5.CAT’S EYEに魅入られて――社畜、恍惚とする
東堂アヤメ回です。黒髪ポニーテールに虎柄アクセを付ける彼女。関西出身の23歳です。
とある土曜日の「Rhapsody」。入口の黒板には、派手なチョークの文字が踊っていた。
《今夜限定! アニソン☆タイムスリップナイト》
最近は平日の疲れが勝り、土日も大した予定を入れず過ごしている。その日、近くの日高屋で晩飯を終えた俺は、懐かしさが漂う黒板を見て、思わず足を止めてしまった。
「タイムスリップ……?」
ドアを開けると、店内はいつもと少し違う空気。壁には昔のアニメポスターのコピーが貼られ、BGMも80-90年代のシンセサウンドが流れる。
「おう圭介!」
視線だけこちらに寄越し、東堂アヤメが髪をポニーテールに結び直していた。改めて見ると、モデルかと思うようなスタイルと顔立ちだ。
「今日の縛りは“懐かしアニソン”や。世代関係なく、みんなで時代を飛び越える夜ってわけやな」
その声音はいつも通りしっかりしているが、どこか楽しげだった。
カウンターでは常連客たちが早くも杯を傾けていた。
「お、今日はええぞ。俺らの時代の名曲で盛り上がれる」
「逆にこういうテーマは燃えるよな」
「再放送で結構知ってるから、楽しみです」
それぞれが世代の違いを感じさせながらも、同じイベントに胸を高鳴らせている。
イベントが始まった。
最初は月島ルナが挑戦。選曲は『ラムのラブソング』(1981/松谷祐子/うる星やつらOP)。
20歳の彼女が軽やかに歌うと、観客から「かわいい!」の声が上がる。
「お母さんに教えてもらったの」とルナが笑うと、観客も和やかな空気に包まれた。
次に神楽セリカが選んだのは『悲しみよこんにちは』(1986/斉藤由貴/めぞん一刻OP)。
眼差しに少し切なさを宿した歌声に、店内は一瞬静まり返る。
「沁みるな……」と誰かが呟き、別の客も深く頷いた。
そしてアヤメの番が回ってきた。
彼女が選んだのは――『CAT’S EYE』(1983/杏里/キャッツ・アイOP)。
イントロが流れた瞬間、年配客たちが「おお!」と声を上げ、若い客も「聞いたことある!」と身を乗り出す。
マイクを握ったアヤメは、彼女らしく堂々としていた。だが歌い出した瞬間、その強さに艶やかな大人の色気が加わり、場の空気を一変させる。
「扉がどこかで開くよ〜♪」
張りのある声が軽快なリズムに乗って店内を包み込む。
サビに入ると、視線を滑らせるように客席を見渡し、その一瞥に客たちは一斉に沸いた。年配客は立ち上がり、若い客は赤面しながらも手拍子を始める。
普段から頼れる姉御肌のアヤメ。今夜は、さらに大人びてセクシーで、そして圧倒的にかっこよかった。
俺も思わず息を呑む。― ―この若さで、こんな色気をまとえるんだ。
最後のフレーズを歌い切ると、拍手と歓声が爆発した。
「ブラボー!」「アヤメさん最高!」
彼女は少し照れたように髪をかき上げ、「父さんがよう口ずさんどったから、身体に染みついとるんや」と笑った。
胸の奥がじんわり温かくなる。
――世代を超えて、歌は確かに受け継がれていくんだ。
その後も『Get Wild』(1987/TM NETWORK/シティーハンターED)、『翔べ!ガンダム』(1979/池田鴻/機動戦士ガンダムOP)、『魔訶不思議アドベンチャー!』(1986/高橋洋樹/ドラゴンボールOP)と名曲が続き、店内は完全にタイムスリップしたかのように熱狂していた。
イベントが終盤に差し掛かる頃、アヤメが俺の隣に腰を下ろした。
「楽しかったやろ?」
「……ああ。正直、こんなに夢中になるとは思わなかった」
「せやろ。アニソンは世代を飛び越えるんや。年齢も立場も関係あらへん。こうして一緒に盛り上がれるんやで」
彼女はグラスを傾けて微笑んだ。その横顔は、強さの中にほんのり影を落としていたが、だからこそ一層美しく見えた。
俺はその姿を忘れまいと心に刻んだ。
――彼女にも、歌に込めた思いがあるんだろう。
次は、それをちゃんと聞きたい。
読んで下さりありがとうございます。次回はアヤメの過去について描きます。宜しくお願いします。




