犯人は現場に戻ってくる
「あああああああーッ!!!」
森中に絶望した俺の声が響き渡る。
俺は斜面に転がるパートナーの亡骸を見つけた。
彼女の胸は弾丸で撃ち抜かれており、血を吹き出している。鉛は的確に、彼女の心臓にとどめを刺した。
背後から足音が聞こえ、俺はすぐに振り返る。
「うるせーな」
獣道を歩いてきたそいつの図体は、俺の倍でかい。体格が良いこいつは熊だ。
俺は警戒心を露わにする。
「お前が彼女を殺したのか!?」
「今来た所だってのにか?」
武器になりそうなものは持っていない。
本当に彼女を殺していないのか⋯⋯いいや、そう決まったわけじゃない。
こんな所に現れるんだ。きっと、目的があるはず。
「彼女を殺してから、ここに戻ってきたんだろ!!」
「なあ⋯⋯気が動転しているのはわかるが俺は殺してない。何も証拠はないだろ?」
気になるのは、こいつの体が水で濡れていること。犯行に及ぶ時、血が付着したのなら⋯⋯
「じゃあ、体がずぶ濡れなのはなんでだよ!! 彼女の返り血を浴びて洗い流してきたんだろ!?」
「すぐそこの川の中に入ってたからな。今日は美味い鮭が捕れた」
本当に彼女を殺していない⋯⋯?
だとしたら、誰が彼女を——
「第一、なんでお前は彼女を守ってあげなかったんだよ」
「それは⋯⋯今日、食べるものを探しに遠出してたからで⋯⋯」
「だったら、悪いのはお前だな」
「⋯⋯何が言いたいッ」
あいつは鼻で笑ってくる。
「そんな大事なもんなら肌身離さなきゃいい話だろ? 一緒に食料集めでも何でもすれば良かった話じゃないか」
「お前にはこの子のお腹の膨らみがわからないのか?」
「ははっ、そうだったのか。てっきり、餌の食い過ぎでぶくぶく太ってるだけだと思ったぜ」
こいつは俺のことをおちょくるばかりだ。それは、体格差のある俺では敵わないことを知っているから。
「子供がいるんだったら家に籠っておくべきだったな」
そうだ⋯⋯。なぜ、彼女は外を彷徨いていたんだ?
家の中に誰かが侵入してきたのか?
「⋯⋯お前はどうしてここに来たんだ?」
「俺は空を飛んでいる鷹を目印にここまでやってきただけさ」
頭上を見ると確かに、晴天を飛ぶ鷹の姿が見えた。
いつの間に——
「早くしたほうがいいぞ。こんな野ざらしだったら、すぐに死骸を食われちまう」
「お前も鷹と同じく、彼女のことを今晩の食事にするのか?」
「いいや。残念なことに鮭を食べすぎたみたいでね、そんな気はないよ。それか、お前と話してて食欲が失せたのかもしれないな」
そんな時だった——
森中に銃声が響き渡り、あいつは一目散に藪の中へと消える。
俺も逃げなきゃ⋯⋯
立っていることもできず、俺は彼女の死骸のすぐ横に倒れる。
心臓からは真っ赤な血が吹き出していた。
体を銃弾に撃ち抜かれたみたいだ。
狐は人間に殺された。




