Episode:Smile-Man
よっ! 俺の名前はマイルス・ライト。見た目は13歳くらいに見えるけど、実際は17歳。この世界では立派な成人だ。んで、俺は今、幸せと罪悪感を嚙み締めているところだ。
・・・って、んなこと突然言われても意味不明だよな。まずは、今の状況を説明しよう。
「ライト! どうしてここにいるんですか!? なんか・・・背が伸びました? 私よりも大きいです」
ここは異世界。馬車の中。好きな女の子が俺を見つけて嬉しそうに笑ってる。
・・・うん。状況を説明されたところで分からないよな。そうだな。簡単にこれまでの俺の物語を教えようか。
――――。
父は世界有数のロボット企業のCEO。父は仕事で忙しく滅多に会わなかったけど、母がいつも付きっきりで世話をしてくれてた。
だから、例え母がまったく笑わなくても、食事を一緒にしたことがなくても、瘦せ型なのに体重が100㎏を越えていても、呼吸をしていなくても、俺は母が大好きだった。
それは俺が5歳の頃。俺は気付いてしまった。「もしかして母はロボットなんじゃないか?」と。すごい驚いた。そして使用人も驚いた。「人間だと思ってたんですか!?」と。だって、そん時の俺はまだ5歳。ベッドの下のモンスターを怖がってる歳だぞ? それに人間と瓜二つなんだから、人間だと持っててもしょうがないだろ。誰か一人くらい説明してくれてもいいと思わないか?
俺はショックだった。教えてくれなかったこともだけど、それ以上に、母だけが愛情を注いでくれていたと思っていたのに、母は心の無いロボットだったんだから。思わず「最高だぜ」と人生初の皮肉を漏らした程だ。
でも、それは時間と使用人が勧めてくれた映画が解決してくれた。主人公の青年ヒーローが、身近な人達を亡くしながらも、何度でも立ち上がり、持ち前の正義とユーモアで街の人達を笑顔にしていく映画だ。大昔のもので舞台も道具も古すぎてイマイチだったけど、それでも俺はその映画の中のヒーローに救われたんだ。
―――。
・・・そして、そんな俺にも好きな人ができた。8歳の頃だ。
クラスの男子に聞いた「可愛い女子は?」アンケートで常に一位。学校のアイドル。他にも何人もその女の子が好きな人がいる。そんな、ありきたりな初恋だ。
・・・ただ、ありきたりじゃないことが1つあった。
「ノエル・ヤマブキ。いいよなぁ。学校で一番可愛いと思わないか?」
「ならお前、告っちゃえよ~」
「はははっ、嫌だよ。いくら可愛くても・・・」
「だよな。あのノエル・ヤマブキだもんな」
そう。彼女は変人だった。上級生に喧嘩を売ったり、学校の二階から飛び降りたり、購買にかってに他所のパンを置こうとしたりと。頭もいいし、運動神経もいい。文武両道でルックスも完璧だけど、変人だった。それに、彼女が学校で笑ってるところをまったく見せなかったのも、変人だと思わせるのに拍車をかけていたと思う。
まぁ、でも、子供は単純・・・というか、男は単純だ。それでも可愛ければ好きになっちまうんだから。
ついついノエルを目で追ってしまう日々を過ごしていた、ある冬の日。
「今日は急な吹雪で飛行バスも来ません。学校に泊まることになるので――――」
地球温暖化よろしく異常気象だ。ただ、学校に泊まることになるのは珍しかった。先生の説明を適当に聞きながら、男女別で寝ることになるのも知らずに「もしかしてノエルの寝顔が見れるんじゃ?」とか他の男子達と一緒にドキドキしていたら、そのノエルが突然窓から飛び降りた。
「おいおい! それはさすがにまずいだろ!!」
先生以外の皆は「またか」みたいな感じになってるけど、さすがに見逃せない。すぐにジャンバーを羽織り、ノエルが出ていった窓へ近付いた。
「先生ちょっと探してくるから皆は待っててね!」
先生は居なくなった。玄関からじゃあ間に合わないだろうな。
「おいマイルス。何やってんだ?」
「何って、ノエルを追いかけんだよ!」
つーかあいつ・・・ここを飛び降りたのかよ。マジか・・・すげぇなあいつ。
震える手を見て見ぬフリして、俺は気合を入れる。
「よしっ。行くんだマイルス。大丈夫だ」
あのヒーローみたいな勇気で!
