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『黒猫』と『ランドセル』と『(異)世界一のパン屋さん』  作者: SHIRA
第1部 感情を取り戻したお姫様
6/9

チュー! 好奇心旺盛な女の子

 夕陽が照らす石造りの城下町。タタタッと屋根の上を四足で走りますが、このままではミルフィと愉快な動物達に見つかってしまいそうです。


「まずいです。塔の方から小鳥さん達がこっちに向かって来ています」


 人混みに紛れればどうにか撒けると思いましたが・・・困りました。人がまったくいません。外出禁止令でも出てるんでしょうか。ゴーストタウンです。


「あ、あそこの家! 窓が開いています! それに焼きたてのパンのようないい匂いがします!」


 ほとんどの家が窓を閉めていますが、一つだけ開いている家がありました。煙突から煙が出ているので、人がいるのでしょう。ピョンとしなやかに跳んで、その家の窓の中に飛び込みます。


「んにゃ」


 家の中で綺麗に着地出来ました。元から運動神経は良かったですが、さすがに今の自分は人間離れしているきがします。

 ネズミの柄が入った絨毯から視線を外して顔を上げると、ネズミ獣人の親子がいました。


「おじゃまします」

「・・・」

「・・・」


 ネズミの刺繡が入ったエプロンを身に着けたネズミ獣人の小柄なお母さんと、私と同じくらいの女の子が、焼きたての食パンが置かれたテーブルを挟んで、私の前に立ち尽くしています。


「口が空いてますよ」

「黒猫の・・・獣人・・・ショ、ショコラ姫ですか!?」

「はい、そうですよ。突然お邪魔してすみません、ちょっとお願いが・・・」

「塔にいらっしゃるハズのショコラ姫様がどうして・・・まさか抜け出して!? お、お城に連絡をしなくちゃ!」


 ネズミのお母さんが慌ててポケットから小さな丸い機械を取り出しました。もしかしたら通信する機械かもしれません!


「ちょ、ま、待ってください!」

「えっと・・・確かお城のカカオ様の番号は・・・」


 全然待つ気がありませんし、女の子が憧れの存在にでも会ったようなキラキラした瞳で見つめてきます。しょうがありません、あまりこういうことはしたくありませんが、脅しましょう。


「聞いてください! 待たなければ、そこに置いてある焼きたての食パンを、私の手でペシャンコにしちゃいますよ!!」

「な・・・なんてことを!! 待ちます! 待ちますから、そのようなことはお止めください!!」


 ネズミのお母さんは持っていた丸い機械をテーブルの上に置きました。これでひとまず安心です。ですが、女の子は構わずに話しかけてきます。


「ねぇね、お姫様なの?」

「そうです。尻尾を掴むのは止めてください。スカートを捲るのも止めてください」

「チュー!! 凄く肌触りの良い布だね! これって普段着なの? 下着も同じ布なの?背負ってるバックは変な形だけど、いいバックなの?」

「たぶん部屋着です。下着はもっといいやつです。これはランドセルと言って、デザインを犠牲に機能性に優れたリュックです。あと服を嚙まないでください」


 何ですかこの子、グイグイきます。ペタペタと私を触ってくる女の子を横目に、なんだか微笑ましそうな顔をしているお母さんを見つめます。


「お願いがあります。顔をすっぽり隠せるようなマントかローブをください。さもなくば、この食パンを・・・」

「手でペチャンコにするんですよね。今お持ちしますから、少し待っていてくださいね」

「あ、はい・・・ありがとうございます」


 ネズミのお母さんはとても良い方です。クローゼットの中を漁っているネズミのお母さんの小さな背中を見ていると、何故だか泣きそうになってきます。


「ねぇね。お姫様! お姫様はどうしてアタシの家に来たの? お城に住んでるの?」

「窓が開いていたのと、美味しそうな香りがしたからです。お城ではなく、塔にいました」

「ねぇね。お姫様は塔から出ないようにしてるってお母さんが言ってたけど、違うの?お姫様はどこか行きたいの?」

「塔に閉じ込められてたんです。どうしても会いたい方がいるので抜け出してきました」

「ねぇね。それってお友達? それとも恋人?どんな人?」

「友達でも恋人でもありません。恐らく、これからの私に必要なことを教えてくれる方です」

「ねぇね。じゃあさ、お姫様はお友達っているの?」

「・・・分かりません」


 前世ではライトが居ました。同じクラスで、いつも笑顔に囲まれていた彼は友達と言ってもいい関係だったのでしょうか? 頻繫にパンを買いに来てくれましたし、友達ですよね?


