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竜の塔に閉じ込められたお姫様、但し英雄は来ない  作者: 渡辺 佐倉


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3/5

シロツメクサ

「これか?

本当にお前の欲しいものはこれなのか?」


窓から身を乗り出すようにしてお姫様は外を見ました。


あたりは森に囲まれているけれど塔のある周辺だけは木が無く、野原の様になっていました。

だからこそ城から届けられた物資を一旦置くことができたのですが、お姫様はこの塔がどんなものなのか、

なぜこの辺に木が無いのかはよく知らない。


ただ、野原にシロツメクサが咲いていたので、それが欲しいと思っただけ。


竜は大きな爪のついた大きな手で恐る恐る白い小さな小さな花をつまんだ。


「あなた、やっぱりとても器用ね!!」


お姫様は言いました。

大きな爪は大木も薙ぎ払えそうです。

実際暖炉などのために竜が木を細かく切って塔の外で乾かしているのもお姫様は知っています。


まるで竜は人間の生活の知識があるようでした。


だけど、竜はシロツメクサのことは知らなかった。

そっと取ったシロツメクサは窓のふちに置かれた。


「ありがとう!!」


お姫様もシロツメクサの実物を見るのは初めてだった。

お城の庭園はとてもよく管理されていてシロツメクサは無かった。


大人だけが入れる庭園は農村風などとテーマを決めて自然をある程度残しているものもあるらしいけれど、お姫様は見たことが無かった。


送られてくる本や、アクセサリーの中でしか見たことの無い花が目の前にある。

白くて小さな花を見てお姫様はこころがわき立つようだった。


この塔に花瓶は無い。

お姫様ももう気が付いていたが、食器などはおおよそ一国の姫君にはふさわしくないとても簡素なものばかりだ。

仕方がないので、お姫様はコップに水を入れてそこにシロツメクサを浮かべた。


花冠が作れるらしいけれどお姫様には作り方は分からなかった。

竜に聞こうとしてお姫様はやめた。

シロツメクサを知らないひとがそれで作るものを知っている筈もない。


「姫君はこういうものが好きなんだ」

「そうよ、ドランゴンさん。

私はかわいいものが好きなの」

「ドラゴンさんはどんなものが好き?」

「え?

なんだろうな……」


竜は少し考えるしぐさをしてから「わからないな」と答えた。


「そう。

好きなものが見つかったら教えてね」


お姫様はそう言った。

竜はのどの奥で音を出して了解と伝えた。

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