私のギフト
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【ショコラ・ショコラトル(山吹ノエル)】
・黒猫獣人
・7歳
・117㎝
・22㎏
【褒美】
・完全記憶(光)
・重力操作(闇)
・大人になりたいです(闇)
【加護】
・闇の女神の加護
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「・・・名前と年齢以外分かりません」
「差し支えなければ、内容を教えて頂いてもいいですか?」
近くにあった紙に表示された内容をそのまま写して見せます。
「え・・・なにこれ」
「教えてくれるんじゃないんですか? ミルフィも分かんないんですか?」
「あ・・・そう・・・ですね。とりあえず、分かることだけ教えますね」
ミルフィは長い耳をぴょこぴょこと動かして考え込んだあと、紙を持って説明を始めました。
「名前が2つあるのは分かりません・・・もしかしたら私が知らないだけで王族には2つの名が与えられているのかもしれませんね」
それは前世の私の名前なんですけど、今はそれよりも説明させるのを優先したいので黙ります。
「そして女神様のご加護ですが、それがある者は大体普通の人の3倍から5倍くらい長生きしますね」
「え・・・やばいですね」
「はい、やばいです。女王様はああ見えて300年は生きてるんですよ」
やばいです。
「そして褒美ですが、これはその者の努力が形となったものです。カッコの中はその褒美の属性ですね。光・闇・草・土・火・風・水の7つの属性があり、それぞれ別の神様がいらっしゃるんですよ」
「神様のことはいいです。それよりも・・・努力ですか?」
何か腑に落ちません。
「はい。コツコツと積み重ねた努力によって得られる場合と、1つの大きな出来事がきっかけに得られる場合の2つがあります」
「なるほどです。その2つの違いは過程だけですか? それとも他に何か違いがあるのですか?」
私の質問に、ミルフィは「さすが完全記憶の持ち主ですね。理解が早いです」と目を瞬きながら教えてくれます。
「まずは前者ですね。得られる時期は早い人だと5歳くらい、遅い方だと上限がありません。ある時気付いたら得られていたって感じですね。ちなみに、積み重ねた努力によって得られた褒美には、その人の性格がよく出ると言われています。完全記憶などの記憶力系の褒美を持つ人は思い込みが激しいと言われていますよ」
「馬鹿にしてるんですか?」
「そ、そんな! 違います! ただ一般論としてそう言われているだけでして!」
ミルフィは長い耳をパタパタとさせて汗をドバドバかきながら慌てふためいています。何だか面白いです。
「フフフッ」
「ひ、姫様~・・・からかわないでくださいよ~」
ミルフィはぷくっと頬を膨らませながらも、幸せそうに笑います。
「それで、後者は何が違うんですか?」
「あ、はい。後者は私が知る限りは英雄と呼ばれる類の人達しか前例はいないですね。噂では、その時のその者の強い願いが形になるそうで、前者よりも強力な褒美を得られるそうですが、それこそ、死に目に会うような大変な経験をして得られるかどうか・・・という感じらしいです」
「死に目・・・ですか」
うーん、私が得た褒美は3つ。
完全記憶
重力操作
大人になりたいです
完全記憶はその名の通り、完全に記憶して忘れないということでしょう。既に記憶を失っていますが、それは女神様の力ですし例外なんでしょうね。そして、これは恐らく前世の私が得たものでしょう。学校の勉強に、パン作りの勉強、どちらもかなり頑張ったと自負してますから。
「重力操作・・・これってどういうものなんでしょう? 重力を操作出来るんですか?」
「恐らくは・・・質量操作という土属性の褒美は聞いたことありますが・・・。あ、でも!姫様は記憶が無いかもしれませんが、昔姫様が山で遭難なさった時に何かに潰されたような動物の死体が・・・いえ、この話はまた今度にしておきましょう」
今世の私が幼少期に使っていたということは、これも前世の私が獲得したものなんでしょうか? 重力を操るような努力をした覚えはありませんが・・・。
『死に目に会うような大変な経験をして得られるかどうか』
もしかして、前世の私の死因に関係があるんでしょうか。死ぬ瞬間に獲得した・・・。うーん、これ以上は考えても分かりませんね。とりあえずはそういうことにしておきましょう。
「大人になりたいです・・・何ですかこれ。これを使ったら大人になれるんですか?」
