猿の悲鳴(犬)
血塗られた食料調達の日々は、続いていた。猿は、もはや躊躇することなく、闇夜に紛れて人里を襲い、血の臭いを纏って戻ってきた。その瞳は、以前にも増して虚ろで、そこに宿る狂信的な光は、私を怯えさせた。奴は、桃太郎の命令を、呼吸をするかのように自然に受け入れる。殺戮が、奴の日常になってしまったのだ。
ある夜のことだった。猿が食料を求めて闇に消えてから、いつもより時間が経っても、戻ってこなかった。私は、胸騒ぎを覚えた。しかし、それを桃太郎に告げる勇気はなかった。雉は、桃太郎の隣で、相変わらず夢見心地にうつむいている。
そして、夜半、遠くから、獣の、いや、人間の、絞り出すような悲鳴が聞こえた。それは、猿の声だ。私は、全身の毛が逆立つほどの戦慄を覚えた。悲鳴は、途切れ途切れに響き、やがて、呻き声へと変わった。その呻き声は、苦痛と、そして底知れぬ絶望に満ちていた。私は、それが、拷問の声であると悟った。猿は、捕らえられたのだ。度重なる殺人、そしてその裏に隠された何かを探ろうと、人間どもが、奴を責め立てている。
桃太郎は、静かに座っていた。その瞳は、闇の中で燐と輝き、外から聞こえる猿の呻き声に、何の感情も動かさない。雉は、その頭を彼の肩に寄せ、怯えたように身を震わせている。しかし、桃太郎の表情は、まるで遠い星を見つめるかのように、平静だった。




