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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
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第40話 使い魔

 目の前で起きた出来事が、しばらく理解できなかった。

 頭が理解を拒絶した、とも言えるかもしれない。


 リツキとノノの戦闘が終わり、そこにナオが現れた。

 シルクがナオを止めようとしたが叶わず、ナオはリツキの胸ぐらをつかんで、なにかを叫んだ。

 そして、なにを思ったのか、リツキを――――刺した。


 そこからはあっという間だった。

 観客席から悲鳴が上がり、リツキを助けようと動き出す者も数人いた。

 しかし、助けの手がリツキへ届く前に、ナオが展開した転移魔法によってリツキはどこかへ飛ばされてしまった。

 魔法陣が消える直前、あとを追いかけるように魔法陣へ飛び込んだトワの姿が妙に印象的だった。


「ちょ、なにしんてんのよっ!」


 最も近くにいるノノが、数瞬遅れて我を取り戻し、ナオを捕らえようと動き出す。

 同時に、シルクもナオの方へと駆けた。

 だが、それらは全て弾かれる。

 ナオの魔力が膨れ上がり、突風が吹き荒れたのだ。

 幸い観客席は、開始の時に張った結界によって守られたが、至近距離でそれをくらった2人はひとたまりもない。

 突風の直撃を受けたノノは、身体を大きく弾き飛ばされ、受け止めようとした大蛇と共に壁に激突する。

 遠目に見ても重症で、気を失っていた。

 シルクは咄嗟に結界で防御するも、破壊され腕に大きな切り傷をいくつも作った。

 意識を失ってはいないが、痛みに顔をしかめている。


「これは、なんなの」


 一連の出来事が受け入れられなくて、受け入れたくなくて、ミオンは、ただただ目を見開いていた。

 闘技場でゆらりと立ち上がる、あれが本当にナオなのかと目を疑う。

 自分の弟子はあんなに濁った瞳をしていただろうかと、記憶を遡った。

 遡って、気づいた。


(私、ナオが最近どんな顔をしていたか、思い出せない……)


 いや、思い出せないのではない。

 正確には、見ていなかったのだ。見ているつもりで、見ていなかった。

 その事実に、愕然とする。


 不意に、ナオが顔を持ち上げた。

 ミオンと視線がパチリと合う。

 ナオが纏う異様な、どす黒い魔力にミオンは息を呑んだ。


 ――――あれは、《《瘴気》》ではないのか。


 それは、魔獣がみな一様に纏っている澱みの象徴。害悪の印。

 そんなものを、なぜナオが纏っているのか、ミオンには、全くもって理解ができなかった。


「し、しょう」


 その時、ナオの口から漏れ出た声にミオンはハッとする。

 呆然とした目でナオを見やれば、ナオのほころぶ口元が見えた。

 今まで、ナオが笑ったところなど、見たことがなかったのに。


「師匠、僕、勝ったよ。リツキに、勝った。僕は、負けてない。ね?師匠」


 違う。違う。違う。

 これは、違う。


(私が望んだのは、これじゃない!!)


 ミオンは泣きそうになりながら、絶望しそうな気持ちをギリギリで繋ぎとめていた。

 なにか、なにか、あるはずだ。

 ナオをこんな風にした元凶。ナオを、戻す方法が


「あなたは、こんなことがしたかったの?ミオン」


 頭上から響いた声に、ミオンはピタリと動きを止める。

 間違いない。聞き間違えるはずもない。

 なにせこの声は、50年ほど前、嫌というほど聞いてきたのだから。


 ゆっくりと視線を上げれば、予想通りの人物が、薄紫の長髪をなびかせ浮いている。


「マノン……」


 ”元”最強魔女マノンが、ミオンのかつての師匠が、そこにいた。


 〇〇〇


 クソクソクソクソクソッ


 トワは空中でなんとかもがきながら、どうして自分がこんな目にあっているのか逡巡した。


 先ほどリツキは、勝負に負けた。第2試合で、ノノと戦って負けたのだ。

 そこまでは、いい。そこまでは、理解できる。

 だが、そこからが、理解できなかった。


 唐突にナオが現れ、リツキを刺し、転移魔法でどこかへ送ろうとした。

 そしてトワは、反射的にリツキを追いかけ、魔法陣へ飛び込んでしまったのだ。


(なんっで俺は、あいつを助けようとしてんだよおぉぉおおおお)