「さぁ~・・・。これも初めて聞く褒美です」
腕を組んで考え込むミルフィ。たぶん、考えてるフリだけして、実際は何も考えてないやつですね。返事が適当です。
・・・大人になりたいと思ったことは何度かありますが、別にそこまで強く願ったわけじゃないですし、これといって努力した覚えもありません。・・・ん? 覚えがないということは、記憶が無い今世の私が関係しているのかもしれません。
・・・出来れば、もっとパン屋さんに役立つ褒美が欲しかったです。
「それにしてもギフト・・・褒美って名前。何か変じゃないですか?」
「そうですか?」
「変です。だって、自分の頑張りで勝ち取ったものなのに、誰かから贈られたものみたいじゃないですか」
もっと別の名前の方がしっくりくると思うのです。
「フフッ、それは考え方次第ですよ、姫様。努力とは、将来の自分へのご褒美ですよ」
「変わった考え方ですね」
昔の自分も今の自分も全部自分です。
「ところで、褒美ってどうやって使うんですか?」
「ん~・・・それはその種類にもよりますが、大体は、腕を動かすのと同じように自然と体に馴染んで使えるものです。私は【脚力増加】という褒美を持っていますが、意識せずとも使えますから・・・」
言われても分かりません。・・・まぁ、このことは後回しでいいでしょう。そんなことよりも、私は世界一のパン屋さんを目指しているのです。その為にも何としても店舗を貰わなくては!
「黙って待ってなんていられません!」
「へ?」
「もう一度お母様に会いに行きます!」
「姫様!?」
ベッドから飛び降りて、タタッと駆け出して扉を開け・・・開け・・・。
「重たっ!!」
体重をかけて押してもビクともしません。
「何ですかこの扉! 鍵ですか!? 内側からは見えませんけど、外側から鍵が掛けられているんですか!? まるで壁を押してるみたいなんですけど!?」
「姫様! 何をしてるんですか!」
ミルフィが後ろから私の肩を上から押さえて止めてきます。
「放してください! お母様に会いに行くんです!」
「なりません!女王様にここで待っているよう言われたではありませんか!それに、私も暫くは姫様をここから出してはいけないと命令されているのです!」
出してはいけない・・・?
「私、閉じ込められてるんですか!?」
「違います! 守られているんです! あ! 姫様!!」
ミルフィの腕を噛んで、一瞬緩んだところを素早く脱出します。扉がダメなら窓です!
「姫様! どこに向かわれているのですか! そちらは窓ですよ! ここは塔のてっぺんですよ!?」
窓を開けてる暇はありません。こうなったら体当たりで割ります!窓は・・・あのカーテンの奥ですね!
バサッとカーテンを開けて、体に回転を加えて、腰を使って思いっきり床を蹴り、窓に体当たり!
ドスッ、ゴン!
「いたぁ・・・」
割れません!肩と頭を強打しました。痛いです。
「何でかこの窓は! 分厚すぎます! それに、開けれません!」
「当たり前です! 窓の外をご覧ください! 50m程の高さですが、まだ子供の姫様では当たり所が悪ければ大怪我をしてしまうかもしれません」
50mの高さだったら普通に死んでしまうと思うんですが・・・。
「危なかったです。そういうことは先に言ってください」
「それはこっちのセリフですよ。もう・・・ああ・・・おでこが赤くなってしまってます。少し待っていてください、湿布薬がこの辺りに・・・」
ミルフィは後ろを向いて、棚の中を漁り始めます。
「尻尾・・・」
ミルフィのお尻に兎の尻尾が付いています。
「ん?」
ふと、自分の脹脛に何かが当たりました。今気づきましたが、私はパジャマの様な白いワンピースを着ていました。そのワンピースのスカートの中から、何か毛の生えたものが出ていて、私の足に触れています。
「何ですかこれ」
掴もうとすると、捻った私の腰と一緒に逃げていきます。
「むぅ」
掴もうとしても、掴もうとしても、逃げていきます。グルグルと回って必死に掴もうとしていると、「クスクス」と笑い声が聞こえてきました。
「何を笑ってるんですかミルフィ」
「いえ、すみません。とても可愛らしいなと思いまして。幼い猫系の獣人がよくやることらしいんですけど、初めて見れました。うふふ。カカオに自慢できます!」
「はい?」
「ん? もしかして、気付いていませんか? 姫様はご自身の尻尾を追いかけていたんですよ。フフッ」
自身の尻尾? 確かに、母親に猫耳と尻尾があるなら、私にもあってもおかしくありません。そういえば、私はまだ目覚めてから鏡を見てませんでした。鏡はどこでしょう?
