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『黒猫』と『ランドセル』と『(異)世界一のパン屋さん』  作者: SHIRA
第1部 感情を取り戻したお姫様
5/8

んにゃ! 猫のようにしなやかに

「な、なんですかこれは!!??」

「クロワッサンですよ」


 そうじゃありません。そうじゃありません。私が言いたいのはそういうことじゃありません。


「サックサクなんですけど!?」

「そうですよ。クロワッサンはサクサクなんです。美味しでしょう?」

「美味しいとか、そういう問題じゃないですよ!」


 ガタッと机を叩くと、机の上に置かれていたミルクの入ったコップと、クロワッサンが載せられたお皿が揺れました。


「このクロワッサン・・・出来立てとかではないですよね?」

「そうですね」

「窯やオーブンで温め直したわけでも無いですよね?」

「違いますよ?」


 おかしいです。もう一度クロワッサンを口に運びます。


サクッ、パリパリッ


「もういえまめめむもいもいいえうは!?」

「姫様、口の中の物を飲み込んでから話してください」


ごっくん


「どうして冷めてるのにサクサクなんですか!?」

「どうしてと言われましても・・・それが普通じゃないですか?」

「これが・・・普通?」


 もしそれが本当なら、店舗を構えるのはまだ少し待った方がいいかもしれません。まずはこの世界の基準を知らなければなりませんし、どちらにしてもこの技術は身に付けなければいけません。その為にも・・・


「このパンを作った人を呼んでください! お話がしたいです!」


 クロワッサンを片手にミルフィをジッと見つめると、ミルフィは眉を下げて困った顔になりました。


「これを作ったのはエルフです」

「エルフ?」


 女神様の愛読書にも載ってた種族です。


「耳の形が変な瘦せ型の人達ですよね」

「え、まぁ・・・だいたいそんな感じですね」

「じゃあ、そのエルフの方を呼んでください」

「いえ、その、これは世界代理会議でこの獣王国に来ているエルフの長がお土産にくれたパンなんですよ。エルフの集落と獣王国はとても仲がいいので、パンを手に入れることは容易なんですが、さすがに作ってる人を呼ぶのは私の権限では・・・」

「なるほどです。こっちから会いに行けばいいということですね」

「え?」


 ミルフィは素っ頓狂な声を出して、目をパチクリとさせています。私、何か変なこと言ったでしょうか?


「そうと決まれば即行動ですね。その世界代理会議とやらはいつ終わるんですか?」

「え、三日後に始まって、そこから四日間続くらしいので・・・一週間後ですけど・・・って、ダメですよ!? 姫様!?」

「何がですか? 私はただその世界代理会議とやらが終わるまでにエルフの長老を説得して、集落に連れていって貰おうと思ってるだけです」


 ダメならコッソリ抜け出して、コッソリ付いて行くまでです。


「ダメです! 危険です! 女王様からは不安を煽るからと止められていましたが、しょうがありません。何故、世界代理会議の間に姫様がここから出てはいけないのかちゃんと説明します!」


 ミルフィは腰に手を当てて、プンプンと怒っています。


「世界代理会議というのは、様々な国のトップが集まり、世界の様々な問題について議論する場なんです。そこには我々獣人はもちろん、エルフやドワーフ、そして人魚、他にも色々な種族が参加します」


 人魚。知ってます。上半身が人間のお魚さんですよね。ドワーフは酒臭い小さいオジサンです。神様がそう教えてくれました。あまり会いたいとは思いません。


「そして、人間も参加しているいんです」

「人間ですか?」


  とても馴染みのある種族というか、前世の私がそうです。


「人間とは、危険な生き物です。この世界で最も数の多い種でありながら、最も傲慢で意地汚く野蛮で・・・それに噓つきなんです!」

「それは最低ですね! 人間は最低な種族です!」

「そうなんです! 人間は噓つきなんです! 私はこの間来ていた精神魔法の使い手の子供しか人間を見たことはありませんが、人間は最低なんです! エルフの方々がそう言ってました!」


 ミルフィはフンフンと鼻息を荒くして顔を近付けてきます。鼻息が当たるのが何だか不快です。手を突っぱねて遠ざけますが、ミルフィは気にすることなく話を続けます。


「エルフの方々はこうも言っていました。人間は他の種族が珍しいからと、勝手にその子供を連れ去ってしまうこともあると・・・。今、その人間がここ獣王国に来ているんです」


