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カゴノトリ  作者: 灯夜 雪


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第29話 悪魔ルリレージュ(2枚目)

カゴノトリ本部・専用ラウンジ。

俺は風真を連れてラウンジまで来ていた。


カゴノトリ本部は現在、厳重警戒態勢に入っている。

非戦闘員は医療に専念し、軍事に参加できる者は全て警備・警戒・諜報などに分けて当たらせている。

エクソシストでさえ立ち入りを禁止した。

これで外部からの侵入は一切できない。


さらに聖明が眠っている部屋は、何重にも張り巡らされた結界で守らせている。

ドアの前にはベレド卿とパートナーであるリトが警備に当たっている。

早々に手が出せないようにした。


もし今、悪魔の動きを注意するなら、風真だけだ。

先程の話が本当であれば、風真は悪魔と繋がっている。

それは風真の意思とは関係ない。


言い方を変えれば、風真が瑠璃への糸口だ。


「座れ!」


俺は乱暴にラウンジのソファに風真を座らせる。

風真はされるがまま、そこに座る。


そして、堕天使ストラとそのパートナー、サリーも側に来る。

さらに、魔法を無にする解呪の堕天使、ソル・アルマロスも茶色いおかっぱの髪を揺らしながら俺の横に立つ。


「セレスちゃん、この子が聖ちゃんの弟?」


「そうだ。

………俺の弟子で……悪魔の人形(ドール)でもある」


ストラの表情が一気に険しくなった。

バッと風真を睨めつけるように見つめる。

それに対し、風真は怯えたような表情を浮かべた。


「聖ちゃんの側に、そんな存在がずっといたなんて!

通りで悪魔の足取りが見つけられなかったはず!人形(ドール)は術者と視界を共有できる!

悪魔であるルリレージュが人形遣いであれば、この子から見た情報は筒抜けだったってことだよ!


なんで私、気づけなかったのよ!?」


頭を抱えるストラの肩をサリーが優しく包み、背中を撫でる。

そこに中性的な顔立ちのソルが口を開く。


「……僕は、解呪を得意とする堕天使だ。

誰よりも複雑な魔法を見抜くことができると自負している」


そう言うと、風真の足元にソルの魔法陣が現れる。


「……なるほど、彼は人形と言っても二重契約されてるね」

「二重契約?」


「うん。一個は従来の人形遣いであるルリレージュとの契約。

でも、この契約は不安定だ。

おそらく魂が半分であることと関係があるんだろう。

完全に管理下に置くことはできないね。

操るとなると、半身の魂が憑依するしかない。

要は、現状としてはルリレージュが直接ここに来て、この子の中に入らなきゃ操れない」


現在のカゴノトリの警備体制では、余程の穴がない限り悪魔の侵入は不可能だ。

つまり、風真が今、目の前で瑠璃に操られる心配はなくなったということでもある。


「もう一個は聖明との契約だ。

不完全な契約をカバーするように、無理やり上から契約を重ねてる。

不安定な魂を安定させるために、すごい魔力量を常に注いでいるね。

この魔力量を常に与えているとなると、聖明の発作の頻度が昔より高かった理由も頷ける。

いくら化け物級の魔力の保有者である聖明でも、半分注いでいれば自身が不安定になることぐらい分かっていただろうに」


「──は?半分だと?」


俺は耳を疑った。

風真と出会ってから今まで、聖明は通常の魔力の半分を制限していたことになる。

それでいて昔と変わらないような素振りで立ち回っていたとなると……相当、負担が大きかったはずだ。


「魔力をそれだけ注いでも、なお、人形(ドール)の支配権は奪えなかったみたいだね。


………どうする?

今も半自動的に聖明の魔力は彼に注がれている。

人形(ドール)を止めれば魔力の供給が止まって、聖明は目を覚ますことができると思うよ」


「え……」


風真の声が漏れた。

それは──風真を殺すという選択でもある。


俺は風真の前に立ち、ソルと向かい合う。


「それはダメだ!」


するとステラがキッと睨んで叫ぶ。


「なんで庇うの!?

