四年目の夜明け(犬)
それから、四年の時が流れた。私は今、この村で、人目を避けるようにひっそりと暮らしている。かつて桃太郎と旅をしたことなど、誰にも話せない。
あの時、私は正気を失っていた。猿をこの手で終わらせ、桃太郎の、あの底知れぬ瞳に囚われたまま、私はただの肉塊と化していた。魂は引き裂かれ、生きていながらにして死んだも同然だった。血の匂いが鼻腔にこびりつき、友の最後の眼差しが、まぶたの裏に焼き付いて離れなかった。あの絶望の淵で、私を繋ぎ止めるものは何もなく、ただ桃太郎の鎖に引かれるまま、地獄の果てまで歩む覚悟でいた。
そんな私に、一筋の光を差し伸べてくれたのが、雉だった。彼女は、私の耳元で、震える声で囁いた。「ここから、逃げよう」と。その言葉は、私にとって、もはや忘れかけていた「希望」という感情を、微かに呼び覚ますものだった。私は、あの時、自分一人では、決して逃げ出すことなどできなかっただろう。桃太郎の「恐怖」は、あまりにも深く、私の魂にまで食い込んでいたからだ。だから、雉には、今も、そしてこれからも、感謝しかない。彼女がいなければ、私はきっと、あの狂気の旅の果てに、無残な最期を迎えていたに違いない。
私たちは、桃太郎の呼び止めを背に、必死で走った。振り返らなかった。振り返れば、あの瞳に再び囚われ、再び彼の道具となる。ただひたすらに、自由という名の、掴みどころのない幻を追いかけて。そして、ようやくたどり着いた人里で、私たちは別れた。わずか数日のことだった。この村で、私が生きる術を見つけ、彼女もまた、それぞれの場所へと飛び立っていった。今、彼女がどこで、何をしているのか、私には分からない。ただ、あの時の彼女の決意を信じ、どうか穏やかに生きていてくれることを願うばかりだ。