第34話 籠の中の鳥(セレスの日記)
聖明と仲直りしてからというもの、以前にも増して可愛くて感じて仕方ない。
どうしても傍にいたくて、彼女が和の国で勤務中の間は、貯め込んだ有給を全部使って同行することにした。
風真にはドン引きされたけど、今の俺には些細な問題だ。
滞在中は、部屋も聖明とふたりきりにしてもらった。
弟子には呆れられたが、まあ……仕方ない。
聖明は、俺とふたりのときは女体化してくれる。
俺が恋愛対象として女性を好むことを知っているからこその気遣いだろう。
けれど──俺は、聖明ならどちらでも構わない。
「……聖明」
後ろからそっと抱きついて、首筋に唇を落とす。
彼女の髪から漂う、甘くてあたたかな香りがたまらなく好きだ。
「あっ……セレス、ほんとに甘えん坊なんだから」
くすっと笑う声に、胸の奥が安らぐ。
こうして二人きりで過ごせる時間が、俺にとっての至福だ。
「俺は、お前が思ってる以上に甘えん坊で、泣き虫なんだよ。
だから……もっと甘えさせてくれ」
壊れものに触れるように、そっと抱きしめる。
男のときでさえそうだったのに──今の彼女はもっと繊細に思えて、怖いくらいだ。
ふと、あの事件を思い出してしまう。
精神世界とはいえ、こいつの身体を弄んだ奴がいた。
独占欲と加虐心が、どうしても疼いてしまう。
思わず、彼女の腰を撫でた。
「あっ……セレスっ、待って……!」
この声ひとつで、理性が吹き飛びそうになる。
もっと聞きたい。もっと愛でたい。
「……可愛い」
そのまま、服の中に指を滑り込ませて、肌に触れた。
「んっ……! セレス、だ、だめ……まだ昼間……っ! 仕事あるってば!」
その一言に、ぎりぎりのところで理性が戻る。
「……すまん。あまりに可愛すぎて」
「ふぅ……まったくもう……」
彼女は少し脱力しながら、俺の腕に寄りかかる。
「……続きは、夜、ね……?」
赤くなった耳が、たまらなく愛おしい。
「いっぱい愛でる」
「〜〜っ、セレスは愛ですぎなんだから……っ!」
「俺の特権、だろ?」
「……うん」
どれだけ愛しても足りない。
俺とふたりのときだけ、彼女は女性物の服も着てくれるようになった。
今は和の国だから着物が多いけど、都市に戻ったら──アクアに頼んで、可愛い服をたくさん用意してもらうつもりだ。
実は、こっそりもう相談済み。
アクアはノリノリでデザインを描き起こしてくれているらしい。正直、無茶苦茶楽しみだったりする。
「聖明」
「ん?」
「……いつか、一緒に暮らそ」
「へっ!?」
驚いたように、真っ赤な顔で俺を見る。
俺は本気だ。
聖明しか見えていない。
他に誰かを考える余地なんてない。
ずっと、そばにいたい。
こっそり物件でも探しておこうか。
まあ……最大の難関は、あの親父だろうが──それでも、いつかはきっと迎えに行く。
「ほら、もう行く時間だろ?風真に怒られるぞ」
俺は彼女からぱっと手を離す。
「も〜、ずっと抱きついてたのはセレスのくせに……」
聖明は離れると、ふっと無性体に変わる。
アクア特製の、伸縮魔法付きの服が違和感なく変化してくれる。
無性体といっても、胸がなくなるくらいで、外見に大きな差はない。
腰には青いリボンが揺れていて、それがまた可愛らしい。
アクアに「なぜ青なのか」と聞いてから、この色にいっそう特別な想いを抱くようになった。
聖明は理由をまだ教えてくれないけど──いつか話してくれる日を楽しみにしている。
よく見れば、小物や生活雑貨のそこかしこにも青が使われていて、……正直、自惚れたくなる。
「ああ、行こうか」
俺は彼女と指を絡めて、手を繋いで外に出た。




