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恐怖の鎖(犬)
旅は、もはや意味を失っていた。鬼を討つという大義は、私(犬)にとって、あの男の狂気を覆い隠す薄っぺらな幕に過ぎなかった。桃太郎は、その瞳の奥に、善も悪も飲み込む深淵を宿し、私たちを、ただ己の意のままに操る。猿の血塗られた手、雉の虚ろな瞳。彼らは、桃太郎の光によって魅入られ、その闇に沈んでいった。私は、その全てを冷めた目で見ていたはずだ。しかし、この足は、この足だけは、彼の後を追うことを止められない。
あの夜以来、私の中で、桃太郎への疑念は、もはや抗うことのできない恐怖へと変貌していた。彼は、私の心の奥底を見透かすかのように、時折、私に静かな視線を向ける。その眼差しは、私を、まるで透明な牢獄に閉じ込めるようだった。私は、彼の命令に、いつしか逆らうことができなくなっていた。腹が鳴り、心が飢えても、彼の前に進む足は、寸分も揺らがなかった。私は、恐怖によって、桃太郎という名の鎖に、完全に繋がれていたのだ。