「ぅおりゃあ!!」
ドスっとヒーロー着地する。普通に足が痛い。
俺は追いかけた。長い黒髪と赤いランドセルを追いかけて、追いかけて、普通に見失った。猛吹雪でホワイトアウトとなった町中を、ただ1人、子供が走る。
「はぁ、はぁ、はぁ。ずびぃっ。誰か・・・ノエル! いないのか!!」
ノエルを助けるというよりは、助けてほしいって感じの叫びだった。そりゃそうなるよな。だって、当時まだ一桁の歳で、猛吹雪、視界は真っ白、普段の送り迎えは使用人の飛行車。道なんて例えホワイトアウトしてなくてもわかりゃしない。その時は必死で分かんなかったけど、たぶん涙と鼻水で酷い顔だったハズだ。俺の中の上くらいのルックスが下の上くらいになってたかもな。
「はぁ、はぁ・・・なんだ、あれ」
もうこのまま死ぬんじゃないかと思い始めた頃、真っ白な視界の中に明かりが見えた。もう何も考えられなかった。とにかくがむしゃらに、俺はその明かりへと走った。深海でチョウチンアンコウにつられる魚ってきっとこんな感じなんだろうな。・・・いや違うな。
「ようこそ! パン屋クリスタルへ!」
天使がいた。暖かい空気と美味しそうな匂いと一緒に、天使の笑顔が飛び込んできた。一瞬、天国にでも来たのかと思った。大袈裟? そんなことない。その笑顔にはそれくらいの破壊力があったんだ。ノエルの笑顔は初めて見た。今でもたまに夢に見る。
「・・・ノエル? ここ、お前んちなのか?」
「はい、ここは私のパン屋さんですけど・・・」
安心感で膝から崩れ落ちなかったことを褒めてやりたいよな。いや、褒めてあげよう。よくやったぞ。子供の頃の俺。
可愛らしく首を傾げるノエルに見惚れていると、お店の後ろの方からノエルに似てるけど、髪が金髪の女性が現れた。
「あら、お客さん・・・じゃなくてノエルのお友達かしら?」
「あ、ママ」
ノエル。母親のことをママって呼ぶんだな。ちょっと意外だ。そんな風に内心ほっこりするような余裕が出てきたと思ったら、ノエルがとんでもないことを言った。
「いえ、知らない人なんですけど、何故か私の名前を知ってるんです。それに、私に友達はいません」
「え、いや! 俺だよ! 同じクラスだろ!?」
ノエルは眉間に皺を寄せて、また首を傾げた。その仕草は可愛いけど、さすがに傷つくぞ!?