その子は、聖ちゃんを不幸にする!

現に聖ちゃん、昏睡状態じゃない!

私も起こせないかと思って闇で干渉してみた!

……でも、暗すぎて、何も、見えなかった……。

堕天使でさえ触れられないほどの闇に飲み込まれてるんだよ!?

あんな闇……悪魔ぐらいしか、聖ちゃんに触れられないじゃない……!」


ステラの想いは痛いほどわかる。

それでも──


「それでもダメだ!

風真を殺してみろ!聖明が目を覚ましたところで、あいつは殺した相手を一生恨むぞ!

それどころか、感情を完全に閉ざしてしまうかもしれない……今度こそ完全に壊れてしまうかもしれない!

それだけ、あいつにとって、風真は大切な家族なんだ……!」


脳裏に過ぎる、聖明と風真が幸せそうに微笑み笑う姿。

瑠璃を失ってなお、純粋に、幸せそうに笑えていた姿を俺は知っている。


俺は背にいる風真に言葉を投げる。


「風真……お前も、辛いのはわかる。

父親を手に掛けたんだ。動揺して、自分を責めるのもわかる。

でもな、無責任に命を捨てるような真似はするな。


お前の命は、聖明が命懸けで守ろうとした命だ。

きっと、あいつは信じて、お前に託した。


……お前を助ける時、あいつは笑ったんだ。

しかも、スゲー自信満々に『大丈夫だ、私に任せろ』だとよ。


その割には眠っちまいやがって……肝心なところは俺に丸投げだ。

本当に困った恋人だ」


ソルは呆れたようにため息をつくと、風真の足元に展開していた魔法陣を消す。


「セレスは甘いね。

ま、そういうところは天使の割には好きだけど。

お腹空いたから、食堂行ってくるよ」


そう言うと、ソルはくるっと背を向けて歩き出す。


「はあ!? ちょっと、ソル!?」

「ストラも来る? 甘いの食べれば落ち着くんじゃない?」

「そんなわけないでしょ! それよりも、今は──」


ソルがストラの腕を掴み、騒ぎながら連れて行くように歩く。

その後ろを、サリーが無言でついて行く。


二人の姿が見えなくなり、俺は正直、ホッとした。

あいつらがキレれば、俺なんかじゃ止められないからな。


すると、後ろから服を引っ張られる。


「ん?」


振り返ると、風真が心配そうな顔で、でも、先ほどまでの死んだような顔ではなく、

目に光を宿した顔で、俺を見上げていた。


俺はため息をつきながらも、風真の視線に合わせるようにしゃがむ。


「どうした?」


「……あ、の……師匠、ごめん、なさい……。

取り乱して……聖明の...気持ち、無下にするようなこと、言ってた......。

それに、ありがとう……庇ってくれて……」


俺も怒り狂ってたはずなんだけどな。

こうも真っ直ぐな目で言われたんじゃ、もう怒れないだろ。


俺は風真の頭に手を置く。


「馬鹿弟子。お前がいなきゃ、聖明が笑えないだろ。

──笑え。お前が聖明にしてやれるのは、お前が生きて、幸せになることだ」


風真の目が見開かれ、涙を反射するように瞳が輝く。

──こいつは、強いな。


「うん!」


涙を零さないよう、服の袖でゴシゴシと拭き取り、その場を立つ風真。


「師匠、完全に瑠璃に操られて、何となくだけど分かったことがあるんだ!