 救えないのは、考えるよりも先に身体が動いてしまった、という点だ。

 これはまずい。これはいけない。これでは、言い訳ができない。


(って、今は、そんなこと考えてる場合じゃねええええ)


 トワとリツキが転移魔法でどこへ飛ばされたか、といえば、”還らずの森”の上空だった。

 ようするに、現在進行形で自由落下を体験しているのだ。

 このままでは、トワとリツキはそろって地面に激突し、2人は仲良くお陀仏である。


(クソがあ゛あ゛あ゛あ゛)


 トワはまず、リツキの位置を視認した。

 そして、なんとか空中でもがいて、リツキの身体に前脚を伸ばす。

 必死に伸ばした前脚は、ギリギリのところでリツキに届いた。

 トワはリツキを引き寄せると、自分が下敷きになるように空を見上げ仰向けになる。

 トワのふわふわの腹の上で、ぐったりとしたリツキが横たわっているのが見えた。


(だぁかぁらぁ、なんで俺は、こいつを助けようとしてんだよオオオオオオオオオ)


 トワは内心で叫びながら、来る衝撃に備えてギュッと目を硬くつぶる。

 そして、そう時間が経たないうちに、背に思ったよりも柔らかい衝撃に襲われた。

 トワとリツキが落とされたのは、"還らずの森”の上空。

 所狭しと密集する木と葉が、クッションのような役割をしてくれたのだ――――なんて理解する間もなく、リツキを抱えたトワは、何度か枝葉にぶつかりながら落下していく。

 勢いは落ちているが、一瞬息が出来なくなる程度の衝撃と共に、地面へ叩きつけられた。


「カハッ」


 トワは魔族と獣族の混血だ。身体も人間に比べたらはるかに丈夫。

 それでも、しばらくは痛みで動けなかった。


 やっと落ち着いてきて、トワはそっと腹の上のリツキをおろし、ケガの状態をじっと見つめる。


「やべー、よな」


 ドクドクと、今も血が止まらない。

 身体の下の血だまりがどんどん広がっていって、トワの心臓は嫌な音を立てた。


「クソッ」


 トワはケガの具合を見ようとリツキの服をめくろうとして、狼の姿では不便なことに気がついた。

 周囲を少し見回すが、ここは“還らずの森”。人目を気にすることもないと判断して、人型に変化する。

 久々に人型になった感触を確かめることもなく、リツキの傷に目をやった。


「・・・・・・ひでえ」


 リツキの傷は、控えめに言っても最悪だった。

 横腹に大きな穴が開いてしまっている。到底、助かるとは思えない傷だった。


「チッ」


 トワは回復魔法が使えない。

 なけなしの記憶で、服を破りそれを介して傷口を押さえた。だが、手の下からこぼれ落ちる鮮血が止まることはない。


(あ゛~~~~~~~っ)