「ノエル。まさかクラスメイトの名前を忘れたの?」
「いえ、ここまで来てるんです。出かかってるんです・・・あ、そうです! ライトです! あなたの名前はライトです!」
「これノエル! 人に指を差さない!」
それから、俺はノエルの母親に招かれて吹雪が弱まるまでヤマブキ宅にお邪魔することになった。お店は、どうせこの天気でお客さんなんて来ないからと今日はもう閉めるらしい。そして、ノエルは俺のファミリーネームしか覚えてなかった。頑なに名前の方で呼んでくれないから、たぶんそういうことだろう。
「そうなの・・・ノエルを心配してここまで来てくれたのね。ごめんなさい。ノエルがご迷惑をお掛けして・・・この子ったら、雪まみれになって帰って来たと思ったら、こんな天気なのにお店を開けるって言い出してね」
「だって、前日に準備したパン生地が勿体ないですし、こんな天気なのに来てくれるお客さんに申し訳ないじゃないですか!」
「まぁ、そうね。おかげでこんな素敵なお客さんが来てくれたことだし」
母親に頭を撫でられたノエルは、とっても幸せそうに「えへへ」と笑った。いつもなら、羨ましいとか、妬ましいとか、そんな醜い感情が先に出てた。けど、その時はただ可愛いと、守ってやりたいと、そう思った。
思えば、それから他の家族を見ても何も思わなくなったんだよな。
「そうだ。ライト君。よかったら学校でのノエルの様子を聞かせてくれない?」
それから、ノエルの母親に学校でのノエルのことを事細かに伝えた。ノエルに「そんな所まで見てたんですか」と若干引かれてた気がするけど、その時の俺は、俺の言葉でコロコロと表情を変えるノエルが可愛くて仕方がなかった。気持ち悪い? そんなことないさ。それが恋ってもんだろ。・・・知らんけど。
・・・そして後日、ノエルと揃って先生にこってり叱られた俺は、隣に座っているノエルを見て決意を新たにした。
学校でノエルが笑ってるところを見たことなかったけど、別にノエルがロボットなわけでも、感情を失ってるわけでもない、母親に褒められれば笑うし、自分のヤンチャな行動を母親にバラされれば頬を膨らませて怒るし、自室に飾ってある大量の子供っぽいぬいぐるみをクラスメイトに見られれば頬を赤らめて恥ずかしがる。きっと、ノエルにとっての学校は関心の外なんだろう。
・・・もっと、ノエルと仲良くなろう。そして、たくさん笑わせてやろう。その為には、ノエルにとって学校が楽しい場所でなきゃいけない。だったら、俺が学校ごと楽しくさせてやればいい。あのヒーローみたいなユーモアで。
―――。
それから、俺は常に人の感情を読み取って、人を笑顔にすることを心掛けた。お陰で俺の周囲はいつも笑顔。そして、ノエルも学校でよく笑うようになって、お陰で人気も爆上がり。ファンクラブみたいなのを作ろうって話も出てき始めた。そんな10歳の秋。
「よっ! ノエル! 難しい顔してどうしたんだ! また何かやらかして説教か?この行動力オバケが! この間は上級生と取っ組み合いの喧嘩をしたんだろ? 今度は先生達と銃撃戦でも繰り広げたのか?」
「あははっ、先生と銃撃戦なんて・・・やるとしたら殴り合いくらいです」
相変わらずノエルの思考は理解できないことが多い。でも、ノエルは思ってたほど変人じゃない。少し人よりも真っ直ぐなだけ。仲良くなって分かった。ノエルは人よりも行動力がありすぎるんだ。だから、その真っ直ぐな性格に拍車をかけて、周囲から変人だと思われてるんだろう。
俺の日々はすごく充実していた。でも、そんな日々は長くは続かなかった。いつものようにノエルのパン屋さんで買い物をした次の日。ノエルは突然学校から居なくなった。家の事情で少し遠くへ引っ越したらしい。でも、俺はそんなことじゃあきらめなかった。普段滅多に口を利かない父親にお願いして、ノエルの転校先を調べて、俺も転校した。この時ばかりは家の裕福さに感謝したな。
―――。
ノエルが転校して一年後。ノエルは死んだ。救えなかった。救えたかもしれないのに、選択を間違えた。色んな感情が心の中で暴れた。でも、心が壊れる前に奇跡がおきた。
―――。
「・・・って、ことで! マイルス君。あなたには異世界に転移してもらうね!さっき説明した通り、異世界であなたにやってほしいことはただ1つ! あなたが得た褒美や、前の世界の知識を活かして、あなたの夢を叶える為に頑張ること!」