「ショコラ姫様。こちらでいかがですか?」


 ネズミのお母さんが、白いローブを私にかけてくれました。パンの香りがします。


「ありがとうございます。これで私だとバレずに移動できそうです」

「フフッ、尻尾が見えていますよ」


 尻尾をくるっと丸めて隠します。これでバッチリです。


「んにゃ。じゃあ、私はこれで・・・」

「ねぇね。お姫様!」


 出るときは玄関から出ようと、体の向きを変えた所でネズミの女の子に首根っこを掴まれました。


「んにゃぁ! 首を絞めないでください!」

「ねぇね! 私とお友達になってよ! 」

「にゃにゃにゃ! 首を揺すらないでください!」

「私の名前はコンテ! お友達になって!」

「わ、分かりましたから! お友達になりますから放してください!」


 コンテは私の首を放して、ニッコリと嬉しそうに笑いました。


「私の名前はショコラ・ショコラトルです」

「チュー!!ショコラちゃん!」


 ネズミって本当に「チュー」って鳴くんですね。


「ありがとうございます。娘はこんな性格なので、他の子達には鬱陶しがられて中々友達が出来なくて・・・こんなに嬉しそうに鳴いたのはとても久しぶりです」

「それはよかったです。じゃあ、私はもう行きますね」

「はい。会えるといいですね。じょお――――」


ドンドンドン!!


 扉がノックされました。私が出ようと足を一歩踏み出した所でネズミのお母さんに手を優しく掴まれました。扉と私に交互に目線を向けたあと、「向こうに隠れていてください」とクローゼットの中を指差します。


「ショコラちゃん、行こ!」


 コンテに手を引かれてクローゼットの中に隠れます。


「ねぇね。何だかこの状況ドキドキするね。何でだろうね?」

「さぁ・・・私は別に。それよりも静かにしてください。何か話してるみたいです」


 ノックされたらすぐに出なきゃ、という前世の刷り込みのようなものがあって出てしまいそうになりましたが、ネズミのお母さんに止められて良かったです。どうやら、ノックした人はミルフィだったみたいです。


「ミルフィ様。どうされましたか? 人間が来ている為、不必要な外出は控えるようにと通達がありましたが・・・」

「緊急事態なの。姫様が塔から抜け出しちゃったんだけど・・・ここに姫様が来なかった? この家から姫様のニオイがするんだけど」


 ニオイ!? 私、臭うんでしょうか?


「すんすん・・・」

「ショコラちゃんはバターみたいないい匂いですよ」


 発酵乳のような香りですか? 褒められた気がしません。


「ミルフィ様、ここには娘の友達しか来ていませんよ」

「え? 極力外出を控えるようにって、通達されてるのに?」

「どうしても会いたかったみたいで・・・すみません」

「そう・・・危ないから親御さんに迎えに来させるか、この家で泊まらせるようにね」


 ネズミのお母さんは、私を庇ってくれました。本当にイイ人です。


「それで、本当にここに姫様は来ていないんだよね?」

「先ほども申しましたが、ここには娘のお友達しか来ていません」

「うーん・・・確かにここから姫様のニオイがするんだけど、パンの香りと混じったかなぁ」


 本当に私からバターのようなニオイがするのなら、混じったらとても美味しそうな香りになりますね。


「とりあえず、わかった。他を当たってみるね」


ガチャリ


 ミルフィは去っていったようです。私がクローゼットを開けて外に出ようとすると、コンテがそれよりも早くクローゼットを開け放ちました。


「コンテ。よくじっとしていられたわね。偉いわ」

「うん! ショコラちゃんと一緒だったから!」

「ん? そうね? よく分からないけど、よかったわ。・・・ショコラ姫様。正直、私としては大人しくミルフィ様と塔に戻った方がいいと思いますが・・・」

「それはなしです!」

「はい。ショコラ姫様の気持ちはよく分かります。私とコンテは常に一緒に暮らしていますが、離れ離れに暮らすなど考えられませんから・・・」


 ん? 何の話でしょうか?