 そうこうしているうちに、リツキの呼吸が荒くなっていく。心なしか、顔色もみるみるうちに悪くなっている気がする。


「ハッ・・・・・・ハッ・・・・・・」

「おい!おい、リツキ!!」


 思わずトワが名前を呼ぶと、リツキがうっすらと目を開けた。

 ほんのわずかな希望が見え、トワは勢いよくリツキの顔をのぞきこむ。


「おいっ、リツ・・・・・・っ」

「し、しょ」


 トワはリツキの瞳を見て、もろい希望が打ち砕かれることを感じた。

 リツキの瞳はおぼろげで、どこか虚空を見つめている。意識を取り戻したとは言いがたい。

 トワはなぜか、そんなリツキの姿に胸が締め付けられた。


「し・・・・・・しょ」


 ぴくりとリツキの手が動き、誰かを探しているようにさまよう。

 トワは咄嗟にその手を握った。

 なぜかは分からない。ただ、たまらなかった。悔しくて、リツキを傷つけたナオが許せなくて、グチャグチャの思考の中でただすがるように手を握りしめる。

 トワは、ささやくように、力なく、言葉をこぼした。


「おい、死ぬなよ。リツキ」


 ピクッと、握りしめた手が動く。

 リツキの瞳が、トワを捉えた。


「ト・・・・・・ワ・・・・・・?」


 トワはじわりと目を見開く。

 ガバッと勢いよくリツキの肩をつかんだ。


「リツキ!」


 何秒、視線が交わっていたかは分からない。

 ただ、リツキはトワの名を呼んですぐに、くてんと気を失った。


「おい!おい!起きろ、起きろよ!」


 トワにとって、“死”というものを間近に感じるのはこれで2度目だった。

 1度目は、家族を失ったとき。

 嫌でもその時のことが思い出されて、目の前のリツキと重なる。


(どうしたら。どうしたら・・・・・・っ)


 空回る思考を必死につなぎ止めて、打開策がないか考える。

 その時、ふと、マノンの声が脳裏に響いた。


『いい?リツキ、トワ。よく聞きなさい』

『はい。師匠』

『やなこった』

『トワ!』


 それは、トワとリツキが使い魔の契約を結んですぐのこと。

 マノンが、使い魔の契約を結ぶという意味を教えてくれたのだった。


『使い魔の契約を結ぶとできるようになることはいろいろあるけど、気を付けなくちゃいけないのは2つ。1つ目は、使い魔は主人に危害を加えられないこと。2つ目は――――』


(2つ目、は)


 トワは、リツキの横腹にあいた大きな刺し傷をじっと見つめた。


(いてえだろうな、あれ)


「はっ」


 トワは空気を吐くように笑うと、リツキの傷口に手のひらをそえた。


(まず、俺とリツキの魔力を同調させて)


 トワは目をつぶり、リツキの魔力の流れを感じ取った。リツキの魔力は血と共に大分流れてしまっているらしく、非常に弱々しい。


(それから、俺とリツキの身体を重ね合わせるイメージ)


 トワと、リツキの魔力の波長が完全にあった、瞬間


 ズグリ


 トワは横腹に走った痛みに、脂汗を垂らした。

 それでも、グッと耐えて口元に笑みを浮かべてみせる。


「やっぱ・・・・・・めちゃくちゃ、いてぇじゃねえか」


 痛みに顔をしかめながら、リツキの傷を確かめる。

 先ほどまでリツキの横腹にあって、鮮血を流し続けていた傷は、綺麗さっぱり消えていた。


「ハッ」


 トワはリツキの傷がないことを見ると、耐えきれずに地面に横たわる。

 横を向いてリツキの顔を見ると、ほんのりとだが、赤みが戻ってきているようにも見えた。


(あ゛ー、魔力もちょっと持ってかれた、か?)


 ――――使い魔の注意すべき契約の効果の2つ目は、主人の傷を使い魔に移せること。


(いってぇ)


 トワの横腹には、先ほどまでリツキの横腹にあいていた穴とそっくり同じものができていた。

 リツキの横顔をじっと眺めながら、意識が遠のいていくのを自覚する。


(チッ。なーんでだろうな、リツキが無事でほっとしてる、なんて)


 トワは、自分で自分を笑いながら、ゆっくりとまぶたを閉じる。


(次起きたときしけたツラしてたら、許さねーから、な・・・・・・)


 乾いた風が吹く“還らずの森”に、凍てつくような静寂が落ちた。

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