「分かった。もう一度確認だけど、本当にその世界にノエルが生まれ変わってるんだよな?」
「もっちろん! ただちょっと・・・」
「ん?」
「いや! 何でも無いよ! 少し前に私のパートナーの女神が山吹ノエルを生まれ変わらせたけど、私達神は必要以上に干渉しないからね。ただ、私は一途なあなたをとても気に入ったから、これ無理ゲーだろって思ったら、一回だけ助けてあげるね☆」
ノリの軽い金髪の女神様はそう言ってパチッとウィンクした。そして、俺の長い長い異世界ライフがスタートした。
―――。
異世界に転移して7年が経った。加護のお陰で成長が遅いとはいえ、いい加減ノエルを見つけたい。
「あの神様。ノエルがどこの誰に生まれ変わったかくらい教えてくれても良かっただろ」
俺は異世界に来てから、自分の夢であるノエルと結婚する為にまずは自分磨きを始めた。すぐにノエルに会いに行ったところで、ノエルはまだ0歳だったからだ。だったら、ノエルが思わず「カッコイイ! 好き! 結婚して!」って言ってくれるような自分になりたい。金髪の女神様・・・名前はソニア様。あおの女神は「モテる為には筋肉!」ってアドバイスをくれたけど、ノエルが筋肉が好きとは思えない。
そうだな・・・筋肉はともかく、純粋に俺の思うカッコイイ男を目指すか。あのヒーローみたいな。
そして俺はヒーローになれた。この世界に来てすぐに出会えた師匠に稽古を付けて貰えたのが大きい。
「いいか。まずはその場でバク転してみろ」
「・・・」
「怖いだろ? 後ろに飛ぶのはこわいだろう? まずはその恐怖に打ち勝つことからだな。それまで本格的な稽古はお預けだ。ついでにエロ本もお預けだ」
「マジかよ!!」
最初の稽古でバク転すら出来なかった時は流石に自分に呆れたな。今となってはバク転どころかバク宙だって簡単に出来るんだけどな。エロ本だって読み放題だぜ。この世界には年齢制限なんてもんはねぇからな。
「いいアーマーだな。でも色は白じゃない方がいいんじゃないか? それにそのマスク・・・敵をおちょくってるだろ」
「いいんだよ。この笑顔のマスクがいいんだ」
俺の褒美は【雷魔法】と【精神魔法】だ。身体能力を上げるものではない。だから、考えた。装着したアーマーを雷魔法の無限のエネルギーを使って操り身体能力をカバー。そして精神魔法で相手の動きを先読み。
「お前のそのロボット工学? ってのは凄いな。まるで未来の兵器だ」
「AIは無いけどな。でも、これで大抵の悪者には負けねぇぞ」
ノエルの生まれ変わりを探しながら、俺は街の平和を守り続けた。そのマスクのデジタル画面に表示された笑顔から、皆は俺のことはスマイルマンと呼ぶようになった。正直カッコよくはないけど、気に入った。
「マイルス。お前に勇者様からお誘いが来てるぞ」
魔王討伐を目指している勇者パーティーに誘われたこともあったけど、断った。
「意外だな。お人好しなお前なら絶対に加わると思ったんだが」
「世界平和は大事だと思うぜ。でも、俺はもう選択を間違わない」
「もったいねぇ。可愛い子もいたのにな」
女の子が居たって変わらないけどな。
「あ、マイルス。お前、好きな人がいるからとかだろ!」
「・・・だったらなんだよ」
「え、マジで?」
「機会があったら今度紹介するぜ」
「え、誰だよ! っていうか、紹介はやめとけ! 俺の顔を見たら怯える!」
師匠の顔、こわいからな。俺も初対面の時はビビった。でもノエルだったら・・・。
「いや、あいつは怯えたり怖がったりはしないだろうな。絶対。むしろ殴りかかってくるかもしれねぇ」
「はっはっは! なんだそれ! そんな奴見たことないぞ。変わった奴だな」
「ああ。変わった女の子だ」
―――。
そして、現在からつい2週間くらい前のことだ。俺が居る国を含め、人間のあらゆる国のトップ達が精神魔法の使い手を探しているという噂を耳にした。何でも、獣王国のお姫様が精神的に病んでしまったらしい。トップ達は、本来なら絶対に人間が立ち入れない獣王国に行けるとあって、こぞって精神魔法の使い手を探し始めたとか。
「獣人は真っ直ぐな性格してるから、精神魔法の褒美を持ってる奴なんていないんだろうな。大人の獣人は噓を見抜くって言うし」
「獣人と会ったことあるのか?」