多分、僕は、瑠璃の居場所が何となくわかる」


「っ!?」


「ずっと、近くにい過ぎて、それが当たり前の感覚になってたんだ。

でも、ここに来てから何だか距離が少し遠い。

……きっと、瑠璃が僕に干渉したように、僕も少なからず瑠璃に触れられるんだと思う」


まさかの朗報だった。

瑠璃の居場所さえわかれば、後は押さえるだけでいい。

そうすれば、とりあえずは聖明に危険が及ぶこともなくなる。


「……わかった。

風真、よく聞け。今から俺が闇魔法でお前の意識を誘導する。

瑠璃の思念を追って、場所を特定してくれ。

誘導する間は、俺がお前の精神を“闇”で守る」


正直、危険なワザだ。

聖明がやるのであれば、簡単にできたことだろう。

しかし、俺は元天使で、所詮は“眷属”。


闇への耐性は極端に低い。

闇魔法を使えば、簡単に発作が起きるだろう。


……それでも、やる価値はある。


「……わかった!

でも、師匠。師匠は闇で暴走する可能性はないの?

堕天使が暴走した時、いざっていう場合は封印するためにパートナーが必要なんでしょ?」


言っていることは正しい。

眷属とはいえ、堕天使であることに変わりはない。

俺もまた、いざという時は“封印対象”だ。


「………お前は、聖明の仮とはいえ一時パートナーになれた。

封印する術ぐらい、持ってるよな?」


風真は力強く頷くと、手元に魔法陣を展開し、一冊の魔導書を取り出す。


「聖明がくれた、オリジナルの封印魔法が込められた一冊だ。

聖明が言うには、これを発動すれば大概の堕天使は封印できるって言ってた。

ただ、あまりに強力だから、人には知られるなって……」


「……何て無茶苦茶なもん作ってんだ……」


大概の堕天使を封印できるなんて、こんなこと国に知られたら悪用されかねない代物だ。

……隠しておいて正解だ。


「わかった。風真、いざって時は俺を封印しろ。

今はお前が俺のパートナーだ。頼むぞ」


「──うん!」


俺は深呼吸をし、風真の足元に赤黒い魔法陣を展開させる。


「目を瞑れ。意識を集中させろ。

自分と繋がる“絆”を手繰り寄せるんだ」


風真は頷き、そっと目を閉じる。

徐々に風真の意識が、闇に潜っていくのを感じる。


「ッ!!」


すぐに、闇の刻印が俺の身体に現れ始めた。

聖明に扱い方は教わっていたが、実際に使ってみると負担の大きさがよくわかる。


「ったく……あいつは軽々と、闇魔法使いすぎなんだよ……」


闇を伝い、風真の感情や今までの記憶が、走馬灯のように取り留めもなく流れ込んでくる。


情報量の多さに、頭が割れそうだ。

身体が熱い。血管の中で何かが暴れ回っているみたいだ……ッ!


「──が、はっ!?」


急に胃に血が溢れ、吐血する。

呼吸がしにくい。


──でも、今は、集中しなければ……!


意識をさらに研ぎ澄まし、風真の精神が闇に呑まれないように──


……暗闇の中で、女が口角を上げ、クスッと笑う。


『兄さん、迎えに来たよ』


「「──!!?」」


俺は闇魔法の発動を即座に止め、大きく見開かれた風真の目と視線を合わせた。

同時に感じた、悪魔の気配。


「マズイ──すでに内部にいる」


風真の唇が震える。


「聖明の、ところだ……」


俺たちは慌てて、聖明のもとへ走った。



ーーー



──聖明!





……誰かに呼ばれた気がして、振り返った。


「聖明?」


すると瑠璃の手が、私の手を包む。


「あ、いや、きっと、なんでもない」


瑠璃はにっこりと笑う。


「なら、よかった!」


瑠璃は私の指を絡め取り、二人で手を繋ぐ。

指にはまるお揃いの指輪が、そっと輝く。


「今日は楽しかったね!」


そう言って甘えるように私の腕に抱きつく瑠璃に、私は幸せを感じる。

今日は一日、当てもなく二人で大好きなこの街を歩き回った。

商店街を回って、お揃いのマグカップを買った。


昼食にはマスターの喫茶店に寄って、瑠璃の好きなオムライスを一緒に食べた。


いつも通る公園で、都市を一望できるベンチに腰かけて街を眺めた。

幸せで、穏やかな時間。


………なのに、何故だろう。

何か大切なものを失ったような虚無感が、私の中で燻っている。


「聖明、そろそろ帰ろ。私たちの家に」

「……そうだな」


手を繋いだまま商店街を抜けて、やがて道は街の喧騒を離れた静かな通りへ。

木漏れ日が揺れ、色とりどりの花が咲き、蝶や小動物が気ままに横切っていく。

その先に、絵本から抜け出したような家が見えた。

クリーム色の外壁に瓦屋根、木の温もりを感じる窓枠──小さくても穏やかな空気を纏っている。


「家、見えてきたね」


──以前にも誰かとこうやって手を繋いで、同じ道を歩いたことがある気がする。


「聖明?」

『聖明、大丈夫か?』


誰かの声と、瑠璃の声が重なって聞こえた気がした。


「……いや、大丈夫だ……」


私は小さな恋人の歩調に合わせ、ゆっくりと歩く。

扉の前まで辿り着くと、鍵を取り出し、静かに開けた。


「そうだ、お茶を淹れて……」

『お茶ぐらい出したい……』


頭がぐらつく。

私は過去にもこうやって誰かを招き入れた気がする。


「いいわね!ティータイムしよう!」

「あ、ああ……」


私は瑠璃を優しくエスコートして、家に入れる。

二人でリビングに移動し、私はお茶を淹れることにした。


「瑠璃はソファに座って、待ってて」

「ありがとう!」


彼女は嬉しそうにソファに座り、クッションを抱きしめて私を見つめる。

私は微笑み返し、キッチンへ。


棚からハーブティーを選ぶ。

香りを確かめ、リラックスできそうなものを手際よく淹れる。


──そう、あの時も、リラックスできるようにってカモミールを淹れてくれたんだよな。

しかも、はちみつたっぷりで。

それから、私はカモミールが好きで………


───脳裏に過ぎる。



手からハーブの入った瓶がスルリと抜け落ちる。

そのまま床に落ち、ガシャン!という音を立てて砕け散った。


「聖明?」


横を見ると、不安そうな顔で立ち竦む私の瑠璃。

彼女がそっと私の手を取り、引っ張る。


「疲れてるんだね。休憩しよ」


そのまま誘導され、先ほど瑠璃が座っていたソファに座らされる。

彼女は目を細めて微笑んだ。


そう、母と同じ──瑠璃色の瞳で。


「瑠璃……もう、やめよう……私は、君の気持ちに、応えられない」


次の瞬間、世界にヒビが入った。

ガラスが割れるような音がして、暗闇に落ちていく。


「──聖明!!」


暗闇の中から飛び出てきたのは、私の使い魔──リリーだった。

人の姿で現れ、私に抱きついた。


「聖明!よかった!」

「リリー……すまない……!」


リリーは、泣きながらも微笑む。


「夢の世界は私に任せて。

聖明の魂は私が守るから……だから……現実はお願いね……」


意識がそのまま遠のき、そして──





「──っ!!?」


現実に引き戻された。

震える手を見ると、酷い刻印が浮かんでいる。


「現実、だな……」


仄かに感じる痛みが、現実を実感させる。

起き上がろうとして、私は上体を起こした。


──が、誰かに押され、ベッドに戻される。


「なっ!?」


私の上に馬乗りになる女性がそこにいた。


見慣れた白銀に、母によく似た瑠璃色の瞳。

幼さが消え、妖艶に笑む、私の愛しい妹──瑠璃。


「失敗しちゃった。本当ならあのまま夢の中で聖明を迎え入れるつもりだったのに……どうして起きちゃったの?」


「……私は夢よりも、現実が大切だ」


クスクスと笑う瑠璃。

その表情は、私が知っている瑠璃ではなかった。


「そうだね、兄さん!

私も現実の兄さんが欲しいもの!」


次の瞬間、闇の茨が出現し、私の両腕を絡め取り、頭の上で縛り上げられる。

棘が刺さり、腕から血が滲む。


「──っ!!」


「兄さん、素敵よ。以前に増して、いろんな表情をするようになったね……恋をするようになったからかしら?」


心臓の音が高鳴る。


「兄さん、私はね、悪魔になる前から兄さんに恋をしていたの」

「瑠璃……?」


部屋が暗くて、彼女の表情がはっきり見えない。


「ずっと、ずっと想ってた。

兄さんが微笑むたびに嬉しくて、悲しかった。

兄さんが優しくしてくれるたびに幸せで、苦しかった。

どんなに愛されても、それは“家族”に向ける愛だったから」


瑠璃の手が、私の頬に触れる。

そして、顔が近づく。


「私の苦しみを、知って」


「っ! やめっ!」


そのまま無理やり唇を奪われる。

逃れようと藻掻き、暴れる音がギシギシと部屋に響く。


──心に、闇を通じて、瑠璃の苦しむ姿、恋をして、ひとり泣く悲痛な叫びが届く。


私まで苦しくなり、涙が自然と流れる。

息ができなくなるぐらいに、やっと唇が離れる。


「あ……っ」


「美味しい……」


彼女はゾッとするような笑顔で唇を舐め、指でなぞる。


「聖明、私だけの兄さん……私の気持ち、わかったでしょ?

恋を知った兄さんなら、この苦しみ、理解できるでしょ?」


──痛いほど、わかってしまった。


大切にすることに必死で、瑠璃を見れていなかった。

あんなに側にいたのに、何一つ理解できていなかった。


瑠璃は、私の側でこんなに苦しんでた……。


涙が溢れる。

悔しさが心に滲み──


──兄として、失格だ。


「そう、その顔が見たかったの。

兄さんは優しいから、きっと理解したら私のために泣いてくれる。

私の気持ちに心を砕いてくれる。


ねえ、聖明……この苦しみから、私を解放して」


瑠璃は目の前で肌を露出する。


「何を……して……」


「私を愛して」


私は、思考が止まった。


何て……言ったんだ?

瑠璃は私に、何をしてほしいって……?


「私を聖明の一番にして……永遠に一緒になって」


彼女の手が、私の胸に広がる薔薇の刻印に触れる。

ハッと我に返る。


「よせ! 私は、瑠璃に、そんなことする気はない!!」


「……どうして、どうして!?

気持ちが理解できて、なんで拒絶するの!?

兄さんなら、私を助けてくれたはずよ!?

身を差し出したはずよ!?」


「………昔なら、そうかもしれない……」


瑠璃の手が止まる。


そう──昔の私なら、きっと、瑠璃の悲痛な叫びに耐えかねて、彼女の望むものを全て与えていた。

それで、瑠璃が救われるなら、と。


でも、今は違う。


「すまない、瑠璃。

私は、君が妹でなくても、君の気持ちには応えられない。


私は──」


月明かりのような彼を思い出す。

静かでいて、温かい、私だけの光。


私はセレス。

君に、こんなにも救われていた。


「もう、愛している人がいるんだ。

その人を、裏切れない」


刹那、首に闇の茨が絡みつき、食い込む。


「うっ!!」


「もう、いいや。

気持ちまで手に入れようとした私が馬鹿だった。


私は悪魔ルリレージュ。

聖明を愛し、蹂躙し、壊す者。


ここは、悪魔らしく奪うわね、兄さん」


瑠璃の手が薔薇の刻印に触れると同時に、激しい痛みが全身を走る。


「あああああっ!!」


「あははは!

叫んでも無駄よ!この部屋には私特製の結界を施しておいたわ!!

ドアの前にいる間抜けな堕天使も気づきやしない!!!


そのまま、闇に溺れて、私の人形になって!!

私の言うことしか聞かない、私の聖明!!!」


再び瑠璃の唇で口を塞がれる。

逃れようにも、激痛で体がうまく動かない。


口から入る膨大な闇に、思考が溶かされる。


「ん……っ!」


嫌だ……このまま、セレスに何も言わず、悪魔に囚われるなんて──そんなの……っ!




セレス───……

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