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傀儡悲哀(犬)

夜が明ける。猿の呻き声は、朝霧の中に溶け込み、もはや聞こえなくなっていた。しかし、その残響は、私の耳の奥に、深く刻み込まれていた。

桃太郎は、ゆっくりと立ち上がった。そして、静かに、しかし、有無を言わせぬ絶対性を帯びた声で、私に命じた。

「犬よ。」

私の全身は、凍りついた。その声が、私の運命を決定づけるだろうことを、私は本能的に理解した。

「猿は、捕らえられた。そして、おそらく、多くを語らされるだろう。それは、この旅の妨げとなる。」

桃太郎の言葉は、まるで氷の刃のように、私の心を切り裂いた。彼は、猿の苦痛に、何の感情も抱いていない。ただ、それが「妨げ」であると、機械的に判断しているだけなのだ。

そして、彼は、私の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳は、底の見えぬ深淵を湛え、私の魂の奥底まで見透かすかのように、冷たかった。

「お前が、猿を始末してこい。」

その命令は、私の耳には、雷鳴のように轟いた。私は、息をすることもできない。猿を、始末する?この私が?私の、かつての仲間を?

「彼を、安らかに解放してやれ。」桃太郎の声は、微かに、しかし確かに、慈悲と、そして冷酷な論理が入り混じっていた。「我らの旅のためだ。」

私は、その命令に、抗うことができなかった。私の身体は、恐怖によって、完全に硬直していた。桃太郎の眼差しは、私を、まるで透明な鎖で縛り付けているかのようだった。私の足は、私自身の意思とは無関係に、一歩、また一歩と、猿が捕らえられたであろう方角へと踏み出した。

その時、私は、悟ったのだ。

この一行において、私は、桃太郎の意志を、恐怖によって絶対服従させられる存在なのだと。猿は、桃太郎の「自由」に狂信的に心酔し、自らの手で罪を犯した。雉は、桃太郎の「魅力」に抗えず、その身を捧げた。そして、私は。私は、桃太郎の「恐怖」によって、彼の意のままに動かされる、ただの道具に過ぎないのだ。

私の魂は、絶望の淵へと沈んでいった。この血塗られた旅の果てに、私に残されるものは、一体何なのだろうか。私は、夜明け前の闇の中、猿が捕らえられたであろう場所へと、重い足取りで向かっていく。私の足は、もはや私自身のものではなかった。それは、桃太郎の鎖に繋がれた、獣の足だった。

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