013//で、海だった-
リンネの絶叫も戸惑いも届かない場所へと向かう3人。
旅はつづく。
海のムードがプンプンする頃には、雲行きが怪しくなり、海のニオイを直接感じる頃にはモロにドシャ降っていた。 雨。 大雨。
台風が近いってラジオがわめく。
上陸はしない。
だけどこの状況だけで充分。
どうせ、濡れるからいっしょだ!
と勢いこんで海に走っていったシロウは震えまくりながら車に戻ってきてあろうことか暖房つけろ!とか無茶なことを吐き散らし、海へと一目散に駆け出すことなど一切しなかったイチヲと口論している最中だった。
もちろん言うまでもなくスパンクは見つからなかった。
みんな心の中で描いていた通りの結果だったから落ち込む者はとりあえずいなかった。
いや、ユキは落ち込んでいる。
ワラにもすがる思いで海に来たのはユキ1人だから。
波の高さにビビりながらも念のためギャルがいないかもう一度チェックするシロウ。
車の中で無言のまま時が過ぎる。
ユキはフロントガラスにぶち当たる雨の粒を見つめるだけだ。
雨の音で消えそうだったけどそんなユキのすすり泣きがしだいに大きくなるのに気づいてイチヲも雨の粒から見つめることにした。
それから海の家のトタン屋根から流れ落ちる無数の雨水の筋に目を移しただけだ。
どの店も開いてなくて、温かい食べ物さえも手に入れられなかった。
もう少しで届くのに。
目の前にあるものにすら届かないことだってあるんだから届かないことなんてたいしたことでもないのかもしれない。
鉛色の空からは本当に鉛が降って来てるように重いなにかがこの海を支配している。
雨にうずくまる。
うずくまるためにこの鉛の海まで旅をしてきた。
イチヲは、ふとここに来るまでに少し眠った時に見た夢を思い出そうとした。
ぼんやりと。
だけど、ボンネットに弾ける雨を見てやめた。
ここからじゃ海は見えない。 防波堤のような高い壁が遮っている。
シロウは着く前にコンビニに買った缶コーヒーに手を伸ばす。
そういえばこのコーヒーを買った時は雨なんか降ってなかったっけ。
波の音に期待してみんなで笑いながらコンビニの灯りを後にしたんだ。 なのに。
波の音はたぶんここまで届いているだろう。 でも雨の音が激しすぎて結局聞こえない。
ここでもやっぱり届かない現実が覗く。
ユキは耐えきれず、車の外へ走り出す。
鉛色の雨の中を。
2人がその後ろ姿に視線を向け一斉にドアを開ける。
車の中ではイマイチ実感のなかった雨の重さが体にあたって砕けた。
まだ着替えていないシロウがユキのあとを追って走る。
激しく水しぶきを上げながら走る2人を見て、イチヲはひょっとするとこの雨は必然なんじゃないいかって、なぜか思っていた。
雨が降ろうが晴れわたろうが、ここにアイツがいないって事実に変わりはないだろう。きっと。
ユキはそのことを承知で、でもこんなすべてを冷えきらせる音の中を走ってるんだ。
痛いんだ。 痛すぎるんだ。
海へと向かう階段を駆け上がり、ユキは無人の海岸をそこから見つめる。
視界が一気にひらけて、ただ無力さを痛感するために作られたような光景に目をやる。
風が海の家の看板にブチ当たりうなっていた。
潮風にやられたその看板が主張するのはそこに海の家があることと、朽ち果てていくだけということだ。
朽ち果てろ。
たしかに、そうだよ。 朽ち果てる。 朽ち果てるべき存在。
ユキは立ち尽くし海を見つめなているだけだった。
ただ思いっきり泣いてその涙を洗い流すために雨の下に走り出たのか、涙をごまかすためか。
とにかく今日はじめて雨が活躍したように思える。
ユキのもとへとシロウは階段をゆっくりのぼる。
同じように海を見つめながら。
さっき強引に海水浴を敢行したその海をただ、見つめる。
「また来ればいいんだよ」
シロウがユキに微笑む。
「遊びに来たんじゃないよ」
まだ泣きているのがわかる。 声が震えている。 寒いだけかもしれない。
雨が全身を流れる。
「わかってるよ。 だからまた来ればいい」
「ここじゃないだけだよ」
あとから来たイチヲもつづける。
そして戻ろうと、手でジェスチャーする。
ユキは2人に手をひかれてうつむいて車に戻ってきた。
「だ、暖房つけて!」
ユキがまだ震えた声をさらに震わせる。
「なっ!だろ! そうなるだろ!」
シロウが得意気に笑う。
イチヲが着替えのTシャツをユキに渡しながらここで着替えろ!
とかなり危ない目つきで叫んでいる。
なんか知らないけど妙に笑ってしまう空気が溢れ出してくる。
いずれ、朽ち果てる。 でもここじゃないんだ。
この雨は終わらないことを告げるための使者だ。 イチヲはそう思った。
思っていたあのロードムービーが蘇る。
帰りはイチヲの運転。
シロウがまだ着替えてて、ちょっと待てよ と慌ててるが無視した。
車は海を背にして大きな通りに出る。
さすがに海方面に向かう車は皆無だ。
アクセルをさらに踏み込みスピードを上げる。
「だってそうだろ? まだ道の上にいるんだから。 なっ」
助手席でまたユキは不思議そうにイチヲを見る。
後ろでガハハッと豪快に笑うシロウ。
またスピードは上がる。




