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王城への到着



「リディアナ様!!!」


顔を上げると、ウィルバートがこちらに駆けてくるのが分かる。彼は少しの汗を掻き、慌てた様子でこちらに走って来ていた。


「お怪我はありませんか?」


「えぇ、貴方は?」


「私もありません。」


怪我が無いと言った私の言葉に安堵するかの表情をし、本当だろうかとサッと私の全身に目をやるウィルバート。


「大丈夫よ。本当に怪我なんてしていないから」


もう一度、怪我をしていない事を伝えると、再び安堵の表情をした。


「それよりも、部下達の手当てをしてあげて。命に関わる様な重傷者はザッと見て居ないようだけど、怪我をしている者は多いはずよ。」


「ーー!!ありがとうございます。怪我の処置をし、その後すぐに出発できるよう準備致します。リディアナ様は馬車の中でお待ち下さい。」


ウィルバートは自然に私に手を差し出し、それに私も応えると、自然に馬車まで誘導してくれた。地面に伸びている男達を避けながら歩いてくれる姿はやはり、気遣いのできる立派な騎士だな、と感じてしまった。


「では、こちらでお待ち下さい。すぐに濡れたタオルやリディアナ様のお鞄をお持ち致します。」


私を馬車に案内すると、私が身支度を整えられるようにと、鞄やタオルを取りに出て行った。何で鞄?と、最初は思ったけど、鞄の中には化粧道具や櫛などの宿泊する為に必要な身支度セットが入っていたので、有り難かった。ウィルバートは今朝の宿での私の様子を見ていたから、鞄があった方が良いと判断したのだろう。


私は少ししてから、馬車に戻ってきたウィルバートから慣れタオルと鞄を受け取ると、顔や髪に付いた返り血を拭き、拭いた事によって軽く落ちてしまった化粧を直した。


しばらくすると、怪我人の人数の確認や賊の拘束、手当てを終えたらしいウィルバートが馬車に戻ってきた。


「リディアナ様、ありがとうございます。部下の手当てが無事に済みました。貴方様のおかげで命に関わる重傷者もおらず、皆軽傷です。」


「そう、それなら良かったわ。」


「ですが、護衛の身でありながらリディアナ様を守る事が出来ず、ましてや一国の姫に戦わせてしまうなど、本当に申し訳ありませんでした。」


謝るウィルバートは、私に頭を下げ、その目は本気で謝ってくれているように見えた。だけど、私の感が当たっていれば、この馬車が襲撃される出来事は仕組まれた事だと思う。だから、ウィルバートは私が襲われる事を知っていたと言う事だ。何が目的なのかは分からないが、仕組まれた事で無いと説明が出来ない程、不可解な出来事が多かった。


緊張したような表情に、手加減していただろう騎士達。それに、私の馬車に近づく事ができた男。戦ったであろう気配が全く無いウィルバート。


(それなのに、どうして謝るのだろうか?)


グランバルト皇国が何を目的として私を襲わせたのか分からない。攫わせるのが目的だったのか、傷物にでもするのが目的だったのか。しかし、もし王城に向かう途中の馬車で私に危害が及べば、アイルバーン王国とて黙っていないだろうし、それよりもグランバルト皇国の信用が地に落ちてしまうのに。


「それに、ドレスが………」


「ドレスを裂いたのは、私が勝手にやった事ですし、気にしなくても大丈夫ですよ。」


確かに、ドレスは悲惨な状態だった。黄色の可愛らしいドレスは、肩までざっくり開きデコルテが強調されるような女性らしいドレスだったのだが、所々に血であろう血液が付いており、それがドス黒く変色していた。そして、ドレスの下は私が裂いたから、見るも無惨に破かれ、そこからは糸がほつれ綺麗とは言い難い現状であった。


確かに、このドレスで皇帝陛下や皇太子に挨拶をするのは、気が引けていた。馬車が襲われたのはグランバルト皇国が原因ではあるのだが、こんなボロボロのドレスを着た状態では第一印象が最悪な物になってしまうだろう。


「ですが、リディアナ様が戦う事になったのは、私達の責任ですし、このまま進んでも、王城に到着するのがきっと遅くなるかと思います。なので、今日はリシャール様にはお会いにはならず、明日改めてご挨拶ができるよう準備を整えておきます。」


「それは、助かるわ。ありがとう。」


私のドレスへの懸念が伝わったのだろう。ウィルバートの提案は嬉しかったし助かった。


「それにしても、リディアナ様は、とてもお強いんですね。グランバルト皇国には、女性が戦う文化は無く、女性騎士すら居ないので私も含めて他の騎士達もとても驚いてしまいました。」


「あら、そうなの?」


「はい。アイルバーン王国では普通なのですか?」


「んー、普通では無いけど、女性騎士もいるわよ。剣術を学ぶ機会は無いけど、私は体を動かすのが好きだったから、たまに騎士と手合わせをしていたの。」


「そうだったんですか。剣術の指導は誰に?」


「騎士団長や兄に指導してもらったわ。」


「そうですか……でも、それにしても」


やはり、指を顎に当てて何か考える素振りをしているウィルバート。私の戦い方に疑問を持っているんだろう。なんせ、私の戦い方は騎士の戦い方とは異なるからだ。だから、騎士に習ったという私の言葉を疑問に思っているのだろう。だからと言って、「前世が暗殺者なんです」なんて言えば怪訝な表情をさせるのは分かっていたし、「こいつ大丈夫か?」「何、言ってんだ?」と変人扱いされるのが目に見えている。


