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『黒猫』と『ランドセル』と『(異)世界一のパン屋さん』  作者: SHIRA
第1部 感情を取り戻したお姫様
2/4

スタートライン

「あなたは死んだのよ」


 サラサラな黒髪の・・・羽の生えた女の人が、淡々とした口調で、それでいて憐れむような目つきで私に向かってそう言っています。


「私は生きています」


 こうして呼吸をして会話しているんです。死んでたら出来ません。


「いいえ。死んだのよ。私は・・・そう、神様だから分かるのよ」

「なるほど、納得です」


 神様は呆れたようなジト目で私を見てきます。喧嘩でも売られてるんでしょうか?


「何ですか? その目は。私に喧嘩を売ってるんですか? 買いますよ?」

「うわぁ・・・相手が神様だと理解した上でこれなんて・・・子供とは思えない胆力ね。この状況を疑問に思ったりしないのかしら? それとも現実逃避?」

「現実逃避じゃないです。それと疑問はあります。私はママと一緒にお布団の中で寝ていたハズです。それなのに何故か木造の・・・知らないお家の中で神様に死を告げられてるんですから。それに何だか耳と腰に違和感も・・・というか、私はどうして死んだんですか? それよりもママは・・・ママは! ママとはもう会えないんですか!?」


 さっきまであったハズのママの温もりが・・・まるで遠い昔のような・・・心にぽっかりと穴が空いたような・・・。


「うっ・・・ふぇ・・・」

「あ、泣いてる・・・良かった。ちゃんと感情があるみたいね。それじゃあ、説明をするわよ」


 神様は、泣いてる私にお構いなしに淡々と説明を続けます。言っていることは理解できますが、感情が追いつきません。


「本当は死因とかを色々と説明してあげたいところだけれど、面倒くさいし、その時のショックであなたは抜け殻みたいになっていたから今は記憶を消している状態だし・・・死因は教えるつもりはないわ」

「ぬ・・・抜け殻? どういうことですか?」

「あなたは元居た世界とは異なる世界に転生したわ。でも、抜け殻のように感情を失っていたのよ」

「転生?」

「生まれ変わるということよ。今、神様の間で地球の人間を送って新しい流行を私達の世界にもたらせるのを流行っているのよ。・・・まぁ、普通は転生じゃなくて転移なんだけれど、あなたの元の体は使い物にならなくなってしまったから、転生よ。丁度いい器もあったことだしね」


 転生・・・別の世界で別の人間に生まれ変わるということですね。理解しました。


「でも、転生させたはいいものの、生前のショックでお人形みたいになっていたから、記憶を消してもう一度説明しているのよ」


 神様の話は理解はしていますが・・・やっぱり突然のことで心が追いつきません。


「そうね・・・本当は転生先の世界のことを説明したかったけれど、心の整理を優先させた方がよさそうね。あなたは理解が早いし、転生先でその都度学んでいくといいわ。面倒だし、その方が面白いでしょう」

「いいえ、今説明してください。面白いとかいらないですし、私は大丈夫です」

「いいから、神様の言うことは黙って聞いていなさい」


 イラッ・・・


「転生先の常識などはあっちで聞いてもらうとして・・・っと、その前に言語の壁があったわね」

「言葉が違うんですか?」

「違うわね。そこはしっかりフォローしてあげるから安心してちょうだい」


 神様は部屋にある大きな本棚から何冊か本を取り出して、私の前に積みます。【日本語】? ・・・知らない文字が書かれた分厚い本と、人物の絵が描かれた薄い本の束です。


「頑張って勉強して、あっちの言語を習得するのよ。リスニングとかは私も付き合うし、なんと、ご褒美もあるわよ」


 まるで子供をあやすようなニンマリとした目付きで言う神様に、私は一歩前に出てムッとした表情で物申します。


「ご褒美と言うなら、元居た世界に転生させてください。・・・というか、生き返らせてください」


 神様なら出来るでしょう。


「いくら神様()でも、生き返らせるのと時間を巻き戻すことは不可能よ」

「じゃあ地球に転生・・・」

「可能ではあるけれど、今現在ある記憶は全て無くなって、全くの別人として生まれ変わることになるわよ?」


 神様なのに、融通が利かないです。


「融通が利かないって顔をしてるわね。・・・実は、私達はあなたが居た地球の神ではないのよ。地球の神様はそういうルールにとてもうるさくてね。私達の世界に転移や転生させるのも色々と条件を付けられているくらいだもの」

