タイトル未定2024/09/08 09:01
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「リディアナ嬢は見つかったか!?」
「いえ!まだです!」
「っくそ!!」
近衞騎士やウィルバート、エリックが付近を隈無く探しているのを見ながらイライラした感情を隠すさず、それが言葉に出てしまう。
男の後ろを歩くリディアナから少し距離を取り、見失わないように三人で歩いていたのだが、男とリディアナが角を曲がり、それに続いて急いで角を曲がるとその先にはもう、リディアナの姿は見えなかった。
急いで三人でその先の道を手分けして探したのだが、一向にその姿を見つける事は出来ずに、見失ってからもう一時間が経過しようとしていた。
(きっと、時間的に薬を嗅がされて攫われてしまっただろ。)
だけど、それは元からの計画だった。問題はリディアナの姿を俺達が見失ってしまった事である。きっと、向こうも俺達が見失った事に気付いているだろう。
(何処で居なくなった?確かに俺達とリディアナ嬢の距離はあったが、薬を嗅がせて攫える程の時間は無かった筈だ。)
「リシャール様!南の通路にいた複数の通行人に話を聞きましたが、南の通路には誰も通っていないようです。」
エリックが珍しく額に汗を掻きながら報告に来る。
「そうか。北側の通路はどうだった?」
「北側の通路ならウィルバートが見に行ってますが、通行人はほとんどおらず今、付近を捜索中です。」
「私は西側を捜索している騎士達と合流して来ます。」
エリックが去って行く後ろ姿を見ながら、リディアナが消えた通路を眺めていた。
(あの時、囮をやりたいという提案を許可しなきゃ良かった。)
提案をされた時に危険だからと断ったのだが、他に行方不明者を探す案が無かった為、やむを得ず許可を出したのであった。
いまさらそんな事を思ったって遅いのだが、思わずにはいられない。そんな後悔が押し寄せる。
ふ、と脳裏にリディアナ嬢の笑顔や綺麗な瞳が思い浮かぶ。
(リディアナ嬢に何かあったら許さない。)
ふ、と自分がそんな事を思っている事に驚いた。まさか、自分が女性に対してそんな事を思うとは…………。確かに、リディアナ嬢に興味を抱く自分には気付いていた。
「殿下の瞳って綺麗ですね。まるで、ルビーのようにキラキラしていて宝石みたい……」と言われた瞬間、本心で言われたような綺麗な瞳に魅入られて思わず戸惑い、そんな自分を誤魔化すかの様に押し倒してしまった。
今まで俺の瞳を「綺麗」という者は多くいたが、それは私に気に入られようとする者達の汚らしい言葉ばかりだった。だから、リディアナ嬢のあの無垢で汚れを知らなさそうな綺麗な瞳を見た瞬間、自分の中で何かが崩れ、咄嗟に誤魔化すかのようにリディアナ嬢の上に馬乗りになっていた。
俺の瞳を綺麗と言ったのは、他の令嬢と同じように気に入られる為の言葉だと思いたかったのかもしれない。だから私に押し倒されれば、今までの令嬢達のように悦びに満ちた期待が篭った顔が見られ、他の令嬢達と一緒である事が分かるかもしれない。そんな咄嗟の思いからの行動だった。
自分の容姿が憎い。あの、皇帝陛下に似ているとされるこの顔が、瞳がとても嫌いだった。だから、どんなに容姿を褒められても何も心が動く事は無かった。瞳を褒められてもその真意が分かってしまう相手の言動と行動に嫌気が差していた
。
容姿が似ている俺を敬い、恐れ、従う貴族連中も。整った容姿に見惚れ、俺の容姿しか見ない女性達にもうんざりだった。だから、何の感情も顔には出さず、やり過ごす事ができていたのに。
あの自由でしっかりと自分の意志を持ったリディアナ嬢を見ていると羨ましくさえ思った。
(何で俺は、こんなにリディアナ嬢の事を考えているのだろう。)
リディアナ嬢の安否が分からず、苛立つ思いと焦燥から部下達が怯える気配がしているがそんなものに構ってはいられなかった。
もう何度目だろうか、リディアナ嬢を見失った通路をたった一人で何度も往復して歩く。皇太子である私がこの辺の地理に詳しい訳もなく、近衞騎士が付近の住人に話しを聞いて回っている。
(あそこに落ちているのは何だ?)
ふ、と白色のゴミが落ちているのが目に入った。側に寄り、そのゴミを手に取って広げてみると、微かに湿っているが、「クレープ」と文字が書かれ印字されていた。
(これは、クレープの包み紙か?そして、リディアナ嬢が握っていたものを咄嗟に捨てた?で、あるならもしかして)
リシャールは、そのゴミが落ちていた周囲を隈無く捜索した。何か手掛かりがあるかもしれない。そんな期待を込めていた。
(……これは?)
壁に一筋の縦線が入っているのに気付いた。これは、線というより隙間?なような。
(これは、もしかして……)
咄嗟に壁を片手でおもいっきり押してみる。すると、ギギギギと音と共に壁が動き、クルリと回るような動きを見せた。その中に咄嗟に体を滑り込ませて中に入った。
中は暗く、人の気配は無かった。先程まで外にいたせいか暗闇に目が慣れないな、と思いながらも少しずつ歩を進めた。
(これは、隠し通路だな。続いている先は王城だろうな。まさか、こんな所にも続いていたのは知らなかった。一応、隠し通路は全て把握しているつもりだったが……)
グランバルト皇国の王城にはいくつかの隠し通路がある。それは、もし城が攻め込まれた際に王族が逃げ出す為のものだ。だから、街にはいくつかの隠し通路の出口があるのだ。普段は出口を塞いでいるから街の者達はそんな通路がある事にすら気付いていないだろう。
だが、ここの通路はよりによって人攫い達によって悪用されていた。それは、行方不明者が見つからない訳だ。まさか、こんな所に居たなんて誰が考えるか。
片手を壁に付きながら、壁沿いにそのまままっすぐ進む。
まだ、人の気配は全く無いから、まだまだ先なのだろう。リディアナ嬢を心配する気持ちから足早になる。
まだ辺りは暗く、目も慣れていない。だが、隠し通路であるならいつかは灯りがあるはずだ。ここの通路を行くと何処に出るのだろうか。隠し通路の中の地図を思い出しながら先を急いだ。