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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
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第39話 毒

「さあ、ここからは私たちの番よ」


 ノノさんの宣言と、大蛇の攻撃は同時に行われた。

 大蛇はその巨大さ故に、ただ尾を振るうだけでも充分な脅威になる。

 かといって、大蛇だけに意識を向けていると、ノノさんの毒矢がこちらを捉える。

 僕とトワは回避に専念させられた。

 何度か攻撃を試みるも、あえなく失敗する。

 大蛇とノノさんの間から抜け出すこともできずに、防戦一方だ。


(アイス)!」


 前方の広範囲を毒矢もろとも凍らせ、剣でたたき割る。

 毒矢を閉じ込めた氷は、粉々に砕け落ちた。


「よしっ」


 これは発見だ。毒矢は凍らすと無力化できる。

 僕はほんの少しの活路を見出して、ちらりとトワを見やる。


「トワ!」

「ガウッ」

「僕がノノさんをなんとかする。トワはそっちの大蛇をお願い!」

「ガウウ」


 どことなく不満そうなうなり声だが、僕はなんのためらいもなく背中を預ける。

 だが、今のトワは子犬の姿だ。子犬のままで大蛇をどうにかするなど、なかなかの無理難題だろう。

 と、いうことで


「トワ!変身(チェンジ)

「ガウ?・・・・・・ガウ!」


 トワは、みるみるうちに大きな狼の姿に変化した。

 トワは魔族と獣族の混血なので、もちろん姿を変えるのに詠唱などいらない。

 だが、ここは公の場だ。見せかけでも、僕が魔法でトワを巨大化させたようにしたのだ。

 トワもなんとか僕の意図を察して、タイミングを合わせてくれた。

 巨大な狼の姿になったトワは、大蛇との大乱闘を開始する。

 取っ組み合い、噛んだり、引っかいたりの大乱闘。

 大蛇は毒をしたたらせた牙をむいてトワに噛みつくが、トワの皮膚が厚くてなかなか牙が刺さらないようだった。


「あらあら、とんでもない戦いが始まっちゃったわね」

「そうですね。では、こっちもそろそろ始めましょうか」

「ふふっ、いいわね」


 にやりと微笑むノノさんはまだまだ余裕がありそうだ。

 僕は手に氷の剣を、ノノさんは自身の周りに毒矢を構える。

 そして、2人の緊張が極限まで高まったとき


(アイス)!」


 数え切れないほどの毒矢が僕の眼前に迫る。

 僕はそれらをまとめて凍らせ、2つに割って一気に距離をつめる。

 至近距離から毒矢が放たれるが、それらは結界と剣ではじいた。


雷光(ライトニング)