「ああ。随分と前に一度だけな。それよりも、そのお姫様はとんでもなく可愛らしいそうだぞ。まだ7歳だって言ってたけど、将来はべっぴんさんだな。何かの間違いで俺の目の前に現れねぇかな。んで、『お父さん』とか言われてぇ」
「キモイな・・・って、7歳?」
気になって、城に潜入して詳細を調べた。そして分かったのは、そのお姫様は黒髪黒目、黒猫の獣人、そして7歳だということと、感情が無いということ。
「あんな死に方をしたんだ。いくらアイツでも精神が壊れてもおかしくない・・・か」
そのお姫様がノエルの生まれ変わりに違いない。見つけた。
国が行った精神魔法の使い手の選抜に見事に合格して、俺は「世界一の精神魔法の使い手」として獣王国に行けることになった。奴隷商人をしていると噂の市長も同行することになったのはかなり不安だけど、市長が身元を保証してくれて選抜に参加出来たんだ。だから断れなかった。
―――。
獣王国に着いた。唯一獣人達と交流のあるエルフ達に見張られながら獣王国の中を移動して、城に招かれる。国王も一緒だ。いつも作り笑いを浮かべて、精神魔法を封じるイヤリングを付けて、よく分からねぇ奴だ。
「そこの人間が交換条件で世界代理会議の場所を獣王国にしろなどと言い出さなければ、ここまでの警戒もする必要が無かったんだけどね」
・・・と、見張りのエルフのお兄さんが言っていた。国王はかなりの無茶を言ったらしい。
「姫様にお目通り出来るのはそこの精神魔法の使い手だけよ。他はそこで待っていなさい」
三又の尻尾のかなり美人な獣人の女王様に案内されて、しかも目隠しされて、何処かに連れて行かれた。たぶん、場所を知られたくないんだろう。無駄に遠回りをしていた気がする。
「くれぐれも、姫様に危害を加えないように」
目隠しを外された。豪華な部屋。俺の目の前にベッドに腰かけた女の子が居る。黒髪黒目の黒猫の獣人。その容姿は・・・。
「ノエル・・・」
「シャー!!」
ノエルの膝に座っていた黒猫が、俺を見て毛を逆立てて警戒してる。まるで・・・娘を守る母猫みたいに。
やっと見つけた! 俺の記憶にあるノエルよりも幼いけど、それよりも生まれ変わったのにノエルのまんまなのに驚きだ。猫耳と尻尾、そして猫目なのが合わさって更に可愛くなってる。もはや犯罪だ。ノエルは犯罪者だ。俺の心を惑わす犯罪者だ。・・・って何言ってんだ俺。
「精神魔法を使う為に、ノエ・・・姫様に触れることになるんだけど・・・大丈夫か?」
後ろに居た女王様に聞くけど、女王様は心配そうにノエルを見つめるだけ。その隣に立っていた白兎の獣人が代わりに応えてくれる。一目で分かる。彼女、俺が今まで見た中では師匠の次に強い。勇者とどっこいだ。
「構いません。ですが、触れるのは指先だけ、触れる前に私に伝えてください」
「わかった」
随分と警戒してるけど、今は別にいい。精神魔法は相手の心を何となく読むとかの簡単なことなら遠隔でも出来るけど、細かい事は触れなきゃできない。
「ノエル」
まずは小声で話しかけてみるけど、反応はない。呼吸はしてるけど、まるで死人みたいな表情だ。
感情が無い・・・か。他の奴らには生まれつきの欠陥みたいに思えるけど、俺は知ってる。これは前世の死因に関係してる。だから、解決方法は3つ。
1、精神魔法で会話を誘導しつつカウンセリングを行って外側から原因を解決する。
無理だな。そんな段階を優に超えてる。俺を見ても何も反応しないことからも明らかだ。
2、精神魔法で内心に潜り込み、原因を破壊する。
やってみたが、その原因までたどり着けなかった。ノエルに精神魔法が通用しにくい。これはまずい。記憶力系の褒美を得ている可能性があるな。思えば、ノエル常に学年でトップの成績だったから、【完全記憶】か【記憶力強化】、そのあたりの褒美を得ているかもしれない。
・・・あの時のことを忘れたくても忘れられなかったんだな。
3、精神魔法で原因となった記憶を消す。
これも無理だ。精神魔法と記憶力系の褒美は相性が悪い。これは・・・無理ゲーだろ。・・・あ。
『これ無理ゲーだろって思ったら、一回だけ助けてあげるね☆』
女神ソニアはそんなことを言ってた。・・・俺は祈った。ノエルの指を握りながら、祈った。
神様。ノエルを救ってくれ!またノエルの笑顔が見たい! 彼女が笑ってくれるだけで、俺の人生は明るくなるんだ!