「私は元々、身体能力が高く、アイルバーンで女性らしい戦い方を指導してもらって、自分なりに戦い方を見出したんですよ。」


そう言えば、ウィルバートも納得したように「そうなんですね。」と、納得してくれたようだった。グランバルト皇国に女性が戦う文化は無いと言っていたし、それなら女性が戦っている姿もあまり見た事がないんじゃないかなと思った。私の嘘で、もしかしたらアイルバーンの女性騎士の戦い方なんだろう、くらいには思ってくれたかもしれない。


それから少しして、馬車が出発した。先程の賊は、この辺りの騎士団に任せるとの事だった。





***




「リディアナ様、もうすぐでの王宮に到着致しますよ。ここは、もうグランバルト皇国の王都内です。」


確かに外からは人の声などがたくさん聞こえるようになった。街人は、王族用の馬車と分かるのだろう、それまでは「皇太子様かな」「陛下かもしれないよ」など、中の馬車に誰が乗っているか話す声が聞こえていたのだが、馬車が近付くと誰も喋らず、頭を下げている気配すら感じた。余程、敬われているのか、それとも恐怖からなのかは分からないが、馬車が通ると辺りは誰も言葉を発さず、静まり返っていた。


(アイルバーンでの王族の扱いと全く違うのね。畏怖する対象って感じかしら?)


「リディアナ様、到着致しました。どうぞ。」


しばらくして、ウィルバートから声が掛かる。ウィルバートが差し出す手に、軽く手を添えながら馬車を降りる。


「うわぁー。凄い。」


目の前にはアイルバーン王国よりも遥かに大きい王宮が見えた。城には五つの塔があり、それがより豪華で立派なイメージを与えた。全体的には、白くて綺麗な外観だが、屋根だけは全て紺色で揃えられていて、それがまた上品でもあった。


周りは綺麗に整えられた芝生に木、それから花のいい匂いまでするのだから、どこかに花園や温室などがあるのかもしれない。少し離れた所には立派な噴水まで見え、とても立派な庭園であった。


冷酷冷酷な皇帝陛下と皇太子って聞いていたから、庭園には興味なんて無いのかと思っていた。それが、花の匂いまでするのだから驚いた。意外花が好きだったりするのだろうか?それとも、皇帝陛下の妃や愛妾の方が好むのだろうか?


「では、リディアナ様のお部屋にご案内致します。」


ウィルバートが私の先を歩くのでそれについて行く。


(他国の姫が嫁いで来たのに、お出迎えすらないなんて、やっぱり歓迎はされてないのかしら?)


「あれがアイルバーンから来た人質姫ね。」

「人質として敵国に売られるなんて可哀想なお姫様ね。」

「でも、剣姫なんていう野蛮な噂もあるんでしょ?」

「あの弱小國で剣姫なんて呼ばれてるくらいだもの。大した事ないんだわ。」

「どうせ、ただの妃という名の人質よ。」


私達が歩いていると時折、侍女が陰口を言っているのを耳にした。その内容全てが私を不快にする内容であり、思わず顔を顰めてしまう。


「リディアナ様、申し訳ありません。」

「いいのよ。こうなる事は分かっていたもの。」


申し訳なさそうに謝るウィルバートに再度、「大丈夫よ。」と言って安心させる。


それからも王宮内では、騎士や侍女と何度もすれ違った。アイルバーン王国の騎士や侍女の対応とは全く違い、端に寄る事は無く、すれ違い様にお辞儀をしてくれるだけであった。


それも、私の存在は無視で、ウィルバートに対してのお辞儀だけであった。中にはチラッと私を見てから睨む者までおり、少しドキリとしてしまった。


そして大抵、破れたドレスを見て驚くのであった。


「こちらがリディアナ様のお部屋でございます。」


ウィルバートの声で視線を向けると、王族用の居室があるとは思えない、少し殺風景な扉があり、その周りも殺風景な廊下が続いていた。


「ここは、王族区域なの?」


「……えっと、ここの部屋は違います。すみません。リディアナ様にはこちらの部屋をと、リシャール様からの指示でして」


「そう。」


普通であれば、王族は王族専用の王族区域スペースに部屋があるはずだ。王宮には常に色んな人が出入りするし、一般区域と王族区域を分ける事で、暗殺者などから、より厳重に身を守れるようにしてある。それは、グランバルト皇国でも例外ではない筈なのだが


ウィルバートが開けてくれた中を見ると、部屋はそれなりには広くて安心したが、その部屋は一国の王女の居室とは言い難い至ってシンプルな居室だった。


「リディアナ様のお荷物は、既に騎士によって室内に運ばれていますのでご安心下さい。では、もう今日はゆっくりとお過ごし下さいませ。また、明日お迎えにあがります。失礼致します。」


ウィルバートは簡潔にそれだけ言うと扉の前で一礼して部屋を出て行った。


部屋の中は、アイルバーン王国での私の部屋の半分程の広さではあったが、ベッドは天蓋付きでそれなりに大きくクイーンサイズくらいの大きさはありそうだった。


ベッドから離れたところには三人掛けのソファが一つと一人掛けのソファがテーブルを挟んだ状態で置かれており、壁際には白色のチェストが置かれている。この部屋は3階でそれなりの高さがあるが、外から侵入されそうな箇所をチェックし、部屋の中を念入りに見て回った。


この部屋にある3つの扉にはそれぞれ、浴室やトイレ、それに衣装部屋があったので、アイルバーン王国から持参した自分のドレスや他の荷物をそれぞれ片付けた。



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