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とある自粛生活の日常~浦部さんの場合~

作者: ばる

世界的なウイルスが流行し始めて数か月が過ぎた。

仕事はつい昨日辞めたし、時間を気にせず自分の好きなことを好きなだけできる。

こんなにゆっくりできるのは数か月ぶりだろう。

初めは頻繁に元同僚や職場から電話が来てうるさくて仕方なかったが、諦めてくれたのか途端に鳴り止んで今は平穏そのものだ。

家でまったりテレビを垂れ流しにしながら趣味の読書に励む。

テレビでは例のウイルス関連で自粛警察がどうのこうのと、偉そうな人があーだーこーだと論じていた。

自粛警察というワードに引っ張られて昨日の出来事をふと思い返した。


最初の異変は、全ての始まりはマスクであった。

某ウイルスの影響でドラッグストアを初め、ホームセンターやしまいにはコンビニに至るまでマスクの追加入荷をしたいという問い合わせが相次いできたのだ。

次第にそれは、消毒液やカップ麺を初めとする食品にまで飛び火した。

コールセンター勤務の知り合いの話じゃ嵐のような様相だったそうで、通話越しの声は心なしか声に生気が感じられなかった。

私の仕事はお店に商品を運送する仕事だ。

国内で感染者が出始めた頃からだったろうか、店に着くなり店員や客からマスクはまだかと毎回聞かれるようになったのは。

中には「隠し持ってるんだろ!!」等の暴言を吐く人や勝手に荷台に上がり荷物を漁ろうとするものまで出る有様。

現場レベルでこれなのだからコールセンターの惨状は容易に想像できる。

不安になる気持ちも分かるが、こちらも全力を尽くしている。

それでも、無いものは無いのである。

そこから数週間の時が経ち、今やマスクの調達は最優先事項で代わりにDVD等、娯楽品の品入れは月単位で遅れている状況である。

無論寝る間も惜しんで運送はしているのだが、そこまでしても店舗のマスクの在庫はすっからかんのままというのが現実だ。

正直、勘弁してくれと思う。

最後に家に帰宅できたのは3日も前のことである。

相当辛かったが、この国を守るためと思って身を粉にして地獄のような毎日をこなしていった。

昨晩のあの出来事さえなければ今でも、トラックに乗っていたことだろう。


それは突然の出来事だった。

とある物産館の駐車場で少しだけ空き時間ができたので仮眠を取った後、仕事を再開すべくトラックを発進させたのだがどうもトラックの調子が悪い。

速度が出ないしコントロールにも違和感がある。

何か起きてからでは遅いため、やむを得ず直近の駐車場でトラックを止めて異常がないか調査することにした。

するとどうだろうか?

外装にいたるところに「ウイルスを運ぶな」「この町から出ていけ」等心もとない落書きがされているではないか!!

それだけではない。タイヤがパンクしているのである。

中の荷物を漁ろうとしたのだろうか、荷台の扉が一部歪んでいるのが見えた。

噂の自粛警察に見事にやられてしまったようだ。

当然ながら仮眠する前はこんな風にはなっていなかった。

おそらくは、仮眠している隙に事を行ったのだろう。

それにしてもである。

この情勢と職業柄、日常的にこの手の罵声は浴びせられるのが日常となっていたが、(それはそれで問題だが・・・)

こんなことは初めてだった。

これはあまりにも酷い仕打ちではないだろうか?

こっちは色んなものを犠牲にして、感染するリスクにおびえながらそれでも国を守るためとここまでやってきたのだ。

その結果がこれなのか?

私はこんな連中の為に必死で働いていたのか?何ともばからしい。

表現しきれないほどの怒りが私を包み込んでいった。

そこから自分が何をしたのか、会社に一報を入れたのかすら覚えていない。


気が付いた時には自宅のベッドに横たわっていて、携帯を見てみると退職する旨のメールの送信履歴と大量の着信履歴があるのみであった。

昨日までの私であれば、慌てて各方面に事情の説明とお詫びの連絡を入れていたのかもしれないが、

最早そんな気力は残されてなく、むしろやっとあの地獄のような日々から解放されるのだという解放感で満たされるばかりであった。

久しぶりのまともな休日である。

しかも当分の間は毎日が休みである。

何をしようかと悩んだ末、もう数か月も放置していた読みかけの小説を手に取った。

久しぶりの読書だ。否応なしに気分が高まる。

先ほどから携帯の着信音がやかましい。

相手にするのも面倒なので窓から放り投げてやった。ざまみろ。

急に音がなくなるのもさみしいのでBGM代わりにとテレビの電源を入れた。

素晴らしい新しい日常の始まりを祝うかの様に小鳥たちの歌声が大空に響いていた。


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