その瞬間、ノエルはベッドの上に倒れ込んだ。ノエルの傍で俺を警戒していた黒猫が時間が止まったように固まったのが見える。そして脳内に声が響く。
(そこにあるのはダミーよ。本物そっくりのお人形みたいなもの。本物のノエルは一旦こっちで預かるわ)
は? え!? どういう・・・っていうか誰――
(こっちで彼女の記憶を消して、そのうちそっちに戻すから)
あ、こっちの話は聞いてくれない感じか。たぶん女神様だと思うけど、俺を転移させてくれた女神ソニア様とは違うな。・・・ソニア様が言ってたパートナーの女神様ってやつか?
(あ、それと女神が干渉したことは黙っていてちょうだい。何でも神頼みみたいな風習ができてしまったらこま・・・あっ、ソニア! ちょっと待って! 片方の靴下裏返しになっているわ)
ん?
(ええ・・・・ええ。・・・いいえ、私はいいわ。例のあの子の件よ。・・・それじゃあ、いってらっしゃい)
おい!人の頭に直接語りかけてる途中に何して―――
(さようなら)
女神の声は聴こえなくなった。偉くマイペースな女神様だな・・・。そして、静かだった現実がうるさくなる。
「おいお前! 姫様に何したの!!」
「ショコラ! ショコラ! どうしたの!?」
激昂するメイドに、心配そうにノエルに寄り添う女王様。・・・愛されてるんだな。
「心配ない。ノエ・・・ショコラ姫はそのうち目を覚ますし、その時には感情も戻ってるハズだ」
「そのうちっていつさ!!」
「さぁな。神様次第だ」
疑われるかと思ったけど、噓を見抜く種族なだけあってあっさり信じて貰えた。一応、ノエルの身の安全の為に目を覚ましたとしても世界代理会議の間は外に出さないし、感情を取り戻したことも公表はしないらしい。そして、ノエルの扱いを一応聞いてみたら、「立派な女王に育てる」と言われた。ダメだこりゃ。
・・・世界代理会議が終わるまで一週間と少しある。それまでノエルが大人しくジッとしてるとは思えねぇし、ましてやノエルが言われるままに女王になるわけがない。
―――。
で、俺の予想は見事に当たった。
「獣人のエッチな店に行きたい」っつってエルフと獣人を困惑させて強行突破に出た市長。 その市長の見張りで付いて行った俺。そんな2人が乗る馬車の中に、獣王国のお姫様が窓ガラスを割ってダイナミック乗車してきた。しかも突然市長を殴った。だから俺も慌てて市長を殴って気絶させた。ノエルが市長に目をつけられないように。
―――。
よしっ。ここでもう一度、今の状況を説明しよう。
「ライト! どうしてここにいるんですか!? なんか・・・背が伸びました? 私よりも大きいです」
ここは異世界。馬車の中。好きな女の子が俺を見付けて嬉しそうに笑っている。
読んでくださりありがとうございます。恋する少年ヒーロー。マイルス編でした。