 なるほどです。もし人間に会うことがあれば、エルフの方々に代わって殴っておきましょう。


「本当は、私含め国中の獣人が世界代理会議を獣王国で行うことを反対していたんです。今まで、獣王国は獣人とエルフ、あとは本当に限られた者しか立ち入りできない場所でしたから・・・」

「そういうの、鎖国って言うんですよ。国を発展させる為のもっとも近道は、外国を知ることですよ」

「獣人は誰も発展など望んでいませんでした。・・・ですが、姫様を救う可能性のある精神魔法の使い手の派遣を条件に出されては、もう誰も反対することは出来ませんでした」


 私の為に色々としてくれたんですね。でも、それとこれとは別です。世界一のパン屋さんになる為には、人間が危険だからと立ち止まっている暇はありません。何としても、世界代理会議とやらが終わるまでにここから脱出して、エルフの集落に向かわなければいけません!


「ふぅ、ごちそうさまでした」


 クロワッサンとミルクを頂いた私は、最後に大きなバナナを食べて、口をあーんと開けさせられて歯磨きをされたところでウトウト・・・ウトウト・・・


「フフッ、そろそろお昼寝の――――」


―――――


『ママ! ・・・ママ! 助けて!!』


 ・・・っ!?


「っは、はぁ、はぁ」


 何か・・・凄く嫌な夢を見ていたような・・・。


「にゃーん」

「おはようございます。ノワールちゃん・・・今は・・・夕方ですか?」


 窓の外は綺麗なオレンジ色です。


「ミルフィは・・・いないですね。休憩中とかでしょうか」


 どうやら昼寝をしちゃってたみたいです。それも割と長い時間。

 私は胸の上に乗っていたノワールちゃんを退けて、窓の方へ移動します。敷いてある絨毯の感触が素足に心地良いです。


「さっきはそんな余裕は無かったですが、改めて見ると綺麗な街並みです。奥にあるのは海・・・いえ、湖でしょうか。その更に奥には立派な山脈が広がっているのが見えますね」


 風が無いのでしょうか、湖に綺麗に夕陽が反射して綺麗です。それに、眼下に広がる石造りの街並みがなんとも風情があります。


「ロマンティックですね。ノワールちゃん。・・・ノワールちゃん?」


 ベッドの上で毛繕いしてたハズのノワールちゃんがいませんでした。


「にゃーん」

「ノワールちゃん?」


 ベッドの下からノワールちゃんの声が・・・。


「ノワールちゃん。ベッドの下にはイケナイものがあると女神様の愛読書で・・・いえ、それは男の人の部屋でしたね・・・って、それ!」


 ノワールちゃんがベッドの下で、ランドセルを使って爪とぎしてます!


「ノワールちゃん、ちょっとそれ見せてください」

「んにゃ」


 ノワールちゃんがランドセルを咥えて引きずってベッドから出て来ました。


「ありがとうございます。いいこですね」

「にゃにゃ!」


 撫でてあげると、甘えた様に鳴きました。


「それで、このランドセルは・・・やっぱり、前世で私が使っていたランドセルです! 横に『ヤマブキ』って名前が書いてあります。心成しか、というか確実に新品みたいにピカピカです。さっきのノワールちゃんの爪の跡すらありません」


 そういえば、神様が『勉強のご褒美に、生前死ぬまでずっと持っていた物も一緒に送っておくわね』って言ってましたが、これのことだったんですね。背負うと、なんだかしっくりきます。


「ノワールちゃん、どうですか? 似合ってますか?」

「んーにゃ」

「似合ってないですか?」

「にゃ」


 似合ってないですか・・・。


ガチャ・・・


 ランドセルを背負って鏡を見ていると、重たい二枚扉が開かれました。片手にミルクティーの様なものが入ったカップをトレイに乗せて持っているミルフィの半身が見えます。


 ・・・扉が開いています! 今です!


「姫様、もう起床になられ・・・わぁ!姫様!?」


 私はランドセルを背負ったまま、ミルフィの股下を駆け抜けます。四足歩行で。ミルフィは咄嗟のことに驚きつつも、私を捕まえようとしますが、片手に持ってるトレイを気にして一瞬動きが遅れました。


「姫様!あ、ちょ・・・ミルクティーが・・・だ、誰か姫様を止めて!絶対に傷1つつけないように!」


 部屋から出ると、長ーい螺旋階段が下へ続いていました。壁には一定間隔に物騒な武器が飾られていて、所々に窓があります。その窓から色んな動物が現れました。


「姫様! 止まってください!」

「姫様! 出てはなりません!」

「姫様!部屋の中へお戻りください!」


 リスにキツネ、たぬきに小鳥、色んな動物が「姫様、姫様」と喋ってます。口の形が違うのにどうやって喋ってるんでしょう。後で一匹捕まえて聞いてみるのもいいかもしれません・・・が、今はとにかくダッシュです!


