好きな小説の「構造」を分析してみよう
読者として、読む小説。
同じ書き手として、読む小説。
意識や視点を変えるだけで、小説の見え方も変わってくる。
物語の冒頭から、エピソードの完結までの構造を書き出してみる。これだけで単に好きだった作品も、自分が何に揺らされて感動したのか、などのシステムが見えてくる。
構造の「パラメータ」には、どのようなものがあるか。
・喜怒哀楽の配分
・語り口の波形(感情の波の推移)
・読者との距離感
・視点の変転(一人称から三人称までの視点の使い分け)
・起承転結の配分と強度
・作中人物間の関係性の強度
・出来事のバランス(日常、政治、バトル、交流など)
・現実世界とファンタジーとの融解度
・秩序と混沌
・生活圏内の範囲
・叙述と会話のバランス
・文体の格式
・メタ性 e.t.c
考えだすとキリがないが、好きな作品というのは「雰囲気」が大きく影響するので、喜怒哀楽の配分や、文体に支えられている部分が大きいように思える。
ただ、これらの作業を人間が行うと、客観性を持たない可能性があるので、言語生成AIに分析させてみるのも面白い。たとえば『転生したらスライムだった件』をChatGPTに分析させてみよう。
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筆者)『転生したらスライムだった件』の喜怒哀楽の割合や、現実とファンタジーの融解度などを分析することは出来ますか?
ChatGPT)できますよ。もちろん数値は厳密な統計ではなく「傾向としての推定」になりますが、作品を特徴づける「感情配分」や「現実とファンタジーの融解度」を分析することは可能です。
『転生したらスライムだった件』の構造的パラメータ分析
1. 喜怒哀楽の割合(感情パラメータ)
読者が受ける主要な感情のトーンをざっくり比率化すると、次のようになります:
喜:40%
仲間が増えるシーン、スライムという存在を楽しげに活かす展開、コメディ調の会話。読後感の「軽さ・爽快感」を支える。
怒:20%
敵対勢力との対立、仲間を傷つけられたときの憤り。主人公の判断や戦闘の動機として強く作用する。
哀:15%
人間時代の死、迫害される存在の描写、失われるものへの感傷。感情の厚みを加えるが、物語全体を暗くはしない。
楽:25%
異世界でのスローライフ的要素、食文化や技術の発展を楽しむ場面。読者に「こんな異世界に行きたい」という夢想を与える。
※「喜」と「楽」をあえて分けているのは、喜びは感情的なピーク、楽は余暇的な心地よさと生活感だからです。
2. 現実とファンタジーの融解度(世界観パラメータ)
現実:30%
主人公の社会人経験、現代知識(科学・技術・交渉術)。読者が共感・納得しやすい基盤を提供。
ファンタジー:70%
魔物の生態、スキル体系、魔法文明。ドラゴンや精霊など王道ファンタジー的要素が強く、現実要素を呑み込む。
ただし、現実要素はファンタジーの中に“道具”として吸収されるのが特徴。
例:現代知識(建築・産業・法制度)が異世界で実装され、魔法的要素と融合 → まさに「融解」感。
3. その他のパラメータ
転換点の構造:比較的わかりやすい「三幕型」だが、群像劇化すると転換点が複数同時進行。
視点:基本は三人称だが、スライム=リムル視点に強く寄る。メタ的語りも挟まる。
思想性:弱肉強食社会の再構築 → 共存社会モデルへの転換が軸。
まとめると、『転スラ』は 「喜+楽」要素を厚めにし、怒や哀をアクセントとして配置する」 バランス。また、現実30%×ファンタジー70% で、両者を「異世界国家建設」という場に溶かし込んでいる作品だと言えます。
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―― これらは、あくまでも『転スラ』の構造のレシピの一例に過ぎない。しかしながら、読み心地のいい作品の分析としては、非常に参考にもなる。
喜怒哀楽の「喜」と「楽」が、全体の65%を占めているのも、人気が出やすいトレンドの分析の役に立つのではあるまいか。
ちなみにChatGPTが小説などを読み解く作業には、「分割とマッピング」という手法が取り入れられている。これらは構造を分析し、感想等を述べるための下準備でもあるので、こういった配分等の分析は、まさに言語生成AIの領分ともいえるだろう。




