6.東堂アヤメが受け継ぐものーー社畜、敬意を抱く
前回に続いて東堂アヤメ回です。一人一人のアニソンに対する想いを感じて頂けたら嬉しいです。
週明けの「Rhapsody」は、土曜の喧騒に比べれば少し落ち着いていた。
仕事を終えた俺がカウンターに腰を下ろすと、東堂アヤメが氷をトングで落とす音が、静かな店内に涼しく響いた。
「おつかれさん。今日も頑張ったんやな」
「まあな。……アヤメは? 君はいつも疲れ知らずって顔してるよな」
「ふふ、よう言われるわ」
軽く笑って答えながらも、その声の奥にふと影が差す。
いつも強く堂々としている彼女。けれど今の一瞬、ほんの小さな隙間を俺は見逃さなかった。
「……無理してんじゃないのか?」
思わずそう口にすると、アヤメは手を止めて、少し驚いたように俺を見た。
「圭介、勘がええな。……うちは強い。せやけど、それはそうせな生きてこれんかったからや」
さらりと告げられた言葉の重み。
俺は思わず背筋を伸ばし、彼女の横顔を見つめた。
「折角やし、ちょっと聞いてくれる?」
アヤメはグラスを磨く手を止め、遠くを見るように語り出した。
「うちはな、父子家庭で育ったんよ。母さんは小さいときに出ていって、妹と父さんと三人で暮らしとった。……せやけど、その父さんも、もう亡くなってしもうた」
胸の奥に重いものが落ちる。
「……そうだったのか」
「でもな、父さんはどんなに疲れとっても、帰ってきたらよう口ずさんでたんよ。『翔べ!ガンダム』(1979/池田鴻/機動戦士ガンダムOP)って歌を」
アヤメは少し笑って、低く口ずさむ。
「“立ち上がれ〜ガンダム〜”ってな。あれは父さんにとって、自分を奮い立たせる呪文やったんやと思う。うちらを育てるために、ぼろぼろになりながらも、あの歌だけは忘れへんかった」
彼女の横顔は、強さと切なさを同時に映していた。
「父さんがおらんようになって、妹と二人で生きていくって決めた時も、頭に浮かんだんはあの歌や。……世代を越えても、歌は人を立たせる。うちはそのとき知ったんや」
強い声で言い切るアヤメに、胸の奥が熱くなる。
彼女の強さは、生まれつきじゃない。父から、そして歌から受け継がれたものだった。
「……アヤメ。すげぇよ。俺なんか、すぐに弱音吐いてるのに」
「圭介は圭介や。弱音吐いてええんやで。でもな、歌があればまた立ち上がれる。いつでも、何歳になっても、スタートラインに立たせてくれる。アニソンはそういう力を持っとるんや」
アヤメはそう言って、鮮やかなブルーのカクテルを差し出した。
グラスの底には深い青。ソーダの泡がまっすぐに立ち上り、まるで鋼の決意のように輝いていた。
「“ガンダム・スピリット”。父さんがよう歌っとった曲をモチーフにしたんや。甘さは要らん。強さと切なさを抱えながら、それでも立ち上がるための一杯や」
一口含むと、ドライジンの硬質な刺激、ブルーキュラソーの清涼感に、アイラウイスキーのスモーキーな余韻が重なる。喉を抜けるソーダとビターズの苦味は、「立ち上がれ」と背中を押すようだった。
「……うまい。なんか沁みるな」
「やろ? うちが父さんからもらった“強さ”の味や。ほんで、これからは妹や仲間、次の世代に繋いでいくんや」
「アヤメ……」
名前を呼ぶと、彼女は照れくさそうに肩をすくめる。
「なに? 口説くならもっとスマートにやりぃや」
俺はグラスを握りながら思う。
――歌は世代を越えて、確かに人を立たせる力になる。俺も、少しだけ強くなれるかもしれない。
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▷ 本日のオリジナルカクテル
・ガンダム・スピリット
『翔べ!ガンダム』(1979/池田鴻/機動戦士ガンダムOP)着想。ドライジンで鋼のような強さを、ブルーキュラソーで宇宙の青を、アイラウイスキーのスモーキーさで父の背中を表現。
読んで下さりありがとうございましたらら、次回からは神楽セリカが多く登場します。少しでも先が気になる方は、ブックマークして頂けますと大変嬉しいです。