 僕がつぶやくようにした詠唱に、ノノさんはハッと頭上を見上げる。第1試合を見ていれば当然の反応。

 だが、今回は空からではない。

 僕は氷の剣に雷を薄く纏わせ、ノノさんに肉薄する。

 ノノさんが気づいたときには、もう遅い。

 僕は限りなく低い体勢から、剣の腹をノノさんに向かって振り抜く。

 ノノさんは結界で対応しようとしたようだが、それよりも僕の剣がノノさんに届く方が速かった。


「おしまいです」


 僕の剣がノノさんの腕に触れる。

 氷の剣がまとう雷が、ノノさんの身体を貫いて――――


「へ?」


 僕は、目の前の状況が理解できず、ポカンと口を開ける。

 視線を上げれば、口角をつり上げるノノさんと目があった。

 僕の剣は、確実にノノさんの身体に触れている。にもかかわらず、ノノさんは平然とそこに立っていた。


「どうし――――!?」


 ピチョン、と首筋に冷たいものが当たる感覚がしたあと、身体中の力が抜けその場に立っていられなくなる。

 混乱した頭で必死に状況を把握しようとするが、めまいと吐き気、頭痛に腹痛と、目の前がぐるぐる回るような感覚に陥りそれどころではない。


「あらあら、少し手こずっちゃったわねえ」


 ノノさんの声が聞こえて、なんとか首を持ち上げるが、彼女の口が全く動いていないことに気がついて疑問に思う。

 なぜ・・・・・・と思ったとき、僕の目の前に立っていたノノさんの姿がぼんやりとぼやけ、最終的にはかき消えてしまった。


「!?」

「驚いてるわねえ。嬉しいわあ」


 声がしたのは――――()()。僕の後ろから、つかつかという足音とかろやかな声が聞こえてくる。

 そして、全てを理解した。


「げ・・・・・・えい、ま・・・・・・ほ」

「あらあら!分かっちゃったの?すごいわねえ。正解よ」


 つまるところ、僕がずっと戦っていたのは魔法で作り出されたノノさんの幻影だったというわけだ。

 そして、僕が最も隙を見せたときに、姿を隠していた本物のノノさんが僕に毒矢を打ったのだろう。

 勝てるはずもない。僕はずっと、幽霊を相手にしているようなものだったのだ。


「ガウアッ」

「おっと、止まりなさい。ご主人様がどうなってもいいのかしら?」


 トワが僕を助けようと駆け寄るが、ノノさんが僕に毒矢を差し向けたことで動きを止める。

 こんなにも至近距離では、さすがのトワも対応できない。

 打つ手なし。

 試しに回復魔法を施そうとしたが、この毒は特殊なようで、回復魔法が効きにくくなっていた。

 そもそも僕は、そう回復魔法が得意ではない。

 ルネさんならいざ知らず、僕が解毒できるような代物ではなかった。


 僕は一度グッとくちびるを噛みしめる。

 何秒か逡巡して、かすれた声を発する。


「こう・・・・・・さ、し・・・・・・ます」


 僕のつぶやきと、シルクさんが姿を現すのは同時だった。

 シルクさんは僕の様子をうかがうと、よく響く声でそれを宣言する。


「リツキ、戦闘不能!よって勝者、ノノ!!」

 ワアアアアア


 ああ、負けた。

 負けちゃった、なあ。

 じわり、と目に涙がにじんで、それを腕で隠そうとする。

 悔しかった。本気で、悔しかった。

 と、ほんわりと身体が温かくなって、一気に楽になることを感じた。

 ハッとして顔を上げれば、穏やかな表情のノノさんと目が合った。


「解毒の魔法よ。毒使いは、解毒薬もセットで持っておくのが、セオリーなのよ」

「ノノさん」


 僕が身体を起こすと、ノノさんが手を伸ばして立ち上がるのを手伝ってくれた。


「健闘をたたえるわ、リツキ。あなたは今まで戦ってきた中でも、手強い相手だったわ」

「そう言っていただけたなら、光栄です。そういえば、幻影とはいつから入れ替わっていたんです?まさか、最初からではないでしょう?」

「ふふっ。リツキが毒矢を凍らして、防いだタイミングよ。このままではまずいと思って、視界が塞がれた隙に入れ替わって、隠密魔法で潜んでいたの」

「僕の魔法を、利用したというわけですか・・・・・・」


 僕は、まだまだ経験不足なのだと思い知る。

 加えて言えば、ノノさんが入れ替わったタイミングは、トワが大蛇と戦っていた時だった。

 トワの嗅覚で発見されることもない、最良のタイミング。それが、その時だったのだろう。

 僕はどこかすがすがしい気持ちで自分の敗北を受け入れる。

 心からの笑みを浮かべて、今度は僕から手を差し出した。


「ノノさん、僕と戦ってくださって、ありがとうございました」


 ノノさんも微笑み、僕の手を取ろうとして――――僕たちは同時に、ひとつの方向へと目を向けた。

 その方向からは、恐ろしいほどに真っ白な髪をもつ少年が歩んできている。


「・・・・・・ナオ・・・・・・?」


 ナオは、どこかおぼつかない足取りでふらふらとこちらに向かってきている。

 様子がおかしい。それに、闘技場に出てくるにはまだ早すぎる。


「ナオ!まだ、出てくる必要は」

「うるさい」


 シルクさんが止めようとするが、構わずずんずんと進む。

 ナオの肩に触れようとしたシルクさんが、ナオの無詠唱の魔法により弾き飛ばされた。


「うぐっ」

「シルクさん!」

「・・・・・・問題ない」


 さすがのシルクさんは咄嗟に背に結界を張り、衝撃を和らげたようだが、ナオを見て驚いたように目を見張っている。

 ナオは僕の目の前まで来ると、淀んだ灰色の瞳でこちらを静かに見据えた。

 僕も、決して目をそらすまいと腹に力を込める。

 ナオはぶつぶつとなにかをつぶやいているようで、よく聞き取れない。

 僕はなんとかその声を聞き取ろうと、耳をすました。


「どうして」

「え?」

「どうして、負けたんだ」

「それ、は」


 僕は視線をさまよわせる。

 約束をしていたわけではないが、 ナオと戦えないことに申し訳ないような気持ちが湧き起こる。


「・・・・・・僕の経験不足だった。悔しいと、思ってるよ」


 僕の言葉を聞いたナオは、ギリッと歯を噛みしめると、僕の胸ぐらをつかんだ。


「ふざけんな!ふざけんなよ!」

「ナオ」

「僕のことを負かしたくせに、なに勝手に負けてやがる!!」

「・・・・・・」


 僕はグッと胸が締め付けられて、しばらくなすがままになっていた。

 だが、ふと感じた違和感に眉をひそめる。

 不穏な空気、というか。

 瘴気にも似た澱んだ匂いを、第六感とも言える感覚で察知する。


「お前を殺すのは、僕だ」


 ズグリ


 違和感の正体を掴む前に、腹に異様な熱を感じて頭が真っ白になる。

 よろめいてナオから離れ、おそるおそる下を見ると横腹が鮮血に彩られていた。

 最初は点だった紅も、徐々に徐々に広がっていく。


「ヵ・・・・・・ハッ・・・・・・ァ」


 のどから悲鳴にならない悲鳴がもれる。

 視線を上げれば、ナオの手に小型の血に濡れたナイフが握られていた。

 地面には、1粒だけ黒い錠剤が残された小瓶が転がっている。

 ・・・・・・あれは、なんだ?


「――――っ」


 1度意識が大きく遠ざかり、身体が仰向けに倒れていく。

 いろいろな声が聞こえるような気もするが、それも、どこか遠くて。


 僕は重力に従うままに、真っ逆さまに落ちていった。

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