辺りから考えるに、これ幸いとカレアナ辺りが指示をして、セキュリティーチェックに利用しているのだろう。だがタシュアのほうもそれを乗り越えるのが楽しいのだから、お互い様だ。
そうやってその晩もタシュアは、シュマーの通信網に潜り込んでいた。
なにやら防壁が変わっていたが、新人にでもやらせたのか細かい穴があちこちにあり、割合簡単に進入できたのを覚えている。それで予想より時間に余裕が出来、タシュアはその晩、いつもより細かく通信網を観察していた。
異変に気づいたのも、偶然のようなものだ。
たまたまそうやって観察していたところへ、誰かが通信を送ってきた。ただそれが正規のルートではなかったために目に留まった。
興味を惹かれてこっそり追跡したのは、この発信者が自分と同じように、外から不正にアクセスしようとしていると踏んだからだ。それならば十分、正規ルートを避ける動機になる。
だが逆探知した先は、どことも知れぬ魔視鏡の中だった。てっきりどこかの企業か組織だろうと思っていたのだが、読みが外れたようだ。
場所を精査してみると、ユリアス国内だった。