「私に選択肢はない・・・ってことですか?」

「そういうことよ。あなたは理解が早くて助かるわ。ほら、さっさとお勉強よ」


 涙で濡れた頬を拭って、私は辞書を手に取りました。色々と疑問はありますが、とりあえずお勉強の開始です。とりあえず行動。それが9年も生きてきた私が辿り着いた真理です。


~~~~。


 くぅ~~・・・。


 私のお腹が鳴りました。ここが何処かは分かりませんが、しっかりとお腹は空くようです。ナットーマキ?とかいう不思議な食べ物を食べながら、たったの一日で読み切りました。


「・・・不思議です」


 読み終えた本達を眺めて呟いた私に、神様は得意気に口を開きました。


「そうでしょう。それは大豆と言う豆を腐らせて・・・」

「違います。ナットーマキのことじゃありません。正直、私の口には合いません。臭いです」

「あなた・・・人の・・・この女神ビオラの話を遮るなんてとんでもないことよ。それと、他人の家で出されたものに文句を言わない」


 ビオラと言う名前の女神様なんですね。よく見ると耳が尖っています。

 女神様はふわっと浮かび上がり、鋭い目付きで私を見下ろしてきます。喧嘩を売られてるんでしょうか?


「あなた、とりあえず相手を睨まないと死んじゃう呪いにでもかかっているの? ・・・っと、もう死んでいるんだったわね。・・・それで? 何があなたは何が不思議に思うのよ?」

「はい。勉強は好きなんですが、こんなにすんなり本の内容が頭に入ってくるなんて不思議です。まるで天才にでもなったみたいです」

「あなたが天才? そんなわけないでしょう。それはあなたの今までの努力が報われている証よ。それよりも、日本語を習得したのならさっさと今のあなたの家へと転移させるわよ。勉強のご褒美に、生前のあなたが死ぬまでずっと持っていた物も一緒に送っておくわね」


 女神様はチラッと本棚の横にあるアナログな古い時計を見て、ソワソワとした様子で私に手を振りました。するとその瞬間、目の前がぐにゃりとねじ曲がり、視界が暗転していきます。


「ママ・・・何がどうなってこんなことになったのか、まだ分からないことも多いですし、何やら記憶も一部消されてしまいましたが、ママの夢、ママとの約束は忘れていません。『世界一のパン屋さん』。ママを幸せにする為の約束で、本当の意味でその約束を果たせるかは分かりませんけど、今の私に残されているのはその約束だけです」


 女神様達の愛読書であっちの世界の常識も学べました。私は死んじゃいましたけど、ママは向こうの世界で今も頑張って『世界一のパン屋さん』を目指しているかもしれません。だから、私はこっちの世界で・・・『()世界一のパン屋さん』を目指します!!


~~~~。


 ノエルが勉強を終え、帰されて少し経ったあとのこと。女神様の家で・・・。


褒美(ギフト)があるとは言え、凄い集中力ね。まさかたった一日で終えてしまうなんて・・・」


 女神ビオラ。それは闇を司る女神。漆黒の髪に、漆黒の瞳と羽を持つ彼女の大好物は・・・。


「たっだいま~!」


 勢い良く扉を開けて、外で吹雪く雪と共に煌びやかに登場したのは、長い金髪に青い瞳、金色に輝く羽を持った・・・光を司る女神。女神ビオラはギューッと抱きついた。そして、甘えるように声を出す。


「ソニア。おかえり、遅かったわね」

「ごめんね! 他の5人の女神達と話が盛り上がっちゃって、皆それぞれお気に入りの子を転移させて、観察してるみたい!」


 7人の転移者・・・いや、6人の転移者と1人の転生者を神達はこっそりと観察していた。


「それで、ビオラのお気に入りっ子はどこ? 確か今日がその日だよね?」

「それは昨日よ。もう勉強を終えて帰したわ。遠隔とはいえ、記憶を消すのを手伝ってくれてありがとうね」

「え!? たった一日で1つの言語をマスターしたの!? わたしも会いたかったのにー!!」


 プリプリと怒る光を司る女神ソニアに、女神ビオラは「フフ」と笑う。


「またそのうち()()()()紹介するわよ。・・・気が向いたら」

「それ絶対紹介してくれないやつじゃーん。前に会った時は人形かってくらい感情を失ってたからね~、また会いたいな~・・・って、うわっ!? この散らかってる本はあの子の勉強で使った本かな?」


 女神ソニアは辞書を持ちあげ、隣に置いてあった薄い本をチラリと見て声を荒げた。


「ちょいちょいちょい!! なにこれ! これをあの子に読ませたの!?」

「ええ。辞書に乗っていない言葉や、その言葉の裏に隠れたものだってあるもの。そこは、私達の愛読書でカバーよ」

「愛読書て・・・これ、ビオラの百合本と、わたしのBL本じゃん! 子供に何を読ませてんのさ! っていうか、わたしのBL本は愛読書じゃなくて貰い物だし!」

「大丈夫よ。ちゃんと全年齢向けよ」

「そうじゃなくて! ・・・あー! もう! あの子、絶対に変な常識身に付けちゃったよ!」

「変なって・・・これも立派な常識よ」


 女神ビオラの冷静なツッコミに、女神ソニアは「ぐぬぬ!」と頬を膨らませたあと、大きく口を開いた。


「あの子の夢! 知ってるんでしょ!?」

「『世界一のパン屋さん』でしょう?」

「それはあの子のママの夢、そして約束でしょ! あの子自身の夢だよ!」

「あ~・・・結婚して、子供を作って、家族と一緒にパン屋さんを営むことだっけ?」

「そうだよ! きっとあの子、女の子と結婚しようとするよ!」

「素敵じゃない」

「つ・ま・り!わたしが転移させた子の夢も叶わなくなるんだよ! もう! んぬあああああああああ!!」


 ・・・ここは別世界、()()()()()()()()()()()()。その世界の片隅で、女神の汚い叫びが響き渡った。

読んでくださりありがとうございます。不定期更新ですが、一ヶ月以上開くことは恐らくないと思います。

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