「色々とありがとうございました、今度こそもう行きます」

「ねぇね。ショコラちゃん。またね!」

「・・・んにゃ! またね!」


 ドアノブに手をかけた所で、私は振り返って2人を見ます。


「そうそう。食パンはもう少し発酵をとった方がいいですよ。ホワイトラインが美しくないです」


 あ、家を出る前にトイレを借りれば良かったかもしれないです。今日は一回も行ってません。


――――。


 家からコッソリと出た私は、オレンジから黒へと変わりつつある街の中をコッソリと・・・は、面倒なので、堂々と屋根の上に登って移動します。


「さて、結局、どうやってエルフの長老を見つけて尋ねたらいいのか分かりません・・・にゃ?」


 もう暗く、そろそろ寝る時間も近いのに、馬車が数台ゆっくりと走ってます。まるで、街を物色しているようです。


「暗いのに、不思議とよく見えます。・・・それにしても、馬車なんて古代の化石みたいなもの、初めて見ました。さすが異世界です。もうちょっと近くで、いえ、せっかくなので乗せてもらいましょう。もしかしたら、あの中にエルフの方々がいるかもしれませんし。・・・んにゃ。そうしましょう」


 屋根の上を四足でダッシュして、勢いをつけて馬車の上に飛び乗ります。


ガタッ


 さすが私、最小限の衝撃で着地出来ました・・・が、馬が何か違和感を感じたようで、立ち止まり、振り返って馬車の上に立つ私を見てきます。凝視です。目を真ん丸にして、まるで驚いたみたいな顔で私をめっちゃ見てきます。


「気にせず走ってくださいっ」


 馬はチラチラと私を見ながらも、進み始めます。


「・・・ったく、獣王国には夜に遊べる店一つもないのか!」


 馬車の中からそんな怒鳴り声が聞こえてきました。どうやら、この馬車の中にいる方は夜に遊べるお店を探しているそうです。私は夜に出掛けることがないので知りませんが、普通はそんなお店があるんでしょうか?


「お店どころか、人っ子1人いねぇけどな。御者すらいねぇんだから、よっぽど信頼されてねぇんだろ。まるで、旦那の普段の行いを知ってるみてぇだな! ははは!」


 ん?


「黙れ!そもそも、貴様が獣王国の姫を救えていればこんな扱いにはならなかったハズだ! 何が世界一の精神魔法の使い手だ! 何の役にも立たん! それに、何故お前まで付いてくる!」

「世界一の精神魔法の使い手? そんなの名乗ったことねぇよ。そして、俺が旦那について来てる理由は簡単。獣人達に信頼されてねぇ旦那を、俺も信頼してねぇからだ。つまり、見張りだな! はっはっは!」


 んん?


「獣人は・・・その鋭い五感で人の噓を見抜くと言われている。そんな相手に下手な事が出来るわけないだろう」

「あれ? じゃあ、そんな相手じゃなければ下手な事をするってことか? 例えば・・・まだ噓を見抜く術を身に付けていない獣人の子供とか?」


 話してる内容も気になりますが、それよりも、もっと気になることがあります。


「おい、マイルス。この俺を誘拐犯に仕立て上げたいのなら諦めろ。俺のバックに誰がいるか、お前も知ってるだろう?」

「俺は誘拐なんて一言も言ってねぇんだけどな。それにバック? 何だよその歳になってまでママに言いつけるってか? 勘弁してくれよ。幼女趣味な変態ってだけでもキツイのに、これ以上キャラを濃くしないでくれよ。俺の影が薄くなっちゃうだろ?」


 マイルス・・・聞き間違いじゃないですよね?いえ、でも・・・彼がここに居るハズ・・・。


「・・・貴様は人を侮辱していないと生きていけないのか? はぁ、もうダメだ。貴様と2人でこんな狭い空間に居るくらいなら、宿に戻ってエルフ共に見張られてる方がまだ幾分かマシだ」


 エルフ!? エルフって言いました! 思い立ったら即行動。私はその場でバク転、馬車の屋根の端に手をつき、倒れる勢いを利用して、そのまま馬車の窓へ足を・・・


パリィン!!


