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22歳の羅針盤

 僕は大学を卒業してからというもの、常に心に虚を抱えている。


 つまらない、


 寂しい、


 これから先どう生きればいいのかわからない、


 そんな不満や不安を抱えている。


 それはまるで無人島に一人で暮らしているようだった。


 そこには食べるものや飲むものがあり、しばらく飢えることはないけれど、島に住むのは僕一人。


 辺りは見渡す限りの海で、地平線まで何も見えない。


 だから島の食料を毎日少しずつ減らしながら、僕は浜辺に一人佇むことしかできない。


 大学を卒業するまではまだよかった。


 決められたカリキュラムがあり、卒業論文があり、就職という大きな目的があった。


 毎日ではないけれど、会って話す友達がいたし、所属するコミュニティがあった。


 だけど、就職に失敗して無職になってから、僕は生きる目的を、所属するコミュニティを失い、心にぽっかりと穴が開いてしまった。


 今、僕は仕送りを貰いながら大学時代に住んでいたアパートで暮らしている。


 両親は働かない僕に何のプレッシャーも与えない。


 「あなたの好きなようにすればいい」と言った。


 だから僕は衣食住に不自由することなく暮らせている。


 それは正直に言って心地良かった。


 毎日好きな時間に起きて、好きな時間に寝られるのだから。


 だけど、それは苦しくもあった。


 そう、

 

 永遠なんてない、


 天国なんてない。


 親がいなくなれば僕を守ってくれる存在はなくなる。


 島は沈み、海のど真ん中に容赦なく放り出される。


 そこではイカダも浮き輪もなく、どこに向えば陸地があるのかもわからず、僕は静かに溺れ死ぬ。


 嫌だ、海の真ん中で人知れず死んでいくのなんて耐えられない。


 僕はこの島から出たい、この偽物の天国から逃げ出したい。


 でも、どうやって? 


 連れ出してくれる大人はいない、


 行き先を示してくれる羅針盤もない。


 温かく沈みゆく島で黄昏の空を眺めながら、僕は世界の終わりを待つことにした。

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