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天命と道具(桃太郎)

凱旋の歓声が、耳朶に心地よい。人々は、私の顔に、彼らが待ち望んだ「正義」の輝きを見出す。そう、これこそが、私がこの世に生を受けた理由であり、私の天命である。鬼を討つ。この穢れた世から、悪を根絶する。この純粋な、そして絶対的な意志こそが、私を突き動かす唯一の原動力なのだ。


振り返ることはない。私の後ろを続く獣たちの姿は、確かに人々の目に異様に映るかもしれない。生気を失ったその瞳は、硝子玉のように虚ろで、傷だらけの毛並みは、使い古された人形のぼろ布のようだ。そう、彼らは、私の意志の下で、ただ蠢く肉の塊に過ぎない。だが、彼らがどうであろうと、それは取るに足りないことだ。それは、私の「正義」を貫く上で、必然的な代償に過ぎない。


彼らは、元より獣なのだ。純粋な獣性の中に、微かな人間の感情を宿した、哀れな存在。彼らに与えられたきび団子は、彼らの魂を私の目的に結びつける、最も単純で、最も効果的な方法だった。彼らは、私の意志の下で、その獣性を存分に発揮した。犬は喉笛を食い破り、猿は血を啜り、雉は羽毛を血に染めて飛び回った。それら全てが、私の「正義」のための道具として、完璧に機能したのだ。


道具が磨耗すれば、交換すればよい。壊れれば、新しいものを見つければよい。彼らが何を思い、何を苦しんだところで、それは私の目的の前では、塵芥に等しい。彼らの魂が虚無に染まろうと、彼らの肉体が傷つこうと、それは彼ら自身の存在論的な限界であり、私の関与すべき領域ではない。彼らは、自らが与えられた役割を、その限界まで全うしたのだ。


私にとっての「正義」とは、感情の揺らぎや、個々の命の儚さによって左右されるような、脆弱なものではない。それは、この世の秩序を再構築し、美と調和を取り戻すための、絶対的な意志である。鬼は、その美を汚し、調和を乱す存在であった。ゆえに、彼らは滅ぼされなければならない。そのための手段として、獣たちは、彼らの持つ純粋な獣性ゆえに、最適なのだ。彼らには、人間のような複雑な良心の呵責がなく、ただ与えられた命令を遂行する。その純粋な機能こそが、私の「正義」を最も効率的に実現するのだ。


私の旅は、これで終わりではない。鬼は、この世に無限に存在する。形を変え、名を偽り、常に美しき秩序を脅かす。私は、その都度、彼らを討ち滅ぼすだろう。そして、その度に、私は新たな犬を、猿を、雉を見つけ出すだろう。彼らは、私の天命を果たすための、永遠の道具として、この世に存在し続けるのだ。


彼らの魂がどうなろうと、それが私の知るべきことではない。私の眼差しは、常に未来を見据えている。この世に真の美と秩序が訪れるまで、私の行進は止まることはない。私は、ただ私の天命に従い、私の「正義」を貫く。それこそが、この世の真理なのだから。

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