 脆い窓ガラスでよかったです。馬車の中にダイナミックに突入して、格好良く着地出来ました。・・・さて、エルフと口にした人は・・・。


「うおぅ!? な、なんだ! 何者だ!?」


 プラチナブロンドの長い髪をセンター分けにした・・・若い? いえ、それほど若くはありませんが、無駄に襟の長い豪華な衣装に身を包んだ驚き顔の成人男性が私を見下ろしています。


 ・・・何者かと問われました。そうですね。まずは自己紹介です。私は立ち上がり、フードを外します。


「・・・黒猫の獣人? まさかおま―――!?」


ぺチッ


 とりあえず一発、殴っておきました。人間を見つけたら殴ると決めていたんです。的確に顎を狙ったハズですが、パワー不足みたいです。


「まさかお前は――――へぶっ!?」


ゴッ


 私は殴ってません。別の人が殴りました。金髪の人間。向かいに座っていた人です。・・・そうです! さっきから聞き覚えがある声だと思ってましたが・・・。


「ライト! どうしてここにいるんですか!? なんか・・・背が伸びました? 私よりも大きいです」

「それはこっちのセリフだ! お前、塔に居るハズじゃ・・・つーか、元からお前の方が小さ・・・って、クソッ、感情がまとまらねぇ。再開はもう少し先だと・・・心の準備がまだ・・・あぁ・・・ごめん、ごめんなぁ、助けてやれなくてぇ・・・」


 私の記憶にあるライトよりも一回り大きなライトが、何故か泣いて謝ってます。いつもニコニコ笑ってる彼らしくありません。


「・・・はぁ。ゆっくりと話したいところだけど、誰かこっちに向かってきてるな。たぶん、お前んとこの兎だな」

「ミルフィです。私を探してるんです」

「そうか。お前、塔から抜け出したんだな。ノエルらしい」


 いつになく真剣な表情のライトが、私に黄色い石を渡してきました。


「いいか、ノエル。お前の現状は何となく察してる。世界代理会議が終わる頃・・・一週間後には絶対に俺が迎えに行く。だから、塔に戻ったらコレを肌身離さず持っててくれ。絶対にバレないようにな。それがあれば離れていても俺と意思疎通が出来るハズだ」

「そうなんですか。凄いですね。じゃあ、パンツの中に入れておきます」

「パ、パ!? い、いやもっとこう・・・他にあるだろ!? へ、変な想像させんなよ!」


 ローブの中でパンツの中にしまおうとしたら、止められました。変な想像が何かは知りませんが、ライトが勝手にしてるだけです。私が責められる覚えはありません。


「しょうがないですね。じゃあ、別のところにします。とりあえずはランドセルに入れておきますけど」

「あ、ああ。部屋に戻ったら肌に触れているとこにしまっておいてくれ」


 ・・・パンツの中しかないと思うんですどね。


「そろそろ時間切れだな。あ、最後に一つ。この世界で俺はファミリーネームは捨てた。名前で呼んでくれ」

「分かりました。マイルス」


 ランドセルを開けて石をしまおうとしたら、ランドセルの中にノワールちゃんが居ました。黄色い瞳で私を見上げています。


「にゃ!」

「いつからいたんですか!?」

「ノエル。もう来るぞ早くしまってくれ」

「あ、はい」


 素早く石をランドセルの中に入れて、開け口を閉めます。そして、馬車がひっくり返りました。


「んにゃぁ!?」

「姫様!」


 気付いたらミルフィに横抱きにされて空中にいました。眼下にひっくり返った馬車と、上手いこと抜け出したマイルスが、動物達に囲まれているのが見えます。


「姫様! もう・・・心配したんですよ! 姫様が居なくなったら私・・・」


 涙を流しながらお説教をするミルフィに横抱きにされたまま、塔へと連れ戻されました。私は寒い夜風を浴びて尿意を我慢しながら、お腹の方に回したランドセルをそっと撫でました。


――――。


「いいですか姫様! このローブはしっかりと持ち主に返しておきますからね! それとその背負ってる変わったリュックは・・・」

「その前にトイレに行きたいです。トイレはどこですか?」

「・・・そこの扉を開けたら御手洗です」


 私はトイレに行き、用を済ませたあと、ランドセルの中を確認します。やっぱりノワールちゃんが入っています。ノワールちゃんしか入ってません。


「え、ノワールちゃん? 石はどうしたんですか? ランドセルに入れて置いたハズなんですけど・・・」

「にゃん!」

「もしかして・・・食べました!? 確かに小さめの石でしたけど・・・本当に食べたんですか!?」

「にゃ!」


 肯定するように片手をあげました。可愛い・・・じゃなく!!


「んにゃあ・・・なんてこと」


 世界代理会議が終わるのは7日後。マイルスはその頃に迎えに行くと言ってましたが、意思疎通が出来ると言われていた黄色い石はノワールちゃんが吞み込んでしまいました。私はどうするべきでしょう? マイルスを信じて待つべきでしょうか?

読んでくださりありがとうございます。馬車はミルフィが蹴り上げました。

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