3.空色デイズで覚醒ーー社畜、声を取り戻す
第3-4話はピンク髪の音羽リオが多く登場します。彼女は21歳の大学3回生です。
今週は普段以上に仕事が回らず、上司からは令和時代についぞ聞くことが出来ないような言葉で罵倒された。流石に気が滅入る。
ガムシャラに手元のメールを返し切り、週末を生きる権利を確保した後、調査兵団が必死に壁内に戻るように、また「Rhapsody」の扉の前に来ていた。
湿気を帯びた街の空気が肌にまとわりつくが、その向こうから漏れるイントロが、鬱屈した気分を少しだけ吹き飛ばしてくれる。
「今日は特別イベントだよ!」
カウンターにいた音羽リオが、屈託のない笑みを浮かべた。アイドルと言われても驚かない顔立ちだ。
「カラオケ対決ナイト!チーム戦で点数を競うんだ」
「俺は聴いてるだけでいいよ」
「ダメダメ!一緒に歌おう!」
リオに押し切られ、気づけば名前を書かされていた。
――正直、怖い。
会社の会議ですら声が震えるのに、見知らぬ人前で歌うなんて。だが、リオの瞳は「大丈夫」と言っている気がした。
やがてイベントが始まった。
最初のペアは年配客と若い男性。『残酷な天使のテーゼ』(1995/高橋洋子/新世紀エヴァンゲリオンOP)で合唱の渦となり、得点は85点。
次は東堂アヤメとスーツ姿の男性。『愛をとりもどせ!!』(1984/クリスタルキング/北斗の拳OP)に拳が振り上がり、店内は熱狂、得点は89点。
続くのは神楽セリカと控えめな女性客。『For フルーツバスケット』(2001/岡崎律子/フルーツバスケットOP)の優しいハーモニーに、空気が静まり返る。派手さはないが、心に沁みる歌声。得点は…91点。大歓声が響き渡る。
そして――ついに自分の番。
「次は、ケイスケとリオ!」
司会役の月島ルナの声に、視線が一斉に集まった。喉がきゅっと締まり、逃げ出したい衝動が込み上げる。だが隣のリオが、にっこり笑って肩を軽く叩いた。
「大丈夫、圭介君。私がついてるから!」
流れ出したイントロは『空色デイズ』(2007/中川翔子/天元突破グレンラガンOP)。観客の中から「おおっ!」と声が上がり、拳を突き上げる人もいる。店内の熱気が一気に押し寄せ、心臓が激しく脈打った。
先陣を切ったのはリオだった。
――眩しい。
突き抜けるような高音、舞台の真ん中で笑うその姿は、まるで光のように周囲を包み込む。
堂々たる勇姿に見惚れていた次の瞬間、リオからマイクを向けられ、俺の喉は固まった。声が出ない。
(無理だ……)そう思った刹那、リオが体を寄せ、肩をぶつけてくる。
「圭介君、いけるよ!」
その一言が、胸の奥を震わせた。
勇気を試すような瞳。逃げるわけにはいかない。喉からかすかな声を絞り出した。
最初は頼りなく、震えてしまった。
だが、リオがすぐに笑顔で隣に寄り添い、ハーモニーを重ねてくれる。まるで「そのままでいい」と肯定してくれるように。
少しずつ、声が外へ押し出されていく。
サビに差しかかると、胸が自然と開いていた。
「今日〜の僕が〜!」
全力で声を張ると、リオの声とひとつになり、店内総立ちになる。手拍子と歓声が渦を巻き、熱気が全身を包んだ。
――俺の声が、届いている。
その事実が、たまらなく嬉しかった。
会社では押し殺してばかりの声が、ここでは人に届き、受け入れられている。
2番に入る頃には、緊張は消えていた。
リオが高音を突き抜け、俺は自然とハモリに回る。視線が交わり、思わず二人で笑い合った。
「歌うって、こんなに気持ちいいものだったのか……」
心の底からそう思えた。
大サビでは、リオがマイクを観客へ差し出す。
「答えはそう!」
掛け声が場内に轟き、俺は肺が焼けるほどの声で最後のフレーズを叫んだ。名乗りをあげたシモンの気分だ。
隣にはリオ。肩を並べ、同じ空気を吸い、同じ景色を見ている。
歌い切った瞬間、歓声と拍手が爆発した。
結果は――92点。
「やったー! トップだよ!」
リオが飛び跳ね、肩を叩く。その笑顔に釣られるように、息を切らしながら笑った。
――Rhapsodyは、ただの飲み屋じゃない。
声を出すたびに、自分が変われるかもしれない。
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