「姫様? 何かお探しですか?」
「鏡はないですか?私の全身が見れる程大きなやつです」
「あ、はい。ございますよ。子供用の少し小さいものがこちらに」
ミルフィはそう言いながらクローゼットであろう扉の隣に置かれていた布の被った物を指差しました。白いウサギさんが刺繡された可愛らしい布です。
ミルフィが刺繡をしたんでしょうか? なんて考えながら鏡の前へ移動していると、ミルフィがその布が退けてくれました。そして、そのピカピカに磨かれた豪華な鏡に写っていたのは・・・。
「私が写ってます」
「ん? そうですね?」
鏡には、前世の私と瓜二つな女の子が写っていました。ただ、前世と違うのは、耳が猫耳になっているのと、尻尾が生えていること、そして瞳の瞳孔が猫のように鋭くなっていることです。・・・身長も縮んでしまってますが、2歳も歳が減って7歳になってしまったからでしょう。すぐに伸びるハズです。たぶん。
「にゃーん」
鏡をじっと見つめていたら、子猫ちゃんが私の足にスリスリと体を擦り付けてきました。可愛いです。甘えてるんでしょうか?
「ねぇ。ミルフィ。この子猫ちゃんの名前は何と言うんですか?」
「ノワール様ですよ。この塔で姫様と共に育った黒猫様です。姫様にとっても懐いていて、だいたいいつも姫様の傍にいらっしゃいますね」
「ノワールちゃんと言うんですね。残念ながら記憶はありませんが、これからもよろしくお願いします」
ヨシヨシと頭を撫でて上げると、ゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうに目を細めました。フフッ、とっても可愛いです。
「あぁ、姫様のこんな幸せそうな笑顔を私が独り占めしていいんでしょうか・・・いえ、これこそ姫様付きのメイドの特権です。しっかりと目に焼き付けなければ!」
「そんなに目を見張らいたら、目が乾いてしまいますよ。瞬きをしてください。せっかくの可愛い顔がもったいないです」
「ひ、姫様・・・わ、私が可愛いなんて・・・そんな///。姫様の方が断然可愛らしいですよ!」
その場でピョンピョンと跳ね始めました。まるでウサギです。・・・いえ、ウサギでしたね。
「それにしても、お腹が空きました。今何時ですか? パンはまだですか?」
「もうすぐ12時ですね。そろそろ来ると思いますよ」
お昼ご飯を食べたら、またここから出る方法を考えなければいけません。・・・窓ガラスは硬いし、割れたとしてもここは50m以上の高さです。それに、扉は何故か私の力では全力で押しても開かないほど重たいです。ビクリともしませんでした。
・・・ん? パンが運ばれた時に扉が開かれるハズです。その時に出られるのでは?
「姫様。黒猫は、神話の時代に女神様を背に乗せられたと言われているとっても尊い存在なのです。ですから、この国で・・・この世界でたったお一人の黒猫の獣人の姫様も、何よりも尊い存在なのです。ですが、そんなもの関係無く私は姫様が大好きです」
「黒猫に女神様が乗ったんですか? 女神様はそんなに小さくありませんよ?」
私がさっきまで神妙な顔をしていたせいでしょうか? ミルフィは心配そうな顔で屈んで、私の目線に合わせてお話します。
「私だけじゃありません、この獣王国の民も、臣下も、女王様も、皆が姫様が大好きなんです」
「それは嬉しいですけど・・・ミルフィは何が言いたいんですか?」
首を傾げる私に、ミルフィは「それを分かって頂きたいだけです」とニコッと微笑んで言いました。
コンコン。
扉がノックされました。どうやらパンが運ばれてきたようです。
・・・隙を狙って部屋から脱出しようと思いましたが、せっかく私の為にパンを持って来てくれたんです。それを食べないのは作ってくれた方はもちろん、そのパンの原料などに携わった方にも失礼です。
「お昼ご飯の時間です。・・・どんなパンを持って来てくれたのか楽しみです」
読んでくださりありがとうございます。扉は引けば開きます。