「邪魔です!」


 何故か体が勝手に猫の四足歩行のように走ってますが、とても走りやすいです。普通に走るよりも早いかもしれません。

 明らかに加減したように、壊れ物を扱うように私を捕まえようとする動物達を避けて、螺旋階段を下っていきます。


「姫様、本当に感情を得たのですね、喜ばしいことです。ヤンチャも微笑ましいですが、これ以上は洒落にならないウホ」


 ゴリラが喋っています。階段の幅いっぱいの大きな体のメスのゴリラです。「ウホ」って言いました。


「姫様! ゴリラ婦人の言う通りです。今、獣王国には人間がいるんですよ! 姿を出してはいけません!」


 後ろからミルフィと愉快な動物達もやってきました。完全に挟み撃ちです。・・・いえ、まだ逃げ道はあります。私のすぐそばに窓が・・・そしてその隣におあつらえ向きにデッカイ武器があります。私の身長よりも大きなハンマーです。あのゴリラ婦人に似合いそうです。


「姫様? どこを見てるのです? あ、姫様! 危ないですよ! そのような武器に触れてはいけません! 姫様には重すぎます!」

「シャー!! こっちに来ないでください! これ以上近づいたら爪で引っかきますよ!重たいなら好都合です! これで窓を割れます!」

「くっ・・・私の肌で姫様の爪を傷つけるわけには・・・」

「え、逆では・・・」


 と、とにかくハンマーを!


「あ、姫様!」


 重たそうなハンマーの取っ手に触れます。・・・大丈夫、持つ必要はありません、振り回せればいいんです。


「あれ?」


 ハンマーを持てました。思ったよりも軽いというか・・・重さがありません。不思議なハンマーです。これで本当に窓が割れるでしょうか?


「え、姫様?」


 ハンマーを持つ私に皆が何故か困惑しているうちに!


「離れていてください!危ないですよ!」


 体を回転させて勢いをつけて・・・窓に向かって投げます!


「んにゃああ!!」


バリィン!!


 窓が割れました! ハンマーが下に落ちていきます。落ちた先に人がいませんように。・・・本当に。

 それを確認する為にも、脱出する為にも、私は窓の外へと飛び出します。


「姫様!くぅ! 窓が小さすぎて通れない!」


 そんなミルフィの叫び声に押されて、私はついに外へと・・・


「って、高い! 高いです!」


 40mくらいはあるんじゃないでしょうか・・・なんて悠長に考えてる場合じゃありません!!


「んにゃぁ! 誰か!助けて! ママ・・・ミルフィ助け・・・」


 ダメです! 私はこのまま外に出るんです!


「ふにゃぁ!大丈夫、大丈夫です。今の私は猫獣人、そして重力操作とかいうものも出来るハズなんです!」


 本能に体を預けます。そうすべきと、脳が警告を出しています。


「大丈夫・・・大丈夫なんですよね!? 私の体!」


 尻尾のお陰で上手いこと落下中のバランスをとれているみたいですが、問題は着地です。猫は高い所から落ちても平気だと聞いたことがありますが、さすがに限度があるハズです。


 そうこう考えてるうちに、もうすぐそこに地面が近付いています、芝生にハンマーが落下して土が抉れているのが見えます。


「~~~~っにゃあああああああ!!」


 地面が! 地面がーーー!


「ふっ」


 ・・・綺麗な五点着地が決まりました。ランドセルに至っては傷どころか汚れ1つありません。


「いっ・・・」


 少し足が痛みますが、それだけです。私、あの高さから落下して、生きてます! 凄いです私!!


「・・・って感動してる場合じゃありません。追手が来る前に離れなければ!」


 目の前には大きなお城の側面が見えます。どうやら、私が居た塔はお城の隣にあったようです。

 ・・・目的はエルフの方に会うことですが、その前に追手を巻かなければですね。


「お城の方には沢山の動物達がうろついています。危険です」


 右の方、お城の正面には高い塀がありますが、その先に城下町があるのは知っています。


「まずはあっちで、潜伏して作戦を考えましょう。思わず考え無しに飛び出してしまいましたから」


 地面に手をついて、猫のようにしなやかにジャンプして塀を飛び越えて、城下町へと走りました。

読んでくださりありがとうございます。ハンマーの本当の重さは、大型二輪車くらいです。

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