第1話 プロローグ(大改編)
「潮時かもしれぬな……勇者はよくやってくれた。可哀そうな事にはなってしまったが……許せ。……じゃが封印が解けそうじゃ。……次はわしも覚悟を決めようぞ」
朧気な、よく視認できないような空間で老人が独り言ちる。
彼『創造神』はやや斜め上を見上げ、映し出されているいくつかの世界に目を向けた。
「……あの世界は守らなければならぬ。何を犠牲にしても……それだけは譲れぬ。たとえ恨まれようとも。……ん?来訪者?!……ふむ。久しいな。……強い感情だ……」
老人は手に持つ杖を軽く振る。
たちまち人のような靄が湧き上がってきた。
「えっ?どこ、ここ……っ!?お父さん?お母さん?どこっ!?」
靄だったモノは姿を形成する。
どうやら若い女性のようだ。
「あああ、お父さんっ!!お母さんっ!!!………やっぱり死んじゃったんだ……誠……ああ、誠っ!!ああああっ、ああああああああっっ、うああああああああああああ!!???」
泣き崩れる女性。
強い感情の波が体から幾重にも沸き上がっていく。
「ふむ。凄いな。……お主、名は何という」
「………えっ?………お爺さん?」
女性はキョトンとする。
顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「とりあえず自己紹介しようぞ。わしは創造神。すべての世界を作りし者だ。所謂神様じゃの」
「創造神……様!?……あ、あのっ、お願いします。誠に、彼に会いたいです。何でもします。お願いしますっ!」
土下座する女性。
彼女の心は驚くほど真直ぐだった。
愛する相手なのだろうか。
ただひたすらに『誠』という男性を想っている。
置かれた状況や自分の事を全く考えずに。
おもしろい。
創造神は思った。
普通自身の状況を考えるのが当たり前だ。
だが目の前の女性はただ誠という男性に会いたいと懇願するのみ。
清々しいほどに。
「ふむ。そんなにその誠という男性に会いたいか。良いじゃろう。お主の心意気に感服した。チャンスをやろう。お主転生せい。そしてその世界を救え」
「えっ?転生?………あ、あのっ、やっぱり私、死んだのですか?お父さんとお母さんは……」
「ふむ。事故じゃな。残念ながらお主の両親はすでに輪廻の波に導かれた。機会を得て新たな命としてどこかの世界で誕生するであろう」
女性は呆然と立ち尽くした。
ショックなのだろう。
創造神は数えきれないくらいこういう状況を見てきていた。
女性は真っすぐ創造神を見つめる。
「分かりました。その異世界、救えるよう頑張ります。お父さんとお母さんはまたいつか新たな人生を送れるのですよね?なら、私は自分にできることを精いっぱいやります。そして誠に会う」
「ほっほっほ。うむ。良い決意じゃ。ならばいくつか情報を与えよう。お主が行く世界は『レルガリーム』という世界じゃ。剣と魔法、そしてモンスターひしめくいわゆる『ファンタジー世界』じゃな。……そうじゃのう。わしとの賭けじゃから『ずる』はなしじゃ。せいぜい頑張るとよい」
創造神は杖を振るう。
女性の体が光に包まれた。
「その世界の言語を理解するスキルを授けよう。それからお主は王国の姫に転生させる。因果を無視した褒美じゃからな。所謂チートは授ける事が出来ん。あとはお主次第。……それでもやるか?」
「やります」
即答する女性。
創造神は嬉しくなる自身の心に驚きを隠せずにいた。
「ほっ、即答とな?ふふふ。ああ、お前たちのような者がこの世を変えるのかもしれぬな。おっと、そうじゃ。まだ名を聞いておらんかったな」
女性は光に包まれながら真っすぐ創造神を見つめる。
「真琴。諸山真琴です。……誠は幼馴染で大好きな人です」
女性は消えていった。
※※※※※
「おいっ、どうしたっ!?はやく、ポーションを持ってこい!!……くうっ、ニーナ様、ダメだ、死ぬな……あなたはまだ成し遂げていないっ!……ぐう、神よ!!どうか、どうか…奇跡を!!」
倒れ伏すこの国の第一王女ニーナ・ルアナ・フィラリール。
彼女は隣国であるザスルト王国との停戦協定を結んだ帰りに、何者かにより襲撃を受け瀕死の重傷を負っていた。
雨の降りしきる中、まるで命が無くなるかのように熱を失っていくニーナ。
抱き起こし必死に声をかけていた近衛兵長リギナルドは歯を食いしばる。
今回の公務は極秘だった。
フィラリール王国は今力を持つ貴族院に牛耳られ、まさに民たちは混乱の最中で苦しい日常を余儀なくされていた。
貴族院の首長であるメライダ公爵。
ニーナ姫の叔父にあたる人物だが彼はあり得ないほど強欲だった。
「おいっ、どうした?返事を……ぐうあっ?!!!」
ニーナ姫を抱きかかえる近衛兵長リギナルドの背中に、炎の魔法が着弾する。
その衝撃でニーナ姫を手放し、そしてニーナ姫はガケから転落してしまう。
「ふん。往生際の悪い奴よ。さっき死んでおればこれ以上痛い目を見なくても良かったものを」
そう言い姿を現すローブを纏う男たち。
その先頭の一人がおもむろにフードを上げその顔をさらす。
「っ!?なっ?!!……き、貴様……メライダ公爵の……」
「ほう?まだしゃべる事が出来るか……流石は我が国の近衛兵長。素直に称賛しよう。……まあ二度と会話する機会はないがな」
そう言い手を上げるメライダ公爵軍、軍長の一人アーノルド。
「痕跡を残すな。確実にやれ」
「「「「はっ」」」」
そして紡がれる紅蓮の炎の魔術。
体を焼かれる痛みに悶えながら、リギナルドの意識は闇に落ちていった。
※※※※※
「………うう?……ここ、は??……っ!?痛っ?……うう、呼吸も苦しい?!…かひゅっ?!!」
雨が降りしきる寒い森―――
私はなぜかどこかから落ちてきたように枯れ果てた雑木の枝に体を絡ませていた。
何より私……
大怪我してる?
今だ経験したことのないような痛みに、思わず涙がにじんでくる。
しかもとがった枝が、私のお腹に突き刺さっていた。
どくどくと流れ出る赤黒い大量の血。
これって……
私転生直後なのに死にそうなんですけど?!
かなりパニックになっていると、遠くから誰かの声がし、だんだんと近づいて来た。
助けかな?との期待は一瞬で否定される。
死にそうな私はさらに絶望に包まれた。
「おいっ、いたか?見つけたら好きにしていいそうだ。……どうせ殺すんだ。へへっ、あの姫さん、エロい体してるからなあ。最悪死体でも犯してやる」
ひうっ?!
なに?
私殺されそうになっていて、しかも凌辱されるの?
ねえ、お爺さん、いくら何でもハードモード過ぎないかな?!
『………ね、え…』
突然頭に響く声。
私は思わず呼吸を止め、自身の頭に集中した。
『……にげ…て……ペンダント……魔力…こめ…て』
「っ!?ぺ、ペンダント?…あうっ?!」
ペンダントを探ろうと腕を動かそうとすると激痛が全身を支配する。
どうやら骨が折れているようだ。
『……は…やく……私……けがされ……たく……な…い…』
(私だって嫌だよ?初めては…誠に……って、それどころじゃない!?)
痛みに歯を食いしばり、どうにか動いた左腕で胸元のペンダントを握りしめる。
そして気付く。
私魔力なんて……知らないけど?!!
(ねえ、掴んだよ?どうするの?)
『……あなた?……集中して……私……が……』
(うあ?!!……体が熱い?!!!……ひゃん?!!)
全身を包むかつて経験したことのない暖かい膜の様なモノ。
これが魔力?
そう思った瞬間、私は豪華なベットの上で、さらに襲い掛かってきたあり得ない激痛に意識を手放した。
※※※※※
夢を見ていた―――――
とても甘酸っぱくて、心躍る夢―――
彼が、木崎誠君、私の大好きな幼馴染の誠が、私の告白してくれる夢。
『俺さ……真琴のこと……そ、その……だから里帰りが終わって帰ってきたら……返事聞かせてくれ』
『う、うん』
『うあ、え、えっと……気を付けてな?……じゃあな』
私が死ぬ前日。
小さなころから家族みたいにとても距離が近かった彼。
初めて見る顔を染めて少し怖がっている顔。
私は凄くときめいていたことを思い出す。
会いたい。
私はそう強く望み、深い所へと意識は消えていったんだ。
※※※※※
俺は木崎誠。
22歳。
今はとある地方の田舎で農業関係の仕事に就いて4年目。
どこにでもいる普通の男だ
残念ながら彼女とかはいない。
別にモテないわけじゃないと信じてはいるけど……
ここは俺が高校まで生活していた都市と違い、驚くほど異性との出会いがない場所だった。
高校の時……
まあいいや。
何より今住んでいるばあちゃんの家がある村。
人口よりもシカとかイノシシの方が多い、まさに現代では在り得ない正に秘境のような環境だった。
今日は久しぶりにいい天気になった土曜日。
無趣味な俺だが先輩に薦められて購入した大型バイク。
なぜか心が沸き立ち、つい5年のローンを組んで買った俺の愛車。
俺はまたがり、エンジンをかけた。
俺は多重人格ではないと思う。
でもバイクに乗るとどうしても心が沸き立ってくる。
まあきっと誰しもそういう事はあるのだろう。
俺は深く考えずに、アクセルを捻りバイクを走らせた。
いつもの信号のまったくない無駄に整備された曲がりくねった道路を俺は風を感じながら爆走する。
ああ、サイコー。
この感覚、一度知れば病みつきになってしまう。
気分よくツーリングを楽しんでいた俺の前に、見慣れた250CCのバイクに乗ったやんちゃな高校生の武夫が走り出した。
こちらをちらりと見る。
(またあの小僧か。ったく、この前凹ましてやったというのに)
因みに普段の俺はどちらかと言えばおとなしい方だ。
でもバイクに乗っている俺は、ある意味イタイ、かなりやんちゃな性格に支配されてしまう。
(懲りないねえ)
俺は右手を捻りアクセルを開けて、エンジンの音を感じながら加速する。
もちろん別に競争しているわけではない。
武夫だってそんなつもりはないはずだ。
だけど少し性格の変わってしまっている俺は格下であるバイクより後ろを走ることがなぜかとても気にくわない。
そして一気に加速して武夫をぶち抜いた。
きっとこの時150キロ以上は出ていたのだろう。
だから。
全ては俺自身の責任だった。
※※※※※
これが俺の最後の記憶だった。
いきなり目の前に、見たことない様な美女が出てきた。
そう、出てきたんだ。
何の前触れもなく。
そりゃあさ、俺だってバカかもしれないよ?
ムキになってじい様やばあ様、軽トラックとトラクターしか使わないような道路で、あまつさえ夜なんかは鹿やイノシシがたくさん出てくる道路でさ、150キロ以上出してたからね。
でもさ、いきなり出てくるって何なのよ?
あー、死んだわこれ。
まあ、去年ばーちゃん死んで、今の俺は天涯孤独。
あーあ、詰まんねえ人生だったな。
ワンチャン転生とかしないかな……
あーあ、死んだら……
真琴に会えるかな……
※※※※※
「えっ?……あれっ?…んん?声が変……ふわっ!?」
何が起きた?
えっ?
「いてっ、……肘すりむいて……えっ!?……何この腕……」
俺が倒れている横には大破した俺の愛車が悲惨なことになっていた。
なんか混乱していて思考がうまく働かない。
『ねえ、ちょっと君』
「っ!?……えっ?誰!?……ていうか、さっきの女の人……やべえ、俺…」
『ねえってば、聞こえないのかな?おーい』
俺はあたりを見回す。
そこに武夫がバイクを降りて慌てた顔で近づいて来た。
「だ、大丈夫ですか?……あれっ?誠さん……えっ、うわっ、すげー美人……」
俺を見て変なこと言う武夫。
ん?美人?……俺が?!!
「あっ、おいっ、武夫、さっきの……」
(あれ、俺の声おかしいぞ?なんか女みたいな声……)
明らかに挙動不審になる武夫。
顔が赤くなっていく?
「あー、えっと、大丈夫ですか?その…あっ、俺、この近くに住んでいる柳田武夫って言います」
「いや、知ってるが……あー、うー、……やっぱ声変だ」
「えっと、あ、救急車呼びます?30分くらい来ないけど……」
俺は取り敢えず自分の体を確かめようと立ち上がった。
アレ?
武夫いつの間にお前でかくなった?
俺より小さかったよな身長。
ん……
ん?
ん!?
んんんんん!????
何これ……
なんで俺おっぱいあんの?
俺は無意識で自分の胸にたわわに実っている胸を触れてみた。
『あん♡……ちょっと、こらー、この変態!!あうっ♡』
うわっ、やべえ、柔らかい!?うわー凄いコレ…
はあはあはあ、なんか変な気分になってきた。
「ああん♡」
変な声出た!色っぽい!?
「ひうっ!?な、な、何してんすか!?大丈夫ですか……うわー、えろっ!」
あ、やべっ。
武夫目の前にいたわ。
うん。
取り敢えず落ち着こうか。
俺はタバコを探し胸のポケットをまさぐる。
『あんっ♡こらー、この腐れ変態男!!いい加減にしなさいよねっ!』
えっ?……頭の中から聞こえるこの声って……は?
『もう、私の話聞いてよ!!』
「え、ああ、うん」
なんだか知らないけどどうやらややこしい事になっているみたいだ。
とりあえず帰るかな。
うん。
骨とか大丈夫みたいだしね。
「あー、武夫さ、わりいけど家まで送ってくんね?」
「えっ、いや……誰?」
「……あのさ、木崎誠知ってるよね」
「あ、はい」
「そこまででいいからさ」
「あ、はい」
ふう、どうにかなるかな。
俺は武夫の後ろに乗った。
クソッ、250CCのバイク、せまっ。
しょうがない。
男にしがみつく趣味はないけどやむを得ないよな。
俺は武夫にしがみつき体を密着させた。
危ないからな。
「ひうっ♡……やべー、柔らか♡」
「ほら、早く」
「う、うっす」
取り敢えず武夫に送ってもらい俺は自宅にたどり着いた。
ああ、バイクまだローン残ってるんだよね。
最悪だ。
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