純粋と危うさ(犬)
旅を続ける中で、桃太郎は時折、不可解な行動を見せた。彼は時として、道端に咲く名もなき花に足を止め、その可憐な姿をじっと見つめることがあった。またある時は、小川のせせらぎに耳を傾け、まるでその音に心を洗われるかのように佇む。
犬は桃太郎のそんな姿を見るたびに、内なる疑念がさらに深まるのを感じていた。一体、この男は何を考えているのだ?鬼退治という大義を掲げながら、なぜ、このような無益な感傷に耽るのか。それは、彼が真に純粋である証拠なのか、それとも、私の知らない、もっと深い欺瞞が隠されているのか。
一度、桃太郎が花を摘み、それを空に掲げて微笑んだことがあった。その時、彼の顔は、まるで無垢な子供のようであった。私はその表情に、言い知れない不快感を覚えた。私が見てきた人間は、皆、その笑顔の裏に隠された計算を持っていたからだ。桃太郎の笑顔は、あまりにも無防備で、あまりにも「人間らしくない」。それは、私の信じてきた世界の法則を揺るがす、異物であった。私はその花を、まるで毒でも塗られているかのように感じ、身を硬くした。彼の純粋さは、私にとっては危うさそのものであった。この男は、あまりにも脆く、この世の悪意に耐えきれるはずがない。あるいは、その脆さこそが、私を欺くための最大の武器なのか。私は、その真実を見極めるために、彼の隣にいるしかなかった。