表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『黒猫』と『ランドセル』と『(異)世界一のパン屋さん』  作者: SHIRA
第1部 感情を取り戻したお姫様
3/4

お母様のおっぱいとステータス

「んにゃん」


 目の前から聞こえてきた可愛らしい鳴き声で目を覚ますと、可愛らしい子猫ちゃんの顔が目の前にありました。


『フフッ、黒猫ちゃんです』


 今の状況は全く分かりませんが、目の前の可愛らしい光景に思わず頬が緩んでしまいます。黒猫ちゃんは、そんな私を見て一瞬目を見開いたあと、まるで愛しい存在を愛でるように私の額をペロペロと舐めてきます。


ガチャン!!


 今度は横から聞こえてきたガラスを落として割ったような音で、まだ覚醒しきっていなかった頭が完全に覚めました。ここはもう・・・別の世界?


『子猫ちゃ・・・』


 あ、別の世界なら、別の言葉で話さないとですね。せっかく女神様から教えてもらったんですし。


「子猫ちゃん、ちょっと退けてください」


 私のぺったんこな胸の上から子猫ちゃんを退けて・・・。


「え!? 胸がぺったんこになってます!?」


 そんな・・・。前の私は少しだけですけど、膨らみ始めてたのに・・・。


「い、いえ、今はそんなこと・・・そんなことで片付けていいことではありませんが、今は現状を把握することが大事です」


 子猫ちゃんを退けたことによって、知らない天井が見えました。妙に装飾に凝った落ち着かない天井です。女神様は別の世界に生まれ変わらせたと言ってましたが、今世の私はお金持ちなんでしょうか?今寝ているベッドも無駄に大きいですし立派です。家具も何だかピカピカしていて、やっぱり落ち着かないです。


「そして・・・誰ですか?」


 私が寝転がっている立派なベッド、そしてやたらと大きな二枚扉。その間の中間地点でぼけーっと焦点の合わない目で立ち呆けている・・・白い髪のメイドさん?に、問い掛けます。


「その頭から生えている兎の耳はどうなってるんですか? それに、どうしてメイド服なのにスカートじゃなくて短パンなんですか?足元に割れたティーカップが落ちてますけど大丈夫ですか?」


 気になったことをとりあえず聞いてみましたが、反応がありません。上半身を起こして、手を振ってみたり、子猫ちゃんの手を振らせてみたりして様子を伺ってみますが、無反応です。


「もしかして死んで・・・」

「はっ!!??」


 兎の耳を生やした不思議なメイドさんは、ビクッと体を跳ねさせたあと、我に返ったようにパチパチと瞬きをして、パクパクと口を動かします。


「ひ、ひ・・・姫様が笑われました!!??」

「んにゃ!? きゅ、急に大きな声を出さないでください!」


 変な声が出てしまいましたし、膝の上に乗っていた子猫ちゃんが驚いて反対側のカーテンの方へと跳んでいってしまいました。


「ひ、ひ、姫様が・・・」

「今度はなんですか」

「喋りましたああああああ!!??」

「んにゃあ!?」


ボフッ


 不思議なメイドさんが人とは思えないくらい大口を開けて有り得ない大声を出したせいで、今度は私がベッドからピョンっとカーテンの方へと跳びました。心成しか私の髪の毛が少し逆立っているような気がします。


「なんなんですか! びっくりさせないでください!!」

「ひ、姫様が怒ってらっしゃる・・・」


 本当に何なんですか。


ガコン!!


「ミルフィ!! 何があった!? もしかして姫様に異変が!?」


 知らない人が勢い良く扉を開けて入って来ました・・・と思いましたが、知ってる顔です。というか、さっきからおかしな言動をしている白い兎のメイドさん・・・ミルフィさん?と同じ顔です。色違いです。白い肌に白い髪と耳のミルフィさんに対して、入って来たのは黒い兎の耳に、茶髪、褐色肌です。髪型はどちらもショートボブで瞳の色もどちらも赤色です。女神様はこういうのを2Pカラーと言うと教えてくれました。


「カカオ! 見てよ! 姫様が怒ってらっしゃるの!」

「本当だ・・・マジかよ。頬を膨らませてるし、髪の毛も耳も逆立ってるし、尻尾の毛も膨らんでる・・・完全に怒ってるじゃん」


 尻尾? 何を言ってるのか分かりませんが、黒い兎の方がカカオという名前なのと、セリフと表情が合っていないことは分かります。二人共、何だか感極まって泣きそうな表情をしています。怒っている私に怯えて泣きそうとかではなく、何故か嬉しくて泣きそう。そんな風に感じます。


「あの、さっきからこれはどういう状況なんですか? どっちでもいいので説明してください」

「あ・・・そ、そうですね。本日の担当メイドである私、ミルフィが説明します。・・・カカオ、褒美(ギフト)を使用してもいいから、急いで女王様にこのことを知らせて」


 2人はお互いを見合って、一度深く深呼吸したあと、カカオさんは勢い良く部屋の外へと飛び出していき、ミルフィさんは床に散乱したティーカップを素早く片付けて、私が寝ていたベッドの横に置いてあるサイドチェアに腰掛けました。


「姫様・・・少しお話をしましょう。どうぞ楽な姿勢になってくださいませ」

「はい」


 どうやら落ち着いたらしいミルフィさんに少しホッとしながら、私はベッドに腰掛けます。子猫ちゃんも私にもたれ掛かるように座りました。


「姫様。姫様は生まれてから今まで感情がありませんでした」


 そういえば、女神様がそんなことを言っていましたね。


「我々はその原因を知ろうと、そして治そうと様々な手を尽くしておりました。そして、原因は身体的なものではなく精神的なものだと知った我々は、世界中の精神魔法系の褒美(ギフト)を持つ者達に依頼して、姫様の精神をどうにか正常に出来ないかと試みていましたが、上手くはいきませんでした。姫様には精神魔法と相性が悪い記憶力系の褒美(ギフト)を持っているのでは?と皆が考え諦めかけていました」


 ギフト? 私はそんなものを貰った覚えはありませんが・・・。そういえば、女神様がくれると言っていたご褒美はどこにあるんでしょう? 一緒に送るとかって言ってましたが・・・。


「そうして、姫様に近しい私共も諦めかけていた頃です。先日の姫様の7歳の生誕祭の時に招待した人間の・・・」

「え!?」


 ちょっと待ってください! 今、聞き捨てならない言葉が聞こえましたよ!?


「ミルフィさん! 今、7歳の生誕祭って言いました!? それっていつのことですか!?」

「え? えっと、3日前のことですけど・・・。あと、メイドである私に敬称は要りませんよ」


 なんてことでしょう・・・。9歳だったはずなのに、7歳になってます。子供になってしまいました。胸もぺったんこなわけです。・・・ショックです。


「・・・そういうわけで、姫様はその人間の子供のお陰で感情を得たのです」


 しまった。私としたことが、あまりのショックにミルフィの説明をまったく聞いていませんでした。


「ところで、姫様。私のこと・・・覚えておいでですか?」

「知らないですよ」

「そう・・・ですか。現状の説明を求めたりと、他にも姫様の反応に違和感があったので、もしかしてと思ったのですが、感情を得た代わりに記憶を失ってしまったのかもしれませんね」


 ミルフィが少し寂しそうに微笑みました。


ガコン!


「ミルフィ! 女王様を連れて来たぞ!」


 何故か裸足になっているカカオが扉を勢い良く開け放って、そう言い放ちました。


「女王様?」

「姫様。姫様のお母様のことですよ」


 ミルフィがこっそり、何故か私の頭に耳打ちしてくれました。頭に言われたのによく聞こえます。


「女王様! 何を怖気づいてるんですか。さっさと入ってくださいよ!」

「カカオ・・・待ちなさい、まだ心の準備が・・・」


 カカオに背を押されておずおずと入って来たのは、灰色の長い髪に、灰色の猫耳、そして灰色の尻尾が三つも生えています。三又の尻尾です。

 少し吊り目で瞳孔が猫みたいに鋭いですが、不思議と柔らかい雰囲気の人です。・・・というか、人と言っていいんでしょうか。明らかに本来あるハズのない箇所に耳がありますし、尻尾も生えていますが・・・。


 あれが・・・今世の私のママ。いいえ、私のママは1人だけです。ミルフィはお母様って言ってましたよね。


「お母様」

「・・・っ!! うっ・・・ふぐぅ・・・うう・・・」


 何気なく呟いた私の言葉を聞いたお母様は、顔を両手で覆い、嗚咽交じりに泣き崩れました。メイド2人が涙を拭っているのが視界の端に見えますが、私は別に何とも思いません。だって、私は始めて会いました。


「やっと・・・やっと・・・呼んでもらえた・・・! ショコラ! 愛してるわ!!」


 膝から崩れていたお母様は、そのまま床に膝を擦るように私に寄ってきて、ギュッと抱きしめてきました。・・・うわっ、凄いです!凄いおっぱいです!! これがお母様ってことは、私も将来的にはこうなるんでしょうか!! まずいです。あまりの嬉しさに、また頬が緩んでしまいそうです。


「えへへ・・・」

「ショコラ・・・笑っているわ・・・。見てちょうだいミルフィ!カカオ! ショコラが! 笑ったわ!」

「そう・・・ですね。ぐすっ、とっても愛らしい笑顔です」

「だな。・・・ったく、柄にもなく泣きそうだ」


 お母様は、幸せを嚙みしめるように、大切な宝物を取り戻したかのように、私の頭を撫でてくれました。・・・ですが、私の脳裏に過るのは、前世のママです。・・・会いたいな。ママ。


「ショコラ、遅くなったけれど、7歳の誕生日おめでとう」

「・・・ショコラ?」


 さっきから呼んでますが、それが今世の私の名前でしょうか? 首を傾げる私に、お母様も首を傾げます。そんなお母様の猫耳に、ミルフィがコソコソと耳打ちしました。


「・・・そうなのね。記憶が・・・。ショコラは記憶力系の褒美(ギフト)を持っているハズだけど・・・でも、ありえるかもしれないわね」

「どういうことですか女王様」


 私を抱きしめたまま、会話が始まってしまいました。・・・こっそりとお母様のおっぱいを揉んでみます。とても・・・見事です。


「ただの憶測だけど、ショコラの記憶力系の褒美(ギフト)に対抗するために、全力で精神魔法を使った結果、感情を得た代償に記憶が失われてしまったのかもしれないわ。もしくは、感情がない原因に記憶が関係していたか・・・」

「そんなことが・・・あの精神魔法の使い手・・・人間の子供は何と?」

「それが、『俺は何もしてない。全部女神様のお陰だ』って謙遜ばかり言って、何も教えてくれないみたいなのよ」


 女神様のお陰なのはその通りなんですけどね。恐らく巻き込まれたであろうその子供が可哀想です。


「よし、そしたらアタシが今その人間のガキをここに連れて来て洗い浚い吐かせます!」

「よしなさいカカオ。ショコラの住んでるこの塔は男子禁制よ。それに、恩人にそんなことをしてはダメ」

「ですが女王様!」

「カカオ。あまり大きな声で叫ばないで頂戴。この子が怯えたら大変だわ」

「あ・・・」


 お母様はそう言いながら私の頭を優しく撫でます。びっくりはしますが、その程度で怯えたりはしません。というか、最初のミルフィの方が大きい声を出してました。

 チラッと見てみると、ミルフィはバツの悪そうな顔をして目を逸らしていました。耳が垂れているのが何だか愛嬌があって可愛いです。

 

 ・・・それにしても、私も将来こんなおっぱいが手に入ると思うと・・・早く大人になりたいです。


「それに、失ったとしてもたった7年だもの。これから何百年、ずっと一緒にいればいいだけのことだし、言葉は理解しているのだから、きっと全ての記憶が消えたわけではないわ」


 お母様は私をじっと見つめたあと、愛おしそうに頬に口付けをしました。・・・何百年?


「お母様。何百年ってどういう・・・」

「そうよ。これからは色んな思い出を一緒に作っていきましょうね。ショコラ。生まれてきてくれてありがとう。本当に、本当にお誕生日おめでとう。そうだ。今までは一方的に贈っていたけれど、何か誕生日プレゼントで欲しいものはあるかしら?」

「パン屋さんが欲しいです」

「「「え?」」」


 私以外の3人が首を傾げました。

 話を聞く限り、恐らく私は一国のお姫様です。パン屋さんの一軒くらいなら貰えると思ったのですが・・・この反応は何でしょう?


「あ、ああ、そういうことね。あとでとっても美味しいパンを運ばせるわね。でも、本当にそれだけでいいの?」


 ん? お母様の言っている意味が分かりません。欲しいのは店舗であって、パンではありません。いえ、パンも欲しいですが、そういうことじゃないです。

 首を傾げる私に、他の3人は「子供らしくて可愛いですね」「無欲だな。アタシなら肉がいい」「まだ7歳だものね。他に思いついたら言ってね」と和んでいます。


 何か勘違いされてません?


「いや、私が欲しいのは・・・」

「女王様・・・そろそろ」


 扉の方から、別のメイドさんが申し訳なさそうに声をかけてきました。


「もう少しだけ・・・ダメかしら」

「ただでさえ・・・その・・・誕生祭で時間が足りていないのです。これ以上はさすがに・・・」


 お母様は「はぁぁ」と深く溜息を吐いた後、もう一度私をギュウっと抱きしめて、また口付けをしたあと、寂しそうに眉を下げながら口を開きます。


「またすぐに戻ってくるわね。それまでいい子で待っていてね。ショコラ」


 お母様は、それはもう凄く名残惜しそうに、カカオを連れて去って行きました。カカオが去り際に笑顔で手を振ってくれました。喋り方は男勝りですが、笑顔はとっても可愛い人です。

 そして、部屋には私と子猫ちゃんとミルフィだけになりました。


「女王様は2日後に行われる世界代理会議の準備で忙しいんです。それが終わればきっとたくさんお話出来ますからね」


 ミルフィは慰めるように言ってくれますが、別にそこまで気にしてません。


「それよりもミルフィ。聞きたいことがいくつかあるんですけど」

「はい、どうぞ姫様。体重とスリーサイズと初恋の相手以外なら何でもお答えしますよ」

「それはどうでもいいです」


 お母様よりも小さいのは一目瞭然です。つまり、将来的にああなる私よりも下です。


「私が聞きたいのは、ギフトについてです。記憶力系のギフトがどうとか言ってましたが、何ですか?」

「あ、そうですね。それをまず確認しないとですね! 姫様、とりあえず”ステータスオープン”と唱えてください」

「ステータスオープン」


ブォン


「んにゃあ!! 何か出ました!」


 目の前にホログラムみたいなウィンドウが出てきました。また変な声が出てしまいました。


「そこに表示されているものが、姫様の情報になります。ちなみに、鑑定系の褒美(ギフト)を持っていない限り、他の者には見えませんよ。もちろん、私にも見えてません」


 私の情報ですか・・・。黒色の半透明のウィンドウには、私の知らない私の情報が8割くらいを占めていました。

読んでくださりありがとうございます。ミルフィが落としたティーカップは自分